6 朝食
熱したスキレットにバターをひいて、溶き卵を入れる。少しだけそのままおいてから、菜箸でゆっくりとかき混ぜ、片側に寄せて焼き色をつける。
そして瑞々しいレタスをのせた皿の上に、出来上がったオムレツをのせた。
飲み物は、一つは紅茶。自分用にはハーブティー。キッチンの隅に転がっていたレモンをナイフで薄く切って添える。
調理道具を片付けているうちに、トースターがベルを鳴らす。
ローズは慣れた手つきで、一人分の朝食をテーブルの上に並べた。
「はい。有り合わせだけど」
「……」
目の前にオムレツとトーストを置かれた男性は、料理を見てからローズの顔を見た。
「これをあなたに食べさせれば良いのかな?」
「…はい?」
どうしてそんな発想になるのか、本気でローズは混乱した。不味そうだから食べたくない、と遠回しに言われたのだろうか。
不安が顔に出たのか、男性は小さく首を振った。
「食事が一人分なのはなぜ?」
「あぁ、それは…」
思わず苦笑する。
そっと、特別ブレンドのハーブティーが入ったカップを両手で包んだ。
「二日酔い、だから」
いつもなら食欲を誘う香ばしいバターの香りよりも今はレモンの方がいい。
「なるほど。では、遠慮なくいただきます」
そう言うと、彼はフォークを手にした。
向かいの席に座って食事をする男性を見て、ローズは感心した。
食べ方がとても上品なのだ。
マナーもずっと前に学校で習った通りで、お手本のよう。
見た目といい、穏やかな言動といい、これで着ている服が上質なものならば、貴族と言われれば信じる人もいそうだ。
奴隷市場にいたとはとても思えない。
でも、流石に貴族が売られることはないだろう。
それになんとなくだが、この人はながい間奴隷だったような気がする。
「ごちそうさま。おいしかったよ」
考え事をしている間に、男性の食事が終わっていた。見れば、紅茶を入れていたカップも空だ。
「紅茶のお代わりはいる?」
「いいや。これ以上は俺には贅沢だろう」
それに、と彼は続けた。
「もうそろそろ市場が空く頃でしょう?」