5 鍵
「あぁ、金額が知りたければ、証明書みたいな紙を店主から受け取っていたようだけど」
「証明書…」
スカートのポケットに手を入れるが、紙は入っていない。
「テーブルの上じゃないかな」
男性の視線をたどる。
ローズが寝ていたソファのテーブルに、一枚の紙と鍵が置いてあった。
「鍵…?」
魔道具ではない、シンプルな形の鍵だ。
ローズには見覚えがない。
「この鍵は…」
鍵から男性に視線を移し、ローズは続きを言うのをやめた。
彼は何も言わなかったが、その両手に嵌められたのは手錠。当然鍵がかかっている。
「……」
鍵を握ったまま、視線を戻してテーブルの上の紙を見る。
確かに、厚めの上質な紙には証明書と印字されて、数字とローズのサインが書かれてあった。
しかし、受け取って握りしめたのか、シワシワで数字の部分が絶妙に読めない。
1なのか7なのか0の数すらあいまいだ。
「…喉乾いた…」
朝から驚きの連続で疲れたローズは、当初の目的だった歯磨きから始めることにした。
「えぇと、手を出してくれます?」
「はい、どうぞ。ご主人様」
洗面所の扉に寄りかかったままの男性の視線と合わせるべく、ローズも屈む。
差し出された両手をそっと掴むと、手枷の鍵をあけた。
カシャンと金属音がして、手枷が落ちる。
「…良かった。怪我はしてないようね」
手枷は男性の手首の幅と同じくらいだったのだ。少し乱暴に手枷を引っ張るだけで、簡単に怪我をしてしまいそうだと、ローズは心配していたが両手とも傷はない。
床の上に落ちた枷を拾って、鍵と一緒にテーブルの上に置く。
「まずは朝ごはんにしましょうか」