3 どちらでもないローズ
「お…はようございます?」
声に出してから、この言葉はないだろう、とローズは後悔した。
可憐な乙女なら叫び声を上げただろうし、知的な女性なら冷静に対処する。
そのどちらも出来なかった自分にがっかりしつつ、手に持っていたコインをスカートのポケットにしまった。
「えぇと、あなたは何故ここに?」
一応、適度に距離を開けて訊く。
目の前の男性は座ったまま、少し悩んでから答えた。
「…あなたが買ったからですね」
落ち着いた低い声。
言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。
この男性が言うには、自分は何かを買ったらしい。
ゆっくりと部屋を見回したが、特に増えた物はない。
破れてしまってそろそろ新しいものに買い換えたいと思っていたカーテンも、そのままだ。
「…私は何を買ったのでしょう?」
首を傾げたローズに、男性はほんの一瞬冷たい顔になった。
しかし、すぐに美しい笑みを浮かべ、枷を見せつけるように両手を上げた。
「俺を」
「…あなたを」
「はい。よろしくお願いします。ご主人様?」
可憐な乙女だったら気絶しただろうか。
知的な女性だったら、…いや、その前に乙女も知的な女性もうっかり奴隷を買ったりしないか…。
そのどちらでもないローズはながいながいため息をついた。