ちいさな声
「ローズ」
ちいさな声で名前を呼ばれてた。
寝ているかどうかを確かめるかのようなその呼び掛けに、ローズは覚えがあった。
それは、弟が夜にローズを呼ぶ声だ。
怖い夢を見た、トイレに付いてきてほしい、そんなとき、彼はよく囁くように助けを呼んだ。
だからほぼ反射的にローズは目を覚ました。
「…どうしたの?」
ずいぶんと顔が近い。
起きているか確かめようとしたのか、それともローズのベッドに潜り込もうとしたのか…。焦点を合わせるのをあきらめて、ローズはすぐ目の前にあった金髪を撫でた。
「こわい夢でも見たの? それとも、おねしょ?」
それだったら大変だ。
でも、今にも泣き出しそうに呼ぶ声は、きっとおねしょをしてしまったからに違いない。
そう思って、ローズは眠い目をこすって起き上がる。
「大丈夫。証拠隠滅、手伝ってあげるから…」
まずは、風の魔法で…と、考えたところで部屋の景色が目に入った。そこは、慣れ親しんだ子供部屋ではない。灯りを付けたままの、ローズが借りている部屋。
「…」
さらには、目の前にいるのが弟ではなく、今日から助手になったレオンだと気付く。
「…ごめんなさい、寝ぼけてた」
話の途中で寝てしまっていた。
さらには、彼の寝る場所も話してなかった。困るのも当たり前だ。
ローズはあくびが出そうなのをこらえた。
「向こうの部屋、使ってね。向こうの緑色の扉の部屋だよ。クローゼットに毛布もあるから…好きに使って」
レオンはソファの横で膝を付いて座っていた。ソファに横になっているローズと同じ目線だ。
なぜか固まって動かないレオンの頭を再び撫でてみた。
「昨日からあまり寝てないでしょう? ちゃんと寝て」
昨夜はローズが寝ている間、ずっと床に座っていた。その状態で一晩中過ごしていたのだろう。
買われて、再び売られそうになり、結局助手になった。何度も緊張を強いられて、ローズ以上に疲れているはずだ。
「レオン?」
名前を呼ぶと、緩慢な動きで頷いた。
これで一安心だと、ローズは再びソファに横になった。
そのまま眠ろうとしたのに、なぜだか居心地が悪い。
体は泥のように疲れているのに、なぜか眠れない。どうも何か大切なことを忘れている気がした。
レオンは助手で、弟ではない。
そう頭では理解しているはずなのに、弟だと思って目を覚ましたため、条件反射だったのだろう。
子供のころ弟にしてあげていた、おまじないのようなことをしていた。
そっと頬に口づけを落とす。
「おやすみなさい、良い夢を」
これでもう大丈夫。
ローズは満足して眠りについた。




