弟
「やっぱり、パルシェさんの家は明日行くね。今日は、もう家に帰ろう」
突然顔色が悪くなった助手のため、ローズは家に帰ることにした。
「夕ご飯、何か買って帰ろうか」
もう帰っても、ご飯を作る気力はないだろう。
どこかお店に立ち寄って、お弁当でも買って…。
ぼんやりと持ち帰りもしてくれるお店がどこにあったか、考える。
「レオンはなに食べたい? お肉系と魚系だと、どっちがいい?」
「…昨日の夜のことを思い出した?」
「ん?」
繋がらない会話にローズは振り返って、レオンを見た。
「気に入って買ったわけじゃない、とは?」
あぁ、そのことか。
ローズはずいぶんと前に感じる、朝の会話がよみがえる。
「思い出してはいないよ」
「じゃあ、なぜそんなことが分かる?」
「だって、レオンが教えてくれたから」
気に入って買ったわけじゃない。
この言葉は、レオンは嫌だったのだろう。遅れてローズは気づいた。
「私、突然貴方の前に立って『連れて帰る』って言ったんでしょ?」
きれいな金色の髪を見る。お風呂に入ったから今はきれいだけど、その前は埃でくすんでいた。
「あぁ」
「私そのとき、レオンの顔を見た? 多分、ちゃんとは見ていなかったと思うんだけど」
「…そう言えば、そうだった。なんだ、確かに元々気に入ってはいなかったわけか」
ローズは首を振った。
気に入る気に入らないの話ではないのだ。
「だから、そこはパルシェさんと同じに考えないで」
薬の影響で気分が高揚して、さらには、その間の記憶がない。なんとも厄介なものだ。
「私の弟はね、ちょっとやんちゃでよく怪我をしてたの」
だからローズは怪我の手当てがうまくなった。
「しかも、色々…壊したから、よく両親が怒ってね」
壊したものはたくさんあった。
家の食器や本は数えきれないくらいだ。それに壁、人の家のテーブル、ものではないがローズの婚約話。
「怒られてしょんぼりしている弟を探し出して、連れて帰るのが私の役目だったの」
暴れまわった後だから、髪はぼさぼさで埃をかぶっていることが多かった。
「因みに、弟は金髪」
「……君の弟は、牢にも?」
十代半ばの少年が牢に入れられることはなかなかない。ローズは否定した。
「それはギリギリなかったよ。でも、まぁ、入れられていても驚きはしないかも。薬のせいでちょっと思考がおかしかったら、なおさら」
「…」
「多分、お金を払ったのも、修理費かなにかだとでも思ったんだと思う。また、何か壊したのねって」
これで納得してくれただろうか。
ローズは言葉を重ねた。
「つまり、あなたを弟だと勘違いして買ったんだと思う」
そのときのローズとしては、問題を起こして軟禁状態だった弟を、両親に頼まれて見張っていた人に許可を得て連れ帰った、ぐらいの行動だったのだと思う。
「本当に…?」
「たぶん、としか言えないけど。それ以外に心当たりはないし」
知らない人を家に連れ帰ることなどローズはしない。
だとしたら、勘違いしたとしか思えないのだ。
「薬の影響で…」
「うん。それで、お肉と魚…」
少しずつ足に力が入らなくなってきていた。
昨日よりは飲む量は少なかったはずだが、二日続けて飲んだのがいけなかったようだ。




