2 出会い
「!」
勢い良く振り返ったせいで痛む二日酔いの頭を押さえつつ、ローズは見知らぬ男性を凝視した。
腰まで届きそうな長い金色の髪に、こちらを観察するかのような静かな瞳は紫色。
端正な顔立ちをしているけれど、全体的に薄汚れていて、着ている服もシンプルなものだ。
そして何よりも目立つのは、両手にはめられた枷。
長い髪で隠れているが、首にも鈍い銀色の輪が見えた。
(…つまりはどこからか逃げ出した人…)
この国では、飲酒は18歳。結婚は16歳。そして、人身売買も認められている。
大抵は犯罪者だが、貧しさからの身売りや口減らしもあると聞く。
ローズの住んでいる街にも、そういった類いの市場はあるのは知っていたけれど、近づいたことはまだなかった。
でも…、とローズは違和感を覚えた。
いわゆる奴隷の管理は徹底されているはずだ。
首に嵌められた枷は魔道具で、脱走や命令違反が出来ないように作られている。
(つまり、誰かに命令されてここにいる…? でも両手に枷を嵌めたままで…?)
二日酔いの頭痛が思考の邪魔をする。
相手に敵意もなさそうだし、とローズは目の前で未だに無言のままの侵入者に声をかけた。
「お…はようございます?」