食堂カルロス
「灯りが付いてる」
市場を出て少し歩いた曲がり角の先、食堂カルロスから、灯りがもれてきている。
closeと書かれた木の板が掛けられた扉を、ローズはためらいなく開けた。
「こんばんは」
「すいませんが、今日は休み…、あれ、ローズさん。こんばんは」
店の掃除をしていたのか、雑巾を持ったカルロスが出迎えた。
「あっ、その傘。今朝も見たな。パルシェのやつ、ローズさんに泣きついたのか。店には、傘の持ち主は来てないよ」
「カルロスさん。ご協力ありがとうございます。この傘の持ち主は、もう分かったので大丈夫ですよ。今日は、別件で来ました」
「そうなのか? 流石ローズさん、名探偵!」
よく陽に焼けた肌に黒髪。カルロスは三人の娘の父親だ。
「それで、こちらは?」
「助手のレオンです!」
「おぉ! やっと助手が出来たか。良かったな。俺はカルロスだ。ローズさんを頼んだぞ!」
雑巾を置いて、カルロスは更に付け足す。
「って言うか、ローズさんが無茶をしないように、がんばれの方が言いか? レオン。君は木登りは…」
「カルロスさん!?」
「いや、だって、ローズさんは名探偵だけど、危なっかしい所があるからなぁ。一人で裏市場にすら行きそうだ」
これは危険だ。
ローズはそう判断し、話を変えた。
「あのですね、今日来たのは、このお店のコーヒーを…」
「うん? 喉が乾いたから、うちに寄ってくれたのか? いいよ。待ってな!」
いい笑顔で言うと、カルロスは店の奥に向かう。
その背中に向けて、急いでローズは付け足した。
「それじゃあ、ブランデー入りにしてもらっても、いいですか?」
「お! それなら、良いものを見せてやる!」
カルロスは腕まくりをしながら、店の奥に消えた。
「カルロスさん、面倒見がよくてみんなに人気なの。ご飯も美味しいから、今度食べに来ようね」
ローズは、近くのカウンター席に座った。
「レオン?」
一向に座ろうとしない助手に、ローズは首をかしげる。またしても何か言いたげな顔だったが、小さく首を振ると、荷物を置いて隣に座った。
「木登りはわりと得意かな」
「違うからね。木に登ったのは、三回だけだよ!」
「…三回」
おかしなことに、助手はたった三回か、と納得しなかった。




