傘の持ち主
レオンが歩き出したため、ローズも仕方なくそのまま市場に向かうことにした。
無理しなくていいのに…。
少しは気が紛れるかな、とローズはおしゃべりを続けた。
「パルシェさんは、食堂で誰かの傘を間違って持って帰ったって言ってたけど、それは違うと思う」
そっと、傘を撫でる。
「昨日の天気は晴れ。パルシェさんが夕飯を食べた六時ごろも、もちろん雨なんて降ってなかった」
「あぁ。覚えてる。…満月が綺麗な夜だった」
朝から晩まで、雨の気配は全くなかったのだ。
「だから、夕飯を食べるのに傘を持って行く人なんていないはずでしょ?」
「でも、誰かの贈り物だったとしたら?」
この傘は新しい。
留め具も固く、布の部分も雨で濡れた形跡はなかった。その事に、助手も気付いていたようだ。
「その線もなくはないけど、大事な贈り物を食堂の机にかけておくかな? しかも、無くしたことに気付かないのも少し不自然」
パルシェは食堂に行ったけど、誰も取りに来ていないと言っていた。
「だから、この傘は食堂にはなかった」
「それは、その後にその依頼人が手にしたと?」
「うん。そうだと思う」
多分、パルシェの妻のマリサもそう考えたのだろう。
だから、浮気を疑った。
「でも、私はパルシェさんは無実だと知ってる…、というよりは私もパルシェさんと、同じだった…?」
市場に近づいてきたからか、喧騒が聞こえてきた。
「?」
そっとレオンの顔を伺う。
あまりにも顔色が悪かったら家に連れて帰って、もう一度一人で来ようかと考えていたローズだったが、そこまで悪くはなさそうだ。
「目が覚めたら、買った覚えのないものが家にあった」
つまりパルシェにとっての傘は、ローズにとってのレオンだ。
「…つまり、酔って記憶を無くしただけだと?」
「私の場合はレオンが説明してくれたし、証明書もあったから、謎ではなかったけどね」
「…」
「だから、この依頼がすぐ解決出来たのはレオンのお陰だよ」
「それでどうしてここに?」
「夕方以降に開いてるお店って、食堂や飲み屋さん以外はないの。ここの市場以外は」
始めて来たときに驚いた。
裏市場と呼ばれていたから、もっと怪しげな店ばかりがあるのだとばかり思っていた。
でも、市場の手前付近は異国の装飾品や果物が売っていた。探せば、傘を売る店もあるだろう。
「ここで昨夜この傘を売った人を探して、買った人がパルシェさんだったら、この推理は正しいと、裏付けになるから」
もし見つからなかったら、この推理は間違っていることになる。
…本当は間違っていてほしいんだけど…。
ローズの願いはむなしくも叶わなかった。




