1 頭痛の理由
破れたカーテンの隙間から射し込んだ朝日の眩しさで、ローズは目を覚ました。
「うーん…。あれ…?」
ローズがいたのは自分の家だった。
しかし、寝ているのが寝室ではなくリビングのソファの上で、しかも寝間着ではないと気付いて慌てて起き上がる。
「やだ、シワが! 痛っ…」
一着しかない大事な訪問着のまま眠ってしまったようで、スカートにはシワが出来ていた。
しかし、それよりも突然頭が痛み出してたまらずうずくまる。ガンガンと続く痛みが引くのをひたすら待った。
「なんで、こんなに頭が痛いの…」
じっとした状態で頭に手を当てても、全く痛まないので怪我をしたわけではなさそうだ。
「こういう時は状況を整理することが大事…」
呟いて、昨日のことを思い出す。
「えぇと。昨日は…、やっと一つ依頼が解決して、あっ報酬…!」
ローズは頭を押さえながらも、着ていた上着を脱ぎ、ブラウスのリボンを取りボタンを外して隠しポケットを探った。
「良かったぁ。あった」
小さな封筒にはコインが金色のコインが入っていた。枚数も報酬額と同じ。どこかで落としたり、誰かに奪われたりはしていないようだ。
「そう。報酬をもらって、夕飯を食べに行って…?」
長くかかった依頼がやっと終わってヘトヘトだったローズは、夕飯を作る気がおきず、行きつけの店に行ったのだ。
「とろとろオムライスを食べて…。あ」
賑わっている店内の映像が浮かび上がる。
食後に頼んだコーヒーに口をつけたとき、いつもの給仕が慌ててやって来たのだ。
『すみません。他のお客様のコーヒーと間違えて出してしまいました!』
『…ごめんなさい。口をつけちゃいました。何か特別な豆を使った裏メニューだったんですか?』
自分も結構この店に通っている常連気取りだっただけに、初めて知った裏メニューの存在に動揺つつ訊くと、どうやら違うらしい。
『いえ、ブランデー入りのコーヒーなんです』
『あぁ、なるほど』
ミルク、砂糖、クリーム、アイスにブランデーとこの店は頼めば色々とつけてくれる。
ローズはブラックのコーヒーしか頼んだはないが。
『入れ直してきますので…』
申し訳なさそうに言う給仕にローズは大人な笑顔を作った。
『問題ないわ。たまには違う味もいいものよ』
そして苦味のあるコーヒーを飲みほし、コーヒーの代金をおまけしてもらって得したなぁ、と思いながら家路に着いた…はすだ。
「なるほど、この頭痛は二日酔いってやつなのね」
きっと度数の高いブランデーだったに違いない。
でなければ、自分はたったコーヒーに垂らした数滴のブランデーで酔ったことになってしまう。
飲酒は18歳で許されているいて、ローズは19歳。違法ではないが、今まで飲酒とは縁遠かった。
「頭痛薬って二日酔いに効くんだっけ?」
薬箱のある棚に向かいかけて、いや、と思い直す。
「歯磨きが先よね、えっ!」
背後にある洗面所に行こうと振り返る。
洗面所の緑色の扉の前に、もたれ掛かって座っていた男性と目があった。