固い留め具
雨が弱まったようだ。もう少しすれば完全に止むかな、と考えながらローズは鍋を片付けた。
お昼ごはんを助手は完食した。
ローズの作ったプリンもなかなか気に入ったようで、一安心だ。
好きな食べ物が分かれば、もう少しくらい仲良くなれるかな…。
テーブルの上をフキンで丁寧に拭くと、パルシェから預かった傘を置いた。
随分と後回しになったが、依頼を片付けようと思ったのだ。
「綺麗な傘…」
赤みがかった紫色の傘。持ち手は、木で出来ている。細身の持ち手は、女性物だからだろう。
固い留め具を外して、傘を開いた。
「……」
特に何か仕掛けのある傘ではなさそうだ。
魔道具でもない、普通の傘。
ローズは一通り確認すると、傘を閉じた。折り目に添ってなるべくきれいに巻くと、パチリと留め具を留めた。
「レオン。この傘をパルシェさんに返しに、ちょっと出掛けてくるね」
ついでに薬局と食料品も買いに行こうか。卵をだいぶ使ったので、補充しておきたい。ローズは買い物用の鞄を肩にかけ、しっかりと傘を持った。
相変わらず、ずっとこちらを見ていたらしいレオンは不思議そうな顔をした。
「傘を返す? 依頼は断るのかな?」
ちゃんとパルシェとの会話を聞いていたようだ。そのことがなんだかローズは嬉しかった。
「ううん。違うよ」
依頼は、『傘の持ち主を探すこと』だ。
だから、ローズはパルシェの家に行こうと考えた。
「?」
「傘の持ち主に返しに行く…んだけど、裏付けも必要だった。あと、薬局と食料品の買い物と、あぁ、カルロスさんのとこにも寄るつもりで…」
言葉にすると思ったよりも、時間がかかりそうだ。いつもは一人で行動するから、帰りの時間なんて気にしたことがなかった。
すべてこなすとなると、夕方、もしくは夜までかかるかもしれないと、ローズは計算した。
今日来たばかりの家の留守を頼むには、長いだろうか。
でも、初めての家なら一人にした方がストレスがかからないって…。
友人はそう言っていたけど、それは猫だったか、犬だったか…。どうしても思い出せない。
「…」
どうするべきか悩んでいると、助手が静かな目でローズを見ていた。
ふと、朝に言われたことを思い出す。
こんなときは、ただ、命令すれば良い、そう彼は言っていた。
うん。忘れてない。でも、あなたは助手でもあるから。
「レオン。背中は痛くない?」
「…何度も言ってるけど、もう治ってるよ」
「治ってはないよ。でも、痛くないなら、ちょっとお出掛け付き合って」
荷物を持ってくれそうなので、小麦粉も買おうと決めた。




