崩れ落ちて。
橋が崩れて私は神殿の地下へ落ちた。
正確には〝落とされた〟
前衛で戦うハインは禍々しいオーラを纏った魔王と鍔迫り合いを何度も繰り返しては決め手が無く討伐に時間がかかっていた。
仲間の支援もイマイチで魔術の援護も大剣の援護も切羽詰まった戦況にも関わらず浅い。
聖女の回復魔法も様子を見ながらではあるが完全態勢ではなかった。
私は出来る限りの支援魔術をハインに多く重ね掛けし、いつ何が起こっても良いように中距離でベルをかまえていた。
しばらくの間魔王とハインは剣が重なる金属音を響かせて戦っていた。
そうしていると、老朽化なのか、魔王の作戦だったのかわからないが、神殿奥に繋がっている橋がガタガタと揺れ出し崩れていく。そこは私達が立っている場所だ。
「きゃっ!?」
聖女は驚きつつも私の背中を突き飛ばし、自分は安全なところまで走って行った。リュートとレイブンは落ちていく私に驚いた顔をしていた。
「…えっ、」
気がつくと、深く静まり返った地下。
さらさらと水が流れている。私は体中の痛みをまず何とかしようと腕を動かした。動かした瞬間、激痛が走る。どこか、骨も折れているらしかった。小さく、小さく、ベルを鳴らした。
リン、リン
ごほっ、とむせ返り血を吐き出す。
リン、リーン
ゆっくりと、痛みが薄らぎ骨も元に戻る感覚があった。
改めて心の中でリリカに感謝をする。魔術は偉大だ。
瓦礫の中から這い出ると遥か上空で光が見えた。
「…討伐、上手くいったのかな。」
聖女への苛立ちはあったが現状ただ唖然とするしかなかった。
仲間だ何だと口では言っていても彼女からしたら完全なる恋敵認定だったのだろうか。指輪を嵌めた小指が疼く。
もしかするとこの指輪のお陰で生きていられるのかもしれないと、そう思えば投げ捨ててやりたくなった気持ちを鎮められた。
ジャリジャリと鳴る瓦礫の間をブーツで歩く。
自己治療で痛みは無いが、これからどうしたら良いのかわからなくなった。上まで登る方法は?魔王討伐の決着は?
薄汚れたローブをはためかせ砂利を払いながら訳もなく歩いた。
恨み、妬みは仄暗く深い。
聖女の嫉妬には気づかないフリをしていた私の警戒心の無さが引き起こした今の現実。
彼女の途方もない寂しさと自己愛が渦巻いているのに気づいていたくせに私は間違えを起こしたんだ。
このまま何もなければハインと仲良くいられる、そう私だって想像してしまったのだ。
異性とのやりとりがこんなにも楽しいだなんて思っていなかった。こんなどうしようもない状況でさえ、感謝され笑う彼の顔が頭から離れない。
リリカに笑われるだろう。魔女が恋なんてするもんじゃないと。
私だってそんなつもりはなかった。けれど彼は私の手を握って離してはくれなかったのだ。いつも大切な女性を扱うように振る舞って気遣って。
勘違い、して下さい。と、私を見つめたのだ。
どうしたって、私は彼の魅力に惹かれているのは事実。
認めたくないが、今この有様でどうしようもなく自覚する。
「…ははっ…馬鹿みたい…。」
一人自嘲すると、瓦礫に座り込んだ。