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聖女、欲しいものは。

王室の離れに軟禁処分が下った聖女マリア。


「聖女の!私が!こんな!処分を!受けるなんてっ!!」


ぶんぶんと振り回してはボフン!と、クッションをベッドへ投げつけた。


彼女はこの魔法や剣でモンスターと戦うのが当たり前の異世界に召喚された聖女である。元々、彼女とて歪み切っていた訳ではない。

ちやほやされ過ぎた事と聖女としての柵、そしてどうしても振り向いてはくれないハインの存在がそうさせたようだ。

別にハイン自体が何かをした訳でも無く寧ろ逆恨みと言ってよい。精神的不安と甘やかされた環境下で彼女は〝女〟を使うことを覚えてしまったのだ。

歪み、歪み、歪になった幼なげな精神は彼女自身も蝕んでいった。温かい優しい男の腕の中でしか安心して眠れなくなったのだ。


「どうしよう。どうしよう。どうしよう…。」


ぶつぶつ呟き親指の爪を噛む。

彼女は今夜眠れるかどうかわからない状況に不安になっていた。魔術師のリュートを呼ぶか大剣使いのレイブンを呼ぶか、もしくは門番のように部屋の扉前に居る兵士を誘惑するか彼女は迷っていた。


試しに扉前の兵士に扉越しではあるが声をかけた。


「兵士さん、良かったら私の話し相手になってくださらない?」


甘えた声で誘う。それはこの世界で生きる上で学んでしまった〝女〟の声だ。


「聖女様、いけませんよ。誰も通すなと言いつけられております。一週間もしたらご自由にできると思いますのでどうか今は我慢を。」


扉越しのくぐもった声は若い。

聖女はイケると思った。


「そんなぁ、私、ずっと聖女で息苦しかったの。普通の女性として考えてみてください。こんな寂しい夜、一人ではいられないわ。どうか貴方が慰めてくださいませ。」


扉に額を擦り付けるようにしなだれかかった。


若い兵士はごくり、と喉を鳴らす。


沈黙後、兵士は名を名乗り提案をした。


「聖女様、私はラグナといいます。良ければこのまま話し相手にはなれます。それで如何でしょう?」


聖女は思うようにノってこない彼に苛立ちながらも半ば諦めてクッションをベッドからいくつも持って来ては扉前に置き、壁に寄り掛かり話を続けた。


「ラグナさん、若そうなのにつれないのね。…わかったわ、私の話し相手になってくださいな。どうせ眠れないもの。」


監視を命じられていたラグナはホッとした。このまま聖女の我儘に飲まれたら大目玉を食うところであった。


「ねぇ、ラグナさん?貴方は好きな人、いる?」


「いいえ、おりません。」


「そう、私にはいるけれど…絶対に振り向いてはくれないのよ。自分のせいだってことはわかってるけれど。」


聖女はふー、と溜息を吐いた。扉越しにも聞こえた悲しげな溜息にラグナも少し同情する。


「〝絶対〟ってことは無いんじゃないでしょうか。何事も必ずというものはありませんし。何より諦められるんですか?」


「…ラグナさん、優しいのね。でも、もう取り返しのつかないところまできちゃって。無理なのわかってても顔を見たら惹かれてしまう。残念な恋ね。」


「そうですか…ですが、よくリュート様やレイブン様と一緒におられるのでどちらかと恋人かと思っていましたが。」


ラグナの実直な態度に聖女は笑った。


「ふふ、恋人じゃあないのよ。ただの慰め合いの仲、と言ったらわかるかしら?」


少しだけラグナを揶揄うような笑いを含めた話し方。ラグナはむっとしたが扉越しなので表情はわからない。


「…それは、聖女様のためになるんでしょうか?支えてくれるたった一人を見つけるべきでは?」


核心をつくような返答に聖女は更に笑った。クスクス、からあっはっは!と、大笑い。


「ラグナさん、貴方って面白いわ!」


「何がおかしいのですか…ご自身をもっと、大切にして下さい。」


一頻り笑った聖女はラグナを気に入った。

カチンコチンな石頭のような考え方に新鮮さを感じた。何より誘惑にブレないが人の心に寄り添う話し方をするのだ。


「私の名前、マリアっていうの。ラグナさんになら名前で呼んで欲しいわ。貴方のこと気に入っちゃった。」


「い、いいえ、そんな。聖女様に対して不敬です。」


「あら、私が良いと言ってるのよ?でもまぁ、そんな頭の固さ、嫌いじゃないわ。」



聖女は久しぶりにうとうとと、眠気を感じることができた。その感覚に驚きを覚えながらラグナとたわいもない会話を続けた。

召喚される前の世界で覚えた〝しりとり〟のルールをラグナに教えてはゆるゆるとゲームをした。

本当に何気ない言葉遊び。聖女は召喚されてから初めて恐怖を感じない状況下で男の腕の中ではない、しかもクッションはあってもベッドではない床で眠ることになった。

それが何と心地良かったことか。


聖女は翌朝、ラグナに感謝を心から伝えるのだった。























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