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魔王討伐パーティ

ハインさんは苦々しい表情を浮かべて当時のことを思い出しながら話す。


「最初からおかしいと思っていました。」


夜になると決まって聖女と他の魔術師の男や大剣使いの男が一緒に姿を消していたという。

興味を持ってないかったらどうでも良かったが数日経つと彼にも声がかかるようになったそうだ。


『ねぇ、ハイン?私の事、好きにして良いのよ?』


『…聖女が何を言う?俺に構うな。』


そんな会話をしたそう。

紅茶の入ったカップを皿に置いて一呼吸して私はハインさんに聞いた。


「そんな何というか、自由奔放な方が聖女様とはわからないものですね…。男性陣の間でトラブルは起きなかったんですか?」


「起きましたよ。男達は自分だけだと信じていたので。聖女は『私のために争わないで!』って大立ち回りをしては悲劇のヒロインぶっていました。」


聖女様は、寂しかったとか支えたかったから、とか言い訳を重ねては男達との関係を続けたそうだ。

ハインさんはそんな彼女をどうせ魔王討伐が終わり次第切れる縁だと自由にさせていたという。

あくまでも自分に関わらない、討伐メンバーとしての立ち位置を守り続けたそう。


「魔術師のリュート、大剣使いのレイブン、二人は聖女の虜になり俺の話に耳も貸さなかった。それも俺自身に関係ないと、割り切ると随分と気持ちも楽になったものです。」


「勇者ハイン様は聖女と同じく召喚されたお方だが正しく自身の誇りを大切にされています。乱れた聖女とは訳が違う。」


クラスラさんは力強くハインさんが如何に清く正しい勇者様かを語った。

それを手で制しながら紅茶を飲むハインさん。


「俺自身がすごい奴ってわけではない。ただ、優先順位というものがある。あの頃は魔王討伐で頭が一杯だった。聖女のことなんて考えている暇などなかったし、何よりあいつに興味は持てなかった。」


ハインさんは数年前の魔王討伐時を思い出しながら話す。

最初は良かったという。

魔術師リュートも大剣使いレイブンも真面目に戦闘をこなしていたらしい。いつからか、聖女に骨抜きにされて大して役に立たないただの〝男〟に成り下がった。

〝女〟である聖女の言葉に惑わされ、誘惑され、遂には戦いも疎かになっていった。

そうして、連携の取れないパーティでハインさんは聖女に回復だけを命じて一人戦闘を頑張っていたらしい。


「まぁ、そのお陰で俺は鍛えられたと前向きに思ってます。今でも一人で魔王討伐が可能だと胸を張って言い切れますよ。」


余裕の笑みを浮かべて再び温かい紅茶を口にした。

香りが良く甘味がある紅茶を気に入ってくれたようだ。


「討伐パーティは今も解散していないんですよね?今もお二人は聖女様と…?」


「表向きは王国近衛騎士団に所属しております。が、聖女の呼び出しにしか顔を出さない幽霊団員ですね。」


答えたのはクラスラさん。苦々しい顔で溜息を吐いた。


確かに騎士団に所属していながら訓練に来ないなんてただのお荷物も同然。王様が心配されている通りに魔王が復活したらどうする気だというのだろう。


「もう良いでしょう?つまらない昔話より今の楽しい話をしましょうよ。メルリスさん、おかわり頂けますか?」


カップを傾けてお茶目に笑うハインさん。それに私はすぐカップを受け取り紅茶を注いだ。


「そうですね。もうお会いすることもないでしょうし。」


「はい、二度とメルリスさんにご迷惑をかけません。」


そうだ、と私は思いついたように話した。


「堅苦しいので、お二人とも私に対してもっと砕けた話し方をして頂けませんか?それと、良かったら私の事はメル、と読んでください。」


その言葉に嬉しそうに笑ったハインさん。


「では、俺のこともハイン、と呼んでください。…いや、呼んでくれ。」


「私の事もクラスラ、クラス。どう呼んで頂いても構いません。いえ、呼んでほしい。」


年頃も同じくらいの私達は堅苦しさを取り除くことにした。

砕けた会話から知ったがクラスラの年齢は私の一つ下らしい。


「年上だと思った。ガタイも良いし、正に騎士って感じだよねー。」


「メルこそ、魔女とはいえ年齢不詳だ。人柄に歳は関係ないけどな。」



砕けた会話に心が安らぐ。やっぱずっと丁寧なやり取りは肩が凝ってしょうがない。私は二人と話せて楽しいと思えた。


日が暮れるまで私の家でお茶をして、ここに来た本来の予定を聞いた。


「そうそう。二人とも今日は何のようで来たの?」


あ、と。思い出したかのように二人は答えた。


「俺は魔法薬の補充。」


「私も魔法薬の補充と刀傷を見てもらおうと。」


もっと早く言ってよ。と、私は薬品棚からいくつも魔法薬を取り出して、二人に分けた。

そしてクラスラの肩にある傷を治す。


リン、リーン


硝子のベルが鳴れば傷はあっという間に塞がった。


「いつ見ても不思議な光景だ。それに美しい。」


呟くようにハインが言うものだから少し顔が熱くなった。


「…照れるからやめて。」


「何だ、本当のことだ。」


私とハインのやり取りを見てクラスラは微笑んでいた。



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