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貴方のことが知りたくて。


私は馬車から降りたらハインさんに手を引かれて街の中でも小ぢんまりとしたレストランの2階に案内された。

確かに2階だとお客さんが居らず落ち着いた雰囲気があった。

テーブル前に座ると目の前のコップに水が注がれる。


「…ハインさん、ここってお高いお店ではないんですか?」


店内の装飾品やサービスを見ると明らかに高級。普段から少し良いものを食べて来たが流石にここまで高級なところで食事は初めてのこと。不安になった。


「何も心配しないでください。ここは俺の行きつけの店です。好きなものを沢山食べてください。」


何も問題無い、と綺麗に笑うハインさんに口籠る。

燭台の光に照らされてより一層輝く金髪に宝石のような黄緑色の瞳に見惚れる。


私は頭を振り、意識をメニューに集中した。


「では、有り難く頂きますね。クリームスープとパンをお願いします…。」


「はい、じゃあ俺も同じものを頼みます。」


店員に目配せをし、注文をするハインさん。確かに慣れているのがわかった。


「それにしても、突然でしたね?」


仕事着のまま食事に来たことを思い出し少しだけ恨めしげに言った。すると、ハインさんは嬉しそうに笑ったのだ。


「ははっ、こうでもしなきゃお誘いしても良い返事が貰えないってわかっていましたから。」


私は返答にぐっ、と詰まる。

事前にお誘いがあったとして、言われてみれば確かに断っていた。


「……そうですね。食事含めて今の生活に不満などないので。」


「俺はもっとメルリスさんの事を知りたいのです。だから、今日も強行突破しちゃいました。」


「…勘違いさせるような事、あまり言わないほうが良いですよ。」


熱くなる頬を誤魔化すようにコップに注がれた水を一口飲んだ。ゴト、と小さくテーブルが鳴る。


テーブルに肘をついて上目遣いでハインさんは私を揶揄う。


「どうか、勘違いってやつ、してください。」


それに対して私は咳払いすると、タイミング良く食事が運ばれて来た。


「…私もハインさんの事、何一つ解ってません。一体何をされているんですか?」


ふわっふわな、パンを手に取り呟くように話す。

彼は上機嫌に答える。


「これでも、魔王討伐に成功した勇者ですよ。」


「えぇっ!!」



お店に似つかわしく無い私の驚きの声が響いた。恥ずかしくなり直ぐ俯いた。


「…勇者様なら、聖女様に解呪してもらえたはずです。一体何で街外れの魔女なんか頼ったんですか。」


「そうそう、女性からの好意っていうのが聖女からだったもので、彼女を頼る訳にはいかなかったんです。」


解呪する代わりに結婚を迫られるとハインさんは溜息混じりに言った。


「何世代か前は勇者と聖女の結婚はありましたし、変なことではありませんよ。何か不満がありましたか?」


「彼女は多くの男性と関係を持っていた。俺には理解出来ない価値観を持っている。俺には無理でした。」


意外な答えに私はクリームスープを口にしながら話を聞いた。


「魔王討伐パーティ内で俺以外の男達は皆んな肉体関係を持っていたんです。」


「…それは、それは…私も価値観が、違いますねぇ…」


あまりの事に私は絶句した。

聖女様ってあの絵本に出てくる聖女様?

美しくて優しくて世界の平和のために魔王と対峙するあの聖女様?


「思い描いていた聖女様と違って…びっくりしました…。」


私の反応に大きく頷きハインさんはワインを飲んだ。私は元々お酒が体に合わないので最初から酒類は断っている。


「俺も、初めて知った時の衝撃といったら…。聖女とは仲間であってもそれ以上にはなり得ませんね。」


話終えると、テーブルに小さな小箱を置いたハインさん。

私の右手を大切そうに取ると小箱から指輪を取り出した。


「えぇっ!…な、何ですか?え?指輪?」


「これまで、俺のことを何度も救ってくれたお礼です。良かったら肌身離さず嵌めてください。」


微笑む顔は美しく。

ゆらめく光によって更に魅力的に映る姿。私は恥ずかしくなり身を縮こませた。

ゆっくりと右手の小指に嵌められた指輪。大変貴重な石が埋め込まれたものである。本や資料でしか見たことがない〝虹の欠片〟といわれる石だ。


「……きれい…。」


「よく似合ってます。それに、サイズもピッタリだ。」


石に身惚れて彼に身惚れて。

私は今日初めてのことばかり。嬉しいサプライズに感謝を述べる。


「ハインさん、食事に指輪まで…本当にありがとうございます。こんなにしてもらっては返せるものがありません。」


だから、と。

私は今後ハインさんに定期的な魔法薬をお渡しする事を条件に出した。

それにハインさんは笑って頷いてくれた。


「お礼のお礼なんて。メルリスさんは律儀ですね。有り難くこれからも困った時頼らせてもらいます。」


微笑み合い食事はとても楽しいものであった。

出来ることならもっと長く一緒に居たいと思った気持ちに蓋をする。

私は魔女。恋愛なんてリリカに笑われる。


楽しい時間はあっという間に終わり。

帰宅した私は夢心地でベッドに飛び込んだ。右手が熱い。

枕に埋めていた顔を上げて右手小指を見る。


「……はぁ、物理と魔法防御に魔力アップの呪文入りなんてよく用意できたなぁ…。」


転生前の記憶から言わせるとチート並の装備品だ。

暗闇にも煌めく〝虹の欠片〟は大変美しい。


今夜は良い夢が見られそうだ。









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