04:人間からの拒絶
やはりといった感じだった。
シヴォリの予想は的中したのだ。
街の外壁のところには門番がいて、森側から来たものに対し警戒を緩めずにいるようだった。
私は、シヴォリと一緒にその門番に話しかけた。
「こんにちは。街へ入ってもいいですか?」
普通に日本語で話しかけた。つもりだった。
というかシヴォリに対しても日本語で話しかけている(と私は思っている)ので、別段その人間たちに何か特別な声のかけ方をしたわけではないのだけれど。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
よく聞き取れない言葉を叫び、彼らは臨戦態勢となって私とシヴォリに持っていた槍を突きつけてきたのだった。
これが彼らの言葉なのか。
何を言っているかはまったくわからないけれど、歓迎されていないことは把握出来た。
私は、この土地では人間という扱いをされないらしい。
人間に拒否されたことで、では私はこれからどう生きていけばいいのかという課題が出来た。
隣にいるシヴォリを一瞥すると、シヴォリは私の身体を小脇に抱え、狼のときと同じ速さで来た道を戻っていく。
「だから言っただろう。いくら見た目が人間だったとしても、ホマレが話しているのは確実に魔物の言葉で、警戒している人間たちは魔物が来たと騒ぎ立てる。我らをあの門から先に通さないくらいなら可愛いもので、追いかけて仕留めに来る可能性だってあるんだぞ。我の脚力がなければ、今頃どちらにしろあいつらの攻撃を喰らっていただろうよ」
ごもっともな意見だ。
少し自分の立場を理解する必要があった。これは反省しないといけないな。
「人間に受け入れてもらえないとなると──これからどうしよう。私、住む家がないっていうのは致命的よね……」
もちろんこれからどうするかを考える方が先である。
この街で受け入れてもらえないということは、この先どこの街や村へ行こうとしても同じなのではないだろうか。
「一旦我の縄張りに生活の拠点を作ればいい。人間のきちんとした暮らしとまではいかないだろうが、仮住まいくらいなら出来るんじゃないか。その間に、人間の言葉を覚えればいい」
「縄張りって、もしかして森に住むってこと……?」
「そうだが?食い物と水は確保出来る環境だぞ?」
人間の私にとっては、生きるのに最低限の環境のように思える。
でも、今はそれしか選択肢がないような気がする。
──それに。
生前から憧れていた、魅惑のスローライフ。もしかしたらこんなところで実現出来るのではなかろうか。
家も、耐震強度の問題は正確には建築士ではないからわからないけれど、それなりに自分が住むくらいの小屋なら頑張れば作れると思うのだ。
生前の私のスローライフに対する執着と、そのためにつけた無駄に多い知識を舐めないで欲しい。
大丈夫、やるときはやるやつだ私は。
ひとつ気がかりと言えば、他の知らない魔物に攻撃されないかというのが心配なところか。
いくらシヴォリの縄張りとはいえ、魔物の巣窟のような森である。万が一のことがあったら──。
いや、人間相手で話が通じないよりはまだマシな気がする。
「うん。シヴォリのその案に乗らせてもらうわ」
こうして、私のラヴェルの森でのスローライフが始まったのだった。