10:来訪者という存在
「気がついたら空から落ちてきた──だと?」
信じてもらえるかはこの際賭けだった。
ありのままを話すしか私に選択肢はない。
「向こうの世界では恐らく私は殺されたんだと思う。痛みの感覚がまだ残っているくらいのときに、自分の身体に重力がかかって落下している感覚がきて、ふと目を開けたらこの森に落ちてきていた。太い枝に刺さっていたらきっと死んでいたわね。けど、幸い私の落下地点にはシヴォリがいた。私は、シヴォリの背に落ちて助かったの」
私が話す隣には、シヴォリが人型になって座っている。
そして対面にはカゲトラ。その横にはそれぞれこの一族の偉い人たちが数人。
会議のような感じで、私は尋問を受けていた。
「──お嬢さん。あなたは、きっと来訪者ですな」
カゲトラのすぐ隣に座っていたおじいさんが、口を開く。
「らい、ほうしゃ?」
「左様。来訪者とは、この世界とは異なる場所から飛ばされてきた者。そんなに多い現象ではないが、昔帝都で見た歴史の文献にそう記載があったのは今でもはっきりと覚えておりまする。そして、この森に封印されたという、我らが魔王様も──元々は来訪者だったと、一説には語られておりますな」
来訪者。異世界より飛ばされてきた者。
しかし、この世界に飛ばされてきた今までの来訪者が、私とまったく同じ世界や同じ国から飛ばされてきたというわけでもないかもしれないよな。
私と同じ境遇の人は──日本人は、果たしているのだろうか。
気になるところではあるけれど、そんなに多い現象ではないと言う辺り、来訪者に会いに行って確かめるというのも期待出来そうにない。
同郷というだけで警戒されない保証もないわけだし、そんなこと考えても仕方ないか。
戻れるわけでもなければ、別に戻りたい気持ちもあるわけでもないのだし。
「ジジイ。来訪者というのは、皆魔物の言葉しか話せない状態で飛ばされてくるのか?」
今まで沈黙していたシヴォリが、おじいさんに問う。
「シヴォリ様──ワシもそこまで来訪者に関して詳しい知識を有しているわけではない。しかしながら、ワシの今までの知識で物を語るならば、魔王様以外にそういう話は聞きませんでしたな」
魔王。魔王とだけ共通点があるというのも何だか複雑だな。
「しかしながら。今までの来訪者は人間の言葉を話せるにしろ、捕まり次第即刻処刑されてきたそうですじゃ。人間の間では、来訪者は災いをもたらす存在──と言われておるようですな」
「──何!?」
「えっ──」
私も思わず絶句してしまった。シヴォリも、動揺しているようだ。
私が人間の言葉を話せたところで、この世界の者でないとわかれば、見つかり次第殺されてしまう。
つまり、私がこの世界で生きていくには魔物たちの中でひっそりと暮らすほかないと──そういうことか。
「ホマレ──せっかくの縁だ。お前のことを見殺しになどしたくない。いずれは人間の街へ行きたいっていうことだったが、この森で暮らしていく方がお前のためだと思う。家を建ててやるから、この集落かシヴォリのところで暮らせ。お前のことは、緑樹神の一族とこのクソ犬が守る」
カゲトラは、心配そうに私の手をとって言った。
「それに、もしお前が良いっていうんだったら──俺の嫁に「それは却下だ」」
今カゲトラが何か続きを言っていた気がするのだが、シヴォリに遮られて聞き取れなかった。
何だったのだろう。
「お前は結局そういう目でホマレをずっと狙っていたのか。ホマレは我のところで家を建てて暮らす。それで良いな」
有無を言わさぬ眼圧で、私を挟んで何やらまた喧嘩が始まりそうな空気になってしまった……。
まあとにかく、仮住まいをつくろうと思っていたけれど、本格的にこの森で暮らすことになりそうなので、それはそれで結果オーライということで。