略取
「最後は律君だよ。」
自分に出番が回ってくると、緊張してしまうものだ。さっきまでは楽しみながら見ていたのに、博士に名前を呼ばれた瞬間周囲の音が小さくなるのを感じた。
あんな人間離れした能力が続き、自分にはどういう力があるのだろう。特に言われる前に、俺はミットを持つ二人の前へと歩を進めた。
「まいっか、じゃあ律君、とりあえず一回攻撃してみて。」
うなずき、正拳の構えをとる。踏み込む足に力を籠め、全力をもってミットに拳をたたき込むも、ミットに当たった低い音が鳴るだけで他の皆のような爆発的な力は出ていない。同時に、大人二人をかるがる吹き飛ばした二人の力に驚かされた。
「OK、律くん一回戻ってきて~」
博士に呼び戻され、元の位置へ戻る。今のは俺が能力を引き出せていなかっただけなのだろうか、それとも力には影響が出ない能力なのだろうか。
「今攻撃してみて何か変化とか感じた?」
「いや、特には、、、」
「能力獲得の影響で前より多少は上がってるはずだけど、前の二人と比べるとね。」
博士が肩をすくめながら言う。
「律くん、君の能力は今、力や治癒等の戦闘系には全く効果をなしていないんだよ。」
「どういうことですか?」
「君の能力は『略取』。怪物のコアを取り込んで、自分のものにできる能力だ。これを使えば、通常1つしか持てない能力を無数に増やすことができる強力な能力だが、悲しいことに今の君は何も取り込んでいない。つまり今君は、少し力が強いだけの一般人と同じってことさ。」
「今俺もしかして役立たず認定されました?」
「そういうことになるね!!ハハハハハ!!」
いや笑い事じゃないだろ!ほかの二人あんな恐ろしい能力持ってるのに俺だけしょぼすぎる。少し力強い一般人なんて速攻殺される自信があるぞ。後々強くなるって言ったってその前に死ぬ。俺が保証する。
「そんな心配しなくても大丈夫だから!この時のためにあらかじめ確保しておいたコアがあるんだよ。」
そういって博士が指を鳴らすと、小さな箱を持った3人目の犬スタッフがやってくる。それを受け取り中身を確認すると、今度は俺に渡してきた。
箱を開けると、中に入っていたのは今も脈打つ小さな臓器。血色もよく、実際に見たことはないが小さくなった心臓のような感じだ。なかなかグロテスクで、人によっては気持ち悪くなる人もいそうである
「これが、コア?」
「そう、これを君が取り込めばそのコアが持つ能力を得られるというわけさ」
こんな小さなものであんな能力を得られるのかと思うと、まったくもって不思議である。それにこれがコアということは、皆これを体に埋め込まれたということか。なかなか気持ち悪いな。
「で、取り込むってどうするんですか?なんか魔法とかで吸収できる?」
「いや、経口摂取。口から食べて。」
「これを?口から?」
「そう、一気にパクって。そのまま飲み込んじゃえばいいからさ。」
思ったより原始的だしさすがに抵抗がありすぎるんですけど。レバーは好きだが、今も脈打つこんなゲテモノすぐに食べれる方がおかしい。
別の方法を模索したり、加工したりできないか聞いてさんざんごねたが、結局最終的には鼻をつまんで一気に飲み込むことで終結した。見た目のわりに以外に悪くなかった。
「今食べたのって何のコアだったんですか?」
やってしまえばすぐ終わるのに散々ごねた手前、罪悪感じながらも話を戻す。
「今のは硬化。正確にはわからないけど、岩のように皮膚を固くする能力だね。とりあえずイメージしながらやってみて。」
想像力を働かせて試してみる。岩であると自分に言い聞かせ、何度も念じていると体が動かなくなるのを感じた。関節まで固まったからだろう、どこかでそんなような本を見たことがあった気がする。
「おぉ、できてるできてる!律くんもセンスいいね!」
硬化しているかどうか、博士が俺の体を小突いて確認したようだ。初めての能力だったのでうれしくなり、その後も何度もやっていると一部分だけの硬化もできるようになった。派手さはないが十分使えそうだ。
「とりあえずこれで全員の確認はできたね!」
俺が硬化に夢中になっていると、博士が現実に引き戻すように少し大きな声を出す。
「皆の能力が確認できた時点で今日の収穫は上々だ。さすがに疲れただろうし、もう今日は自分の部屋に帰って休むといいよ。律くんと若菜くんの部屋はこの二人に案内してもらうね。」
そういって呼んだのは、もう働きすぎなキックミット組二人。ここの職員これしかいないんじゃない?ってくらいこき使われてる。よく文句の一つも言わず耐えてるもんだ。
「それじゃあ私はやらなきゃいけない別のことがあるからここでお別れだ。二人とも、今日はしっかり休んでまた明日がんばろうね!」
道中大空を拾い上げて博士は帰っていった。
ここまで見てくれてありがとうございます!よければ評価していただけると嬉しいです!