誘拐された先は、僕らの拠点となる場所
翌日、寝不足で重い瞼と戦いながら学校へ向かう。契約書とにらめっこをしながらいろいろ考えていたら、いつの間にか夜が更けていたのだ。
月収100万円という高額過ぎる給料はとても魅力的だが、労働内容が不可能だ。怪物の討伐など、全国民の悲願なのだから。でも、もし本当にそんなことができるなら、俺は、、、
いや月収100万なんてバイトがあるか、額につられて思考が鈍ってるぞ、だまされるな俺。あぁもうわからん、猫になるしかない、にゃお~ん。
「みたいなめんどくさいこと考えてたんでしょ、今。」
男が家に押し掛けてきた翌日の放課後。アルバイトに向かう道中で、いつの間にいたのか、また男が乱入してきた。めちゃめちゃびっくりした。
「というわけで、解決してきました!律君が今向かっているアルバイト先には事情を説明して、うちの優秀なスタッフが代わりに働くことになりました。
保護者のおばあちゃんにも事情を説明して、了承を得てきました。はいこれ、応援のビデオメッセージね。やりたいことが見つかったなら全力で頑張りなさい、無理はしないでね、だって。」
おーい、この人マジで他人の状況を考えずにグイグイ来るな。やるって決めてないのにいつの間にかバイトクビになってるんだけど。あとおばあちゃん、俺やりたいこと見つかった、なんて一言も言ってないです。やばい人にやばいことの片棒担がされてる感じです。
「これで後顧の憂いは立たれたことだし、ほかのメンバーと顔合わせに行こう!二人とも律君の事待ってるんだから。」
そうして昨日の被り物人間に持ち上げられ、そのまま車に乗せられる。わけもわからないままどこか知らない地へと連れ去られるのであった。誘拐。
車で十数分ほど揺られ、到着したのは一軒の豪邸の目の前。町に必ず一つはある、妙にデカい家、といった感じだ。
「はい、行くよ、早く早く。」
男は車から降り、軽く小走りで家の中に入っていく。ここに来るまでの車の中でもわくわくがあふれ出ているようだった。いったい何がそんなにうれしいのだろう。
そう思いながら後をついていくと、豪華なエントランス?広間?を抜け、大きなエレベーターに乗る。
「すごいでしょコレ。やっぱ本拠地は地下にないとね~!結構無茶して作ったんだ~。」
子供みたいに目を輝かせて男がそう言う。なんだか最初にあったときよりもだいぶ幼く見える。あの時は本当不審者といった感じだったのに。
エレベーターが降り始めて次に扉が開いたとき、そこには正面に巨大なモニター、そこに連なるようにしておかれている多数の用途不明の機械の数々。
人はいないがガンダムのホワイトベースやエヴァのNERV本部のようだ。呆気に取られて立ち尽くしていると、その様子をニヤニヤしながら男が見ていることに気づく。
「いい反応だ。やっぱり男の子はこういうのが好き、って相場が決まってるのさ。何回見てもほれぼれしちゃうよね!」
そういう男の目はまたも小学生のようにキラキラしていた。しかしこれはさすがにすごい。地上の家がかなりかすんで見えてしまうほどだ。もっと見て回ろうと一歩を踏み出すと、男の静止が入った。
「後でいくらでも見ていいから、今はとりあえずこっちに来て!」
また小走りで男は走り始める。扉を抜け、廊下を抜け、一分ほど走った先のドアで男は止まった。他よりも少し大きいドアだ。
「このドアの向こうで、君がこれから一緒に戦っていく仲間たちが待ってるんだ。自己紹介は考えておいてね。準備はいいかい?」
両手を扉にかけ、勢いよく開け放つ。中は白い空間にソファやらクッションやらがおいてあり、休憩所なのかどうかはわからないが、高校の制服を着た黒髪ショートボブの女子とライオンの被り物をした子供が座っていた。