スープに毒を入れられて【Twitter140字小説、16の物語その1】
Twitterに掲載した、1話140字以内の物語が16個あります。お楽しみいただければ嬉しいです。
☆☆日間2位。週間6位。月間21位。四半期53位いただきました。ありがとうございます☆☆
家紋武範様『隕石阻止企画』参加作品です。
【No.1】
海辺で砂にあなたの名前を書いた。寄せては返す波のように私たちの関係は進展しない。消えるまで見つめていると背後に人の気配がした。
「いつからいたの……!」
彼だった。黙って砂に私の名前を書き、消えていくのを2人並んで見た。それからあなたは私の右手指を握りしめた。初めて。
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【No.2】
一斉に花火があがった。見たことないような迫力だった。川面全てが光で埋まった。私たちは立ち上がって歓声をあげ、拍手し、抱き合った。
しかしそれは『事故』だった。何人もの花火師が亡くなったことをネットニュースで知った。
あの時感じた『美しさ』が目に焼き付いて離れない。苦しい。
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【No.3】
僕は右足が悪い。引きずって歩くので集団からいつも遅れる。遅れた分少しゆっくり景色が見れる。飛んでいく蝶々。傍の黄色い花。空を走る飛行機雲。いつからか僕の隣を一緒に歩く子ができた。彼女が笑う「あなたのおかげでたくさん発見があった」それからずっと2人で散歩。
「あ、月見草」「可愛い」
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【No.4】
長いコールドスリープから目覚めると3000年経っていた。人類は滅亡していた。神が私の肋骨から人間を作る。地表が私のコピーで埋まっていく。何千何億という私の群れ。
「神よ。なぜこのようになさったのですか」
神が笑った。
「すぐに慣れる。おや。そう言えばお前さんオリジナルだったっけ?」
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【No.5】
『なんであの女なの』
人の夫を寝とるような女。自宅にある口紅を平気で使うような女。その口紅に羽虫の死骸を入れるような女。
「あたしの価値が下がるじゃない」
『むしり取ってやる』鏡に向かって口紅を投げる。向こうで嗤う幻影の心臓めがけて。弾丸のような跡が鏡に真っ赤な印をつけた。
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【No.6】
石焼き芋を半分に割り、どちらを食べるかで弟と揉めた。
「右がいい!」
「ぼくも右!」
壮絶なジャンケンのあと、まんまと『大きいお芋』を勝ち取って食卓を見た。
「「あ!」」
末の妹、1歳が両手に芋を持ってニコニコしている。
口いっぱいに散らばる芋のカス。弟と2人その場に座り込んだ。
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【No.7】
「いつも『チョコチップクッキー』なんだね」アイス屋であなたが言った。
「ふふ。いろんなフレーバーを試したけどこれが1番」「ふうん」
ほんとはね。他も好き。メロンもキャラメルも。小豆さえ好きなの。
でもあなたが『一口ちょうだい』というのはこれだけだから。私は冷えるあなたの唇を見る。
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【No.8】
晩餐のスープに毒を入れられた。飲んだ瞬間気づいた。
「誰が入れた……!」
俺はテーブルに強か右頬を打ちつけた。もう起き上がれない。薄れゆく意識の中で同席者の顔を見る。
全員の薄ら笑い。
『……相打ちになったか』
俺は俺以外全員のシャンパンに遅効性の毒を入れていた。
俺も笑った。
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【No.9】
息子の学校は終業式に全員表彰状が贈られる。息子ももらってきた。
『リモートがんばったで賞』
実は息子は難病で、授業を全て病院に持ち込んだパソコンで受けた。特別に終業式だけ学校へ行った。副賞はクラスの子が描いた絵だった。
絵の中で息子はみんなとサッカーをしていた。楽しそうに。幸せそうに。
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【No.10】
背中がパックリ空いた真っ赤なドレスに身を包んだ女。俺を裏切って他の男に乗り移った。俺は白い背中へギラギラとした刃物を振り上げた。その瞬間投げ飛ばされる。彼女は柔道の金メダリスト。
「これでお終い?」
笑いかける彼女に「試合終了だ」と床からうめく。差し伸べられた手は別れの握手。サヨウナラ
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【No.11】
「こんどクリームソーダごちそうしてあげる」
7歳に言われた。可愛い。彼は本当にご馳走してくれた。13年後だ。
彼は20歳になっていて私は29歳。私の左手に指輪をはめた。
「結婚してください」
小学生のようにうつむいて顔をあげられない。白い領土に緑の冷たい海がじわじわと侵食する。
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【No.12】
電信柱に化け物がぶら下がっている。巨大な黒い塊。動く100対の目。うねる触覚。獲物を咥えバキバキと骨を折る。
私は叫ぶ「助けて!誰か来て!!」
誰も来ない。誰も気づかない。わかった。私は死んだのだ。それで生者には見えない物が見えるようになってしまった。
化け物と目が合った。
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【No.13】
『才能がないよ』と編集者に原稿を突き返されて10年。とある外国で賞を取った。お祝いの記者会見だ。
「日本では確かに才能がなかったかもしれません。しかしパソコンはどこでも持ち運べるのです。『日本がダメなら世界に行けばいいんじゃない?』マリーアントワネットみたいですね」
会場の笑いと拍手。
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【No.14】
釣り上げた魚を落とした。10センチほどだったそれはみるみる船上で膨らみ最終的には3メートルになった。そして跳ね上がった。私が最期に見たのは獰猛に開く魚の口と何百という歯だ。
『どうして釣り上げた瞬間にトドメを刺さなかったのか』
後悔したがもう遅い。私はそれに腰から噛みちぎられた。
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【No.15】
携帯を変えた。古い方は捨てずに家へ持って返った。母さんからのメールが残っているからだ。
『次来る時は好きな唐揚げをいっぱい作って待ってるよ』
『コロナが怖いからお正月は帰省しないね』連絡したときの返事だ。いつでも会えると思ってた。もっと長生きする予定だったのにね、母さん。
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【No.16】
隕石が落ちる日にあの人と待ち合わせて高台に登った。もう誰も助からない。隕石は土砂を巻き上げる。空は滞留物で覆われる。太陽の光は届かない。地球は凍りついて私たち人類は滅亡する。もしかしたら何千年かのち宇宙人が人間を再生するかもしれない。その時一緒に目覚めるため私たちは抱き合った。
(終)
【遅効】速効の逆。遅く効果が現れること。
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(念のため)
マリーアントワネットは『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』とは言ってません。当時のフランスのデマです。何百年も言われててカワイソウ。
↓↓次作『あなたの罪は許されるでしょう【Twitter140字小説16の物語その2】』スクロール下にリンクあります↓↓
【2021年5月1日初稿】