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番外編4 これからの為の決意

愛梨視点です。湊視点で楽しみたいという方は読み飛ばすかブラウザバックをお願いします。

また、かなり短めです。

 今日は今まで生きてきた中で一番嬉しい日だと断言出来る。彼と想いが重なったのだから。

 とはいえ、好意はこれまで過ごした日々の中で十分伝わってきたので、ほぼこうなる事は決まっていたと思う。

 けれど、土壇場になって弱気になった私を彼は受け入れてくれた。


(幸せだなぁ……)


 感極まってつい抱き着いてしまったが、彼はしっかりと抱き締めてくれている。

 そして頭を撫でられているのだから、そんな気持ちになるのは当然だろう。

 いつも優しく、梳くように撫でてくれる彼の指使いが大好きだ。


「湊さん」


 もう私と彼との間には何の壁も無い。だからなのか、名前を呼ぶだけの行為で胸が温かくなる。

 そしてただ名前を呼んだだけなのに、彼は穏やかな笑みを向けてくれた。


「どうした?」

「いいえ、何でもありません」


 本当に何かがある訳では無い。単に彼の声を聞きたくなってしまっただけだ。

 今までもあまり遠慮はしていなかったが、これからは好意を明確な言葉にしてもいい。

 その嬉しさがまた私の口を開かせる。


「湊さん」

「……やっぱり何かあるんじゃないのか?」

「いいえ、呼んだだけです。湊さん、湊さん、みなと、さん」


 何度呼んでも胸が温かくなる。これまでも呼んでいたはずなのに、それが特別なものに思えた。

 しかし、流石に呼びすぎた所為(せい)で彼が困ったような顔つきになる。


「本当にどうしたんだよ。何かあるんだろ?」

「ふふ、ごめんなさい。でも本当に何も無いんですよ。湊さん、私の彼氏の湊さん……」


 書類上は義妹で、一緒に住む同居人で、そして彼氏でもある最愛の人。

 そんな人と体温を分け合えるこの生活がとても愛おしい。

 もっと触れたくて彼の胸に頭を擦りつけると、私の言動に本当に意味が無い事を理解したのか、彼の腕がより強く私を包み込む。


「……まあ、いいけどさ」


 なんだかんだ言いつつも私を受け入れてくれた彼と、これからいくらでもくっつける事に胸が弾む。

 そして、そんな先の事を考えると疑問が浮かんだ。


(これからは湊さんの方からも積極的に触れてくれるのかな? ()をしてくれるのかな?)


 抱き合って、膝枕をしあって、その次は何かなど経験の無い私にも分かる。

 だが私達の間に壁が無くなったとはいえ、気遣いしすぎる彼がそこまで積極的になるとは思えない。

 今のこの距離感が不満という訳では無いが、もっと彼を誘惑すれば先へ進めるのだろうか。

 その行為を想像すると、期待で心臓の鼓動が落ち着かなくなる。

 心に満ちる感情の中に不安や恐怖など、負の感情は一切入っていない。それどころか今されても喜んで受け入れるだろう。


(まあ、湊さんの性格上有り得ないけど。もっと強引でもいいのになぁ……)


 既に半年間一緒に生活しているのだ。互いの事など分かりきっているので、強引に迫られても全く問題無い。

 いっその事そうして欲しいとも思うが、優しい彼は絶対にしないと言い切れる。

 どうせ彼の事だから「付き合ってすぐにそんな事をするのは早い」とでも思っているのだろう。そんなところも好きなのだから重症だ。


(でもキスも、その先も、きっと幸せだろうなぁ)


 ぼんやりと考えつつ、顔を上げると至近距離の唇に目が釘付けになる。

 そういえば以前、彼は強引に私のそれに触れようとしたなと思い出した。

 あの時の再現すれば今度こそ触れてくれるかもしれないと、ジッと見つめる。


「うん? 俺の顔に何かついてるか?」

「……いいえ、別に何もありませんよ」

「そうか? ならいいんだが」


 彼は私の意図に全く気付かず首を傾げた。

 なんだか一人で舞い上がっているみたいで恥ずかしくなり、彼の胸に再び顔を埋めると、男らしい指がすぐに頭を撫でるのを再開する。

 こうして甘えさせてくれるのに、肝心なところは奥手な彼にちょっぴり納得がいかない。

 だからこそ私は決意する。


(もっともっと近づいて、彼が思わず触れたくなるようにすればいい)


 私のやりたい事はこれまでと何も変わらない。彼が許してくれる範囲で遠慮なく甘えよう。

 それに彼は私を受け入れたのだ。嫉妬深くて、面倒臭くて、重い女のこの私を。

 となれば、そんな女の取る行動は一つしかない。


(……ずるい女だなぁ)


 私は大切な人の想いを利用して、それを独り占めしようとするような女だ。

 こんな女に好かれたのだからご愁傷様だとは思うが、それでも好きだと言った以上、もう絶対に離しはしない。

 そう思いつつ、とりあえず私を溶かす温もりに溺れる事にした。

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