第74話 幼馴染達の協力
雨宮と会った次の日、バイトが無かったのでファミレスに一真と百瀬を呼び出した。
話す内容は事前に教えていなかったものの、二つ返事で了承してくれたのには感謝しかない。
また、少し気がかりな事があったので愛梨は呼んでいない。二人にもそれを納得してもらっている。
そうして、幼馴染三人での話し合いが始まった。
「まずはこの数日、全くフォロー出来なくて悪い。俺が間に入ったり盾になると状況が悪くなると思って助けられなかった」
一真が深く頭を下げてくるが、その件に関して怒るつもりも責めるつもりも無い。頑張らなければならないのは湊なのだから。
それに一真の言い分も一理ある。愛梨と距離を詰めようとしている人が守られているようでは誰も関係を認めはしない。
なので、首を振ってその言葉を否定する。
「気にすんな、自分の状況を把握できるいい機会だったさ」
「わたしもごめんね、愛梨の方がかなりバタバタしてて手が回らなかったよ……」
「いや、むしろありがとな。愛梨の方をフォローしてくれるだけでも助かるよ」
家ではけろりとしているが、やはり愛梨の方も相当大変だったようだ。
そのフォローに回ってくれているのだから、一真と同じで百瀬も責めるつもりは毛ほども無い。
そもそも湊の方が先日の件だけだったのが奇跡なくらいで、愛梨の方はもっと大事だっただろう。
だが、今日まで家で大丈夫かと何度も尋ねたものの、彼女は心配させない為か初日以降詳しい状況を話さなかった。
代わりに全力で甘えてくれるのは嬉しいものの、不安はある。なので、愛梨には申し訳ないが百瀬に聞くことにしたのだ。
彼女は湊を優しいと言っているが、優しいのはあちらの方だと思いながら百瀬に尋ねる。
「それで、愛梨の方は落ち着いたのか?」
「うん、何とかね。湊君とは一番親しい異性の友人っていう関係になってるよ。……まあ愛梨の目の前で湊君を非難した人が一人だけいたけど、あの時の愛梨は怖かったなぁ」
その時の光景を思い出したのか、百瀬の顔が青くなった。
湊の方に噂として広まっていないので、おそらくだが大事にはならずに愛梨が冷静に処理したのだろう。単に湊が聞いていないだけなのかもしれないが。
とはいえ、実際のところは内心では相当頭に来ていたと思うので、本当に良く抑えてくれたと愛梨への感謝をしながら頷いた。
「なるほど。なら、その結果落ち着いたってところか」
「だね、わたしだから愛梨の怒った事に気付いて仲裁に入ったけど、放っておいたらどうなるか分からなかったよ」
「悪い、苦労かける」
「なんで湊君が謝るのさ。わたしが二人の仲を応援したいからそうしてるんだよ」
「……ホントに、助かるよ」
太陽のような明るい笑顔は湊の心を軽くしてくれる。
改めて感謝を伝えて一段落すると、一真が口を開いた。
「次は湊だな、ここ何日かの手応えはどうだ?」
「……まあ、ほんの数日だから特には何も。けど、後三週間とちょっとで出来るところまでは縮めるつもりだ」
「具体的にはどれくらいだ?」
「二人きりで放課後に行動出来るくらいだな、流石に休日出掛けるのは無しにする」
湊と愛梨だけで放課後に行動出来るようになれば、大分距離が縮まったと言ってもいいだろう。
そして休日に関しては湊達はほぼ物欲が無いので、そもそも買いに行く物が無いという理由だ。
最悪、百瀬の代わりと言う手段も取れるのでそこまで深刻に考えていない。
かなりの早さで距離を縮める事になるのが分かったのだろう、一真達が渋い顔をする。
「何と言うか、それ大丈夫か? やっかみが凄そうだぞ?」
「分かってる、でも愛梨も一緒に頑張るって言ってくれたからな、それくらいじゃあへこたれないさ」
「……急にのろけたね、まあいいや。そこまで早いのは文化祭があるからだよね?」
「その通りだ、そして今日二人を呼んだ本題でもある。具体的に言うと融通を利かせて欲しい、特に一真だな」
この二人はクラスでも発言力のある二人だ。しかも一真は文化祭を仕切る側なので、湊の願いを叶えられるだろう。
短い言葉だけで二人は意図が分かったのか、ニヤリと悪い顔になった。
「湊と二ノ宮さんの文化祭中の自由時間が重なるようにするんだろ? 確かにそれは俺達向けだし、そもそも夏祭りの日に協力するって約束したからな。やるぞ紫織」
「任せて! 幼馴染の恋を応援するのがわたし達の役目だよ、湊君がそうしてくれたようにね!」
「……ありがとな」
悪巧みに近いが、こうして三人であれこれ考えるのは幼い頃に戻ったみたいで不思議と楽しくなる。
話が一段落したので文化祭の事は一旦置いておき、別の話をしようと口を開く。
「そういえば百瀬に俺が愛梨の事を気になってるなんて言って無かったんだが、当然のように知ってたな」
別に一真には百瀬に話すなと口止めしていた訳では無いが、彼女は当たり前のように知っていた。
気になったので尋ねると、じっとりとした目で睨まれる。
「……気付かないとでも思ってたの? 大分前から分かってたよ?」
「マジか」
そこまでとは思わなかったので呆けたような声が出てしまった。
特に夏休みの間だと百瀬の前で愛梨と一緒に居た時は数える程しか無かったが、どうやら筒抜けだったようだ。
「もうね、これぞバカップルって感じだよ、告白してないのがおかしいくらい。もう事実上の恋人でしょ?」
「バカップル言うな。まあ、限りなく恋人に近いのは否定しないけど」
呆れた風な百瀬の言葉は否定出来ないが、バカップルとは呼ばれたくない。
頭を撫でるのはもう当たり前になっているし、互いに触れ合わない日は無いくらいだ。
そもそも同じ布団で寝ている時点で、接触していないなど口が裂けても言えない。
湊の言葉に百瀬は一段と呆れの視線を深める。
「そのくせ外では近づく事すら困難だなんてちぐはぐ過ぎだよ。……この数日の状況を考えれば仕方ないと思うけどね」
「だろう? だから外でも距離を近づけて、俺が愛梨の隣に立てるようになったら伝えるさ」
「誠実というか、湊君らしいね。今が辛くても湊君と愛梨が幸せになるならそれが一番だよ。幼馴染としては少し寂しいけど」
そう言って百瀬はいつもの元気な笑顔では無く、いつか見たような儚い笑顔を浮かべた。
「何言ってんだ、幼馴染の関係が崩れる訳ないだろうが。そうだろ?」
「うん、そうだね!」
「ああ、もちろんだ」
昔の事を思い出しながら三人で笑い合う。
今だって一真達と四六時中一緒にいる訳では無い。いつか離れる時が来るのかもしれない。
けれど、こうして顔を合わせて笑い合えるのだろうなと未来に思いをはせながら時間は過ぎていった。




