第7話 湊の幼馴染達
ここ数日で、ようやく名前と顔が一致しだしたクラスメイトに軽く挨拶して席に着いた。
「相変わらず眠そうな顔してるなあ、またゲームして夜更かしか?」
幼馴染の六連一真が呆れたように言う。
確かに昨日は眠れなかったが原因は違う。理由を説明する訳にはいかないので話に乗らせてもらう。
「まあな、ちょっと熱中しすぎた」
「お前の場合はちょっとじゃないだろうが」
「確かにな」
湊が認めると大笑いされた。腹が立ったので足を踏もうとしたが綺麗に避けられてしまった。
眉を寄せて一真を見ると、今度はニヤニヤとした表情を浮かべている。
「そう言えば、ゲームって言ったら湊は銀髪碧眼がタイプじゃなかったか?」
「まあ好みだな、ゲームの中だけど」
ゲームの中では銀髪碧眼は好きな方だ。実際に見るとは思わなかったが。
染めているとは思わないので、大体の予想はしているが聞いた事は無い。
昨日の反応を見るに、どう考えても地雷のようなので湊の方からその話題に触れる事は無いだろう。
「なら話題の新入生に話しかけてみたらどうだ?」
「嫌だね」
愛梨の話が出てきて湊は一瞬だけ動揺したものの、態度に出ないよう気を張る。
からかうように聞いてきたので、スッパリと断った。
「なんでだよ」
「勘弁してくれ。この見た目だぞ、釣り合う訳が無いだろうが」
「……普通だろ」
「お前に言われると腹が立つな」
特徴のない黒髪にこれまた特徴のない顔、目の前の顔の整った幼馴染とは雲泥の差だ。
わざわざ話しかけてボロを出したくないという事もあるが、釣り合わないというのは事実だろう。
湊が顔を顰めて言い返すと、一真の顔が気まずそうな苦笑いになった。
「顔の話は抜きにして、今頃は紫織が同じクラスになったからって頑張ってそうだし、もしかしたら今日新入生と一緒に帰れるかもな」
湊のもう一人の幼馴染でもあるが、一真には百瀬紫織という一つ年下の恋人がいる。
愛梨の昨日の反応を思い返して、一緒に帰れる望みは薄そうだと思ったがここで否定はできない。
「まあほどほどに期待しておく」
「紫織が駄目ってことはあまり無いとは思うがな」
百瀬はコミュニケーション能力が高く、誰とでも仲良くなれる。本人の明るい性格も相まって昔から友人が多い。
それを知っているので、一真は百瀬を信頼しているような優しい目をしている。湊も普段ならそう思うのだが、今回ばかりは相手が悪いと内心で苦笑した。
そのまま愛梨の話になるのかと湊は思ったのだが、一真が「ところで」と話題を変えてきた。
「湊、昨日のあの人の呼び出しは何だったんだ?」
今までの明るい雰囲気は何処に行ったのかと言うくらい真剣な声色で尋ねてきた。おそらく最初からこちらの方が気になっていたのだろう。
一真とは昔からの付き合いなので、湊の家庭事情を全て知っているし、昨日義母に呼び出された事も伝えている。
とはいえ愛梨に迷惑が掛かるので同居を始めた事は話せない。義母が言いそうな事を言って嘘をつく。
「……今年も迷惑かけるんじゃないぞって言われただけだ」
「わざわざ文句を言いに来たのか、あの人は変わらないな」
「まったくだ」
「二人共、駄目だったよ。一緒に帰ろうって言ったけど断られちゃった」
放課後、湊と一真の隣を歩く百瀬が肩を落として落ち込んでいる。本当に愛梨に話しかけにいったようだ。
うなだれる百瀬の頭を一真が慰めるように撫でた。イチャつくなら二人きりの時にして欲しい。
「紫織が駄目なら他のやつが言っても駄目だろうなぁ」
「いやー、わたしがコミュニケーションを取りづらい人がいるとは思わなかったな」
多少元気が出たようだが、ぎこちない笑顔になっている。
やはり百瀬でも駄目だったという事は、愛梨の「友達を作るつもりはない」という発言は本物だったようだ。
「拒絶されたのか?」
「ううん、やんわりと笑顔で今日は用事があるからって言われたよ」
「なるほどな、なら次は上手く誘えば一緒に帰れるかもな」
「……あんまり無理強いするなよ、百瀬」
百瀬に悪気は無いのだが、おそらく何度言っても愛梨の返事は変わらないと思う。
ならば、なるべく互いの労力を減らした方がいいと思って百瀬に釘を刺した。
「湊君、わたしがそこの匙加減を間違えると思う?」
百瀬が心外だとでも言うように湊を睨む。
「いや、百瀬なら大丈夫とは思うが一応な」
「珍しいな。湊が紫織にそういう事を注意するなんて」
確かに百瀬にそう言う事を注意することは殆ど無かった。
距離感を間違える子では無いから大丈夫だろうと、今まで言わなかったことが災いしたようだ。
動揺が表に出ないよう注意しながら話す。
「そうか? 俺のようにコミュ障かもしれないからな、そういう人は誘っても逆効果だと思うぞ」
「湊君はコミュ障というか、ちゃんと会話はするけど、他人とあんまり関わろうとしないだけだと思うな」
「俺はお前達のように見た目が良くないし、面白い話もできん。友達というならお前達だけで十分だ」
二人は昔から一緒だったので湊の性格をよく知ってるが、他の人はそうではない。
クラスメイトを拒絶している訳では無いが、普段は当たり障りのない会話をしている。一緒にいても楽しくない人とは友達にはなりたくないだろう。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、勿体無いと思うんだよなあ」
「そうだよね、別に面白い話が出来るのが友達の条件じゃないと思うんだけど」
「ほっとけ」
二人が湊を褒めるので恥ずかしくなってそっぽを向いたが、思いきりからかわれた。