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第6話 朝の弱い愛梨

 寝ぼけた頭に電子音が響く。止める為に手をさ迷わせ、ようやく目的の物が見つかったので停止させて体を起こす。

 どうして床の上で寝ていたのか一瞬分からなかったが、そういえば同居を始めたのだと思い出した。

 床で寝ると言い出したのは湊なので不満は無いのだが、体のあちこちが痛い。これからは床で寝るのだし、そのうち体も慣れるだろうと思考を切り替えた。

 愛梨が昨日早めに起きたいと言っていたため、時刻を確認するといつもよりかなり早い時間だ。

 とりあえず布団に行き、まだ寝ている彼女を見て固まってしまった。


(綺麗だな)


 思わずそんな感想が浮かぶ。

 布団に広がる美しく長い銀髪、起きている時とは違うあどけない寝顔。天使と言っても過言では無いだろう。

 何だか見てはいけないものを見てしまったように感じて、胸の鼓動が勝手に速くなる。

 熱くなってしまった顔を意識しないようにしつつ声を掛けた。


「二ノ宮、起きろ」


 全く反応が無い、何度声を掛けても同じだ。

 仕方がないので、強硬手段に出る事にする。


「おい、起きろ」


 寝起きに機嫌が悪く、手が出るようなタイプでないことを祈りながら肩を掴んで揺さぶると、ようやくアイスブルーの目が開いた。


「おはよう、二ノ宮」

「……」

「二ノ宮?」

「……」


 声を掛けても全く反応が無く、瞳はガラス玉のように澄んでいて何も映していない。

 とりあえず放置したまま自分の支度を終わらせてもずっとボーっとしたままだった。

 そのまま朝食の準備をしつつ観察していると、ようやくのろのろと動き出し、洗面所に向かっていった。

 どうやら朝はかなり弱いようだ。


(美少女で料理も美味い完璧な人にも駄目な事はあるんだな)


 苦手な事を見つけれた事に湊はくすり、と微笑した。

 洗面所から出てきた愛梨は、居間のど真ん中で着替えようとパジャマを脱ごうとしている。

 慌ててキッチンから彼女のところに行き、脱ごうとした手を抑えると、「なぜ邪魔をするのか」と言いたげな幼い表情で首を傾げられた。

 真っ白で健康的なお腹が少しだけ見えてしまったのはどうしようもないことだと納得する。


「着替えるなら部屋の隅でやってくれ。俺に見えるぞ」

「……え? す、すみません!」


 湊に言われてようやく意識がハッキリしたのだろう。湊がキッチンに戻ると、顔を赤くした愛梨は部屋の隅で着替え始めた。


 しばらくして朝食が出来たものの、湊の視界から外れている彼女の準備が終わっているか分からない。注意しながら声を掛ける。


「朝食、そっちに運んでいいか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 許可をもらったので二人分のご飯をテーブルに乗せる。

 ちょうど愛梨の準備が整ったので、互いに座るとばつが悪そうな顔でもじもじしている。


「どうした?」

「その……おはようございます、九条先輩」

「おはよう、二ノ宮」


 どうやら寝ぼけて朝の挨拶をしていない事を気にしていたらしい。

 妙に律儀だなとおかしくなって含み笑いをすると、恥ずかしいのかほんの少し頬を染めてそっぽを向いた。

 これ以上笑っていると機嫌が悪くなりそうだったので、湊は咳払いを一つして朝食を摂る。


「「いただきます」」


「すみません、見苦しいところをお見せしました」


 朝食を摂っていると愛梨に頭を下げられた。

 朝が弱い人なんていくらでもいるだろう。別に謝られるような事ではないと思うので、気にするなというように湊は明るい声を出す。


「いや、それは別にいいんだが。朝弱かったんだな」

「こう、意識がぼんやりとしてて、反応が出来ないんです」

「あの感じだと朝は駄目そうだし、これから朝食は俺が作ろうか?」

「いえ、私が作ります」


 大真面目な顔で断言された。

 愛梨がしっかり起きてから学校に行く準備をして、それから朝食を作るとなるとかなりの時間が掛かる。

 そうなると相当早起きになると思うので、それなら準備の早い湊に任せて欲しい。


「なんでそこで意地を張るんだ。ただでさえ女の子の準備は時間が掛かるんだ、朝食くらい任せてくれ」

「……時間が掛かってすみません」


 顔を(うつむ)かせながら暗い声で謝られた。どうやら時間が掛かることについて湊が怒っていると勘違いしたようだ。

 

「すまん、言い方が悪かった。時間が掛かることを気にしないでくれ」

「ありがとうございます。……すみませんが朝食の準備、お願いしてもいいですか?」


 出来るだけ穏やかな声になるよう意識しつつ頭を下げると、こちらを見た愛梨がおそるおそるお願いしてきた。

 今日の朝食なんて目玉焼きとウインナーを焼いただけだ、こんなもので良いというなら湊でも作れる。

 

「任せろ、と言っても大したものは作れないがな」

「十分ですよ、本当にありがとうございます」

 

 朝から見る美少女の淡い微笑みはとても目の保養になった。 


「すみません。私、外では他人のフリをします」

「ああ、厄介事になるくらいなら俺としてもそっちの方がいい」


 朝食後、愛梨と外でのお互いの対応について話し合いたいと相談を受けた。

 入学式の次の日から男の先輩と仲良くしていたら相当な話題になるだろう。ましてや同居しているなどと言うわけにもいかないので、湊にとっても有難い。


「それもありますし、男の人と一緒に登校というだけで話題になりますので」

「……苦労してるな」

「本当に、うんざりします」


 嫌そうに眉を寄せ、吐き捨てるような声で言われた。美人は良い事ばかりではないなと少し悲しくなった。

 話を変えたいのか、普段通りの声に戻った愛梨が別の話題を持ち出す。


「昨日話した通り私が夜ご飯を作るので、学校終わりに食材の買い物に行きます」

「分かった。一緒に行って荷物持ちをするのは……止めておいた方がいいだろうな」

「当たり前です、他人のフリをするって言ったじゃないですか。そもそも九条先輩はバイトの日もあるはずです。それで、今日食べたい物はありますか?」

「二ノ宮の料理が美味いのは分かってるが、どこまでなら作れるんだ?」


 無茶な要求をする訳にはいかないが、何が作れて何が無理か分からない。

 質問に質問で返すと愛梨の眉が寄せられ、首を(かし)げて悩んでいる。


「……そう言われると難しいですね。試しに食べたい物を言ってみて下さい」

「そうだな、魚が食べたい」

「調理方法は?」

「シェフのお任せで」


 愛梨のものはどれも美味しいと思うので、冷やかすようにお任せすると、おかしそうに顔を(ほころ)ばせた。


「分かりました、腕に()りをかけて作りますね」

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