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第5話 気になる表情

 夜も更け、そろそろ寝る時間になってきた。

 愛梨の顔を確認すると(まぶた)が重たそうにしているし、欠伸もしている。

 口を手で隠して欠伸をする人は結構見るが、妙に上品というか、欠伸をする姿も綺麗に見える。あまりじろじろ見るとまた怒られそうなので早々に顔を逸らした。

 男でもそうやっているのは見るが、彼女とは天と地ほどの差があると思う。


「そろそろ寝ようか」

「そうですね」


 洗面所が狭いので交代で歯を磨き、愛梨が洗面所から帰って来るまでに寝る準備をする。

 ちょうど準備が整ったところで戸惑った声が掛かった。


「あの、布団が一つしかないのですが。どうやって二人で寝るんでしょうか」

「二ノ宮は布団で寝てくれ、俺は適当に床で寝る」

 

 そう伝えると困ったような顔をされた。

 もしかすると男の匂いのする布団は嫌なのだろうか。そんなに変な匂いはしてないと思うのだが、臭いとか言われたら普通に傷つく。

 

「えっと、あの」

「もしかして男の使ってる布団は嫌だったか? すまんが我慢してくれると助かる」


 落ち込みながらも表情には出さずに言うと、愛梨は首を何度も横に振って否定した。


「いえ、それは大丈夫なんですが。九条先輩が床で寝るのは駄目です」

「とは言っても一緒の布団で寝るのは駄目だし、新しい布団を買う訳にもいかないぞ?」


 同じ布団で寝るのは却下だ。同居するとはいえ、その選択肢はありえない。

 そして新しい布団を買ったところで1Kには敷くスペースがそもそも無い、よってこっちの選択肢も駄目だ。

 だが、男一人が家具の隙間で寝るくらいの余裕はあるので、湊としては自分が床で寝るのが理想だろうと思っている。

 なので愛梨には布団で寝ろと言ったのだが、納得できないらしく文句を言いたそうな顔になった。


「でしたら私が床で寝ます、九条先輩は布団で寝てください」


 とんでもない事を言い出した。

 女の子を床で寝させて自分は布団で寝る、というのは最初から湊の選択肢に入っていない。

 何かの間違いじゃないかと愛梨の目を見たが、冗談を言っている目には見えなかった。


「却下だ、それは認めない」

「ですが、私が住まわせてもらうのですから、そうするのが一番です」

「住まわせてもらっているとか言うな、女の子を床で寝させるなんて無しだ無し」


 反論を許さない固い口調で意見を突っぱねる。

 住まわせてもらっているなんて言わないで欲しい、一緒に住んでいるのだからそういう上下関係は無しにしたい。

 

「でも――」

「いいから布団で寝ろ、分かったな」

「……はい」


 まだ納得できないようで、口論を続けようとする愛梨の意見を強引に遮ると渋々承諾してくれた、これ以上揉める事になると長引きそうだったので有難い。

 電気を消し、床に寝転がってブランケットに包まる。


「九条先輩、おやすみなさい」

「おやすみ、二ノ宮」





(駄目だ、全然寝られない)

 

 電気を消してどれくらい経っただろうか、目が冴えてしまって眠れない。

 どういう結果であれ同じ部屋に美少女が寝ているのだ、緊張して寝れる訳がない。

 愛梨はもう寝たようだ、規則正しい息遣いが聞こえて来る。

 同居が決まって大変だっただろうし、ずっと気を張っていたのだろう。

 真っ暗闇にエアコンの稼働音と彼女の寝息が小さく響く中、物思いにふける。


(今日一日だけで随分変わったな)


 銀髪碧眼の美少女が入学してきて、その子と急に同居する事になり、こうして同じ部屋で寝ている。

 一日前の湊に今日の事を伝えても絶対に信じないだろう、と言うか今でも信じられないくらいだ。

 二ノ宮愛梨。入学式、ファミレス、そして部屋に来た時はまるで生気の無い表情で、正直近寄りがたい雰囲気だったが、この数時間でいろいろな表情を見られた。

 照れる顔、呆れる顔、そして微笑み。どれもわずかな表情の変化だったが、人形のようだとはもう思っていない。

 まあ気を悪くしてしまって、ゾッとするような無表情や貼り付けたような笑顔をされる事も多かったが、これは湊が無神経な質問をするのが悪いので彼女を怒るつもりなど無い。

 訳ありならばただの他人として接すればいいだけなのだが――


(何故か気になるんだよな)


 綺麗ではあるし、女の子として意識もしているが、別に惚れた訳では無い。

 原因は何かと今日を振り返っていると、人形のような無表情と歪な笑顔を思い出した。あの表情を見てると嫌な気持ちになって落ち着かなくなってしまう。

 何故だろうかとあれこれ考えたものの答えは出ず、結局のところできるだけ彼女に気を遣ってあの表情をさせないようにするしか思いつかなかった。

 これ以上考えても仕方ないと思い、ようやく来てくれた睡魔に身を任せた。

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