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第30話 勉強会のお誘い

「もうすぐ期末考査なんだが、今回はどうする?」


 体育祭も終わり、どんどん暑さが増していくある日。一真と学食で昼飯を摂っているとそんなことを言われた。

 普段は百瀬も一緒に食べることが多いのだが、最近は愛梨と一緒に食べている。

 わざわざ一真から言ってくる辺り、前回湊が断ったのを気にしているらしい。


「お前達が二ノ宮の事情を知っているから、今回は四人で勉強出来ればとは思ってる。最終的に本人の意思に任せようと思うけどな」


 一真達に事情を言う訳にはいかなかったから前回は断ったのだが、もう二人は事情を知っているし、

愛梨と百瀬は良い関係を築けてそうだ。

 なので愛梨には参加して欲しいとは思っているものの、無理強いする訳にはいかない。結局のところ本人次第だ。


「なるほどな、多分二ノ宮さんへは紫織が聞くとは思うけど、一応お前からも聞いておいてくれ」

「了解だ」

「それと、もし一緒にやるなら場所だよな、流石に俺の家は駄目だろ?」

「当たり前だ、俺の家も四人で勉強となると無理があるし、百瀬の家だろうな。お前の彼女の家に上がるが、それでもいいか?」


 一真の家は愛梨が遠慮するだろうし、湊の家はスペース的に不可能だ。となるともう百瀬の家しかない。

 ただ、百瀬の家に入るのは久しぶりだ。中学生の頃に二人が付き合い出してから一度も入っていない。

 いくら幼馴染とはいえ彼氏でもない男が入っても大丈夫なのだろうかと一真の顔を見ると、いつも通りの明るい笑顔をしている。


「何遠慮してんだ、気にすんな。紫織も気にしねえよ」

「ありがとな」

「ただ……」


 一真が歯切れの悪い言葉を零しながら、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 こういう顔をするのは珍しいが、湊には理由が思い浮かばない。

 

「ただ、どうした?」

「必ず二ノ宮さんを連れて来て欲しい」


 一真が切羽詰まった表情でお願いしてくる。百瀬や湊が愛梨を気にするのは分かるが、なぜ一真がここまで愛梨を気にするかが分からない。

 一真の愛梨への態度はあくまで「彼女の友人」というものであり、きちんと線引きをしているので真剣に誘ってくるのには疑問を覚える。


「なんでお前がそんなに気にするんだよ」

「紫織が最近二ノ宮さんがーって騒がしいからここらで落ち着いて欲しい。あとやっぱりお前がいた方が勉強が(はかど)る」

「……苦労してるな、お前」


 百瀬が愛梨のことを気に入っているというのは分かっていたが、一真と一緒にいても話題に出すほどだとは思わなかった。

 驚きはしたものの、その光景が容易に想像できてしまい湊は苦笑する。

 この二人は昔から集中力が続かないので、湊が毎回勉強に引き戻す役割だった。

 前回のテストで点数が下がったのは、やはりブレーキ役の湊がいなかったからだろう。


「……あいつが喜ぶのはいいんだがな、複雑だよ。偶にはお前も巻き添えになってくれ」


 別に百瀬のことは嫌いではないし、昔から湊と一緒に居てくれるので信頼もしている。

 一真が疲れた顔で懇願してくるが、テンションの上がって暴走する百瀬に巻き込まれるのはごめんだ。


「嫌だね」


 湊が断ると一真はがっくりと項垂れた。





「勉強会ですか?」

「ああ、今回は一緒にどうかと思ってな。百瀬から聞いてないか?」

「確かに最近聞かれましたね、でも……」


 夜飯後に聞いてみたものの、嬉しさと申し訳なさが混じった複雑そうな顔をされた。

 あまり乗り気ではないように見える。


「嫌か? だったら断って欲しい」

「嫌という訳では無いんですよ、本当に良いのかなと思っただけです」


 どうやら単に遠慮しているだけのようだ。

 百瀬が望んでいるので気を遣う必要は無いのだが、どうしても気になるらしい。

 他人、特に女子に対して妙に気遣うのは愛梨らしいが、仲が良くなった百瀬に何もそこまでしなくてもいいだろうと湊は苦笑した。


「百瀬から言ってきたんだから、遠慮なんてしなくていいぞ」

「分かりました。では九条先輩はどう思ってるんですか?」

「どう、とは?」

「私に勉強会に参加して欲しいですか?」


 湊の意見を聞かれたが、既に決まっている。


「二ノ宮に任せようと思う。嫌なら嫌で断ってくれていいし、参加したいと思うのなら参加すればいい」

「それは答えじゃないです。私に参加して欲しいですか? 欲しくないですか?」


 どうやら湊個人の思いを聞きたいらしい。

 有耶無耶にするのは許さない、と真剣な眼差しで湊を見つめてくる。

 湊の思いを聞いても最終的には愛梨がどうしたいかというだけなので、彼女がなぜそんなに真剣に尋ねてくるのか分からない。

 とはいえ、逃げれるような雰囲気でもないので、あくまでも強制ではないという思いを込めながら言う。


「参加して欲しいと思ってるよ。折角だからあの二人とも仲良くなって欲しい」

「分かりました、参加します」


 先程まで結構渋っていたのだが、ものすごくあっさり参加すると言われた。

 そんな簡単に決めてしまっていいのだろうか。


「簡単に決めたな。別に強要するつもりは無いんだ、無理してないか?」

「無理なんてしてませんよ」

「本当か?」

「どうしてここで嘘を吐く必要があるんですか、嫌であればちゃんと嫌と言いますよ」


 念を押して聞き、顔もしっかり見るがやんわりと微笑まれた。嘘をついてはいないようでとりあえず一安心だ。

 正直参加してくれるのは湊にとっても有難い。

 男子は例外としても、愛梨は普段女子に気を遣いすぎている節がある。

 なので、ここらで百瀬と気兼ねなく言えるような関係になって欲しいと思っている。あくまで湊の個人的な意見なので愛梨には言わないが。

 また、仲を深めて欲しいというのは第一ではあるが、湊にとってはもう一つ目的がある。


「分かった。それで、申し訳ないが二ノ宮にお願いがある」

「お願いですか、珍しいですね。何でしょう?」


 確かに普段、湊が愛梨にお願いすることは少ない。

 夜飯は何が良いかはいつも聞かれて、湊の食べたいものを答えているが、あれは例外だろう。

 料理したことのある人にとっては、何でもいいと言われるのは結構辛い。

 なので、食べたいものに関してははっきり言うが、それ以外にお願いしたことはほぼ無い。

 しかし、この件に関しては愛梨にお願いするしかない。


「百瀬の勉強を見てやって欲しい」

「紫織さん、勉強が出来ないんですか?」

「いや、一応平均くらいはあるんだが、集中力が無くてな、すぐに遊びだすんだ。それを止めて欲しい」


 毎回あの二人を勉強に引き戻すのは結構な体力を使う。

 愛梨に参加してもらい、ブレーキ役が二人になるだけで大分変わるだろう。

 まさかそんな役をするとは思っていなかったようで、愛梨が目を瞬かせている。


「え、私がですか」

「そうだ。同じ学年だし、お前は百瀬に気に入られてる。とはいえ厳しくしてやって欲しい。出来るか?」

「厳しくですか、何もそんなにしなくても」

「駄目だ、あいつは絶対に遊ぶ、妥協は無しだ。どうしようもなかったら俺に言ってくれればいいから」


 妥協するなと言うと愛梨の顔が曇るが、ここで許すと(ろく)な事にならない。

 どうしようもなかったら湊を頼ってくれ、と逃げ道を用意するとようやく納得してくれた。


「そこまで言うなら分かりました。お願いを聞いたお礼と言っては何ですが、私からもお願いがあります」

「お願い? いいぞ、何だ?」

「期末試験が終わったら言いますので、今は無しです」


 そう言ってニヤリと意地悪そうな顔をされた。嫌な予感がして湊は眉を寄せる。

 最近分かってきたが、この顔の時のお願いは湊の心臓に悪い事が起きる。


「お前がそういう顔をする時は大概碌な事にならないんだが」

「まあまあ。勉強会、楽しみですね」


 露骨に誤魔化されたが、柔らかく微笑んで楽しみにしている愛梨の顔を見ていると、問い詰める気にはならなかった。

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