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第27話 プレゼントは難しい

 家に帰り、ショッピングモールで買ったプレゼントを渡そうと思ったのだが、なかなかきっかけが無くて言い出せずにいる。

 湊の態度が挙動不審だったのか、愛梨が心配そうにこちらを見つめてくる。


「九条先輩、どうしたんですか。何か様子が変ですよ」

「あー、それはだな。……二ノ宮、手を出してくれないか?」

「はぁ、分かりました」


 愛梨は湊が突然言い出した事に疑問を覚えたようだが、何のためらいも無く手を差し出してくる。

 ここまでさせてしまったのだからもう渡すしかない。覚悟を決めてプレゼントを取り出す。

 

「その、プレゼントだ」


 もっといい言い方があるだろうと自分でも思ったのだが、緊張してかなりそっけない言い方になってしまった。

 そもそも百瀬は例外として、女の子にプレゼントなどしたことの無い湊にとってこういうのはハードルが高すぎる。

 とりあえず愛梨の手にラッピングされたプレゼントを乗せると、何が何だか分からないと首を(かし)げている。


「え、何のプレゼントですか?」

「日頃のお礼だ。一応いつもお礼を言ってるつもりだが、それじゃあ足りないと思ってな」

「既に今日いっぱいもらってるんですが、ありがとうございます。……開けていいですか?」

「ああ、いいぞ」


 湊が普段のお礼と言うと愛梨は苦笑したが、なんだかんだ嬉しいようで、包装を開ける時に嬉しそうな微笑になった。

 その顔が見れただけでもプレゼントした甲斐がある。やはり普段の感謝は物としても示した方がいいのだろう。


「ヘアピンですか?」

「あまり大きい物は良くないかなと思って小物にしたんだ」

「大きいものや高いものをもらっても困るだけですからね」

「そこは覚えてたから、正直結構悩んだ」


 愛梨の物欲が無いのには困ったが、前に聞いた事を参考にして選んだつもりだ。

 自信は無いので正直に伝えると愛梨が嬉しそうに笑う。


「ふふ、そこまでしてくれるなんて思いませんでした。この花も綺麗で――」


 花の形を見てから愛梨の顔が固まった。


「……アイリスの、花、ですか」


 湊にすら聞こえるかどうかの、かなり小さい声で愛梨が言う。

 アイリスと言ったのか、店員さんに聞いたのはアヤメという花だったはずだ。


「その花、アヤメって言うんじゃないのか?」

「そうですね、アヤメという花の種類の一つにアイリスがあるんですよ」

「なるほどな」


 愛梨の表情は複雑だ。嬉しいのか、悲しいのか、様々な感情が混ざっていて良く分からない。

 どうやら湊のプレゼントは失敗したようだ。女の子へのプレゼントは何が良いのかよく分からない。

 こんな顔をさせたい訳ではなかったのに、結果的にこうなってしまった自分の考えの浅さが憎い。


「ごめんな、いいものじゃなくて。それ、捨てていいから」

「いえ、捨てませんよ。ありがとうございます」


 お礼を言ってくれるものの、愛梨の表情は複雑なままだ。


「でも、二ノ宮の表情が変だ。プレゼント、嫌なら無理に受け取らなくていいんだぞ?」


 湊を気遣う為に嬉しくないプレゼントを受け取るくらいなら、本当に捨てても構わない。

 だが、愛梨はヘアピンを両手で、とても大事そうに包み込んでふんわりと微笑む。


「プレゼントは嬉しいんです、本当ですよ。受け取るに決まってるじゃないですか」

「でもーー」

「……九条先輩、マッサージの時の罰ゲーム、いいですか」


 嘘は言っていないようだが、何か愛梨の触れてはいけないところに触れてしまったのだろう。

 湊の言葉を(さえぎ)って愛梨がおずおずとお願いしてきた。

 何でも言って欲しい、無遠慮に踏み込んでしまった事に対する罪滅ぼしだ。


「ああ、何でも言ってくれ」

「ヘアピン、つけてくれませんか?」

「俺がか? 髪に触るけどいいのか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「分かった」


 なぜか湊に着けさせて欲しいと言われた。理由は分からないものの、それくらいなら何も問題無い。

 一応彼女の髪に触れる許可をもらってから、部屋の明かりを受けて輝く銀髪にヘアピンを着けた。


「ありがとうございます、似合ってますか?」

「良く似合ってる、ぴったりだ」


 美しい銀髪に鮮やかな青は良く似合っている。目立つようなものにせず、小物にして良かった。

 お世辞なく褒めると。ようやく本当に嬉しそうに笑ってくれた。


「大事にしますね」

「本当に捨ててもいいんだぞ? 俺は気にしないから」

「そんな事しませんよ。本当に、ありがとうございます」

「ああ」


 それっきり会話が途切れる。今日家に帰る時と同じ静寂のはずなのに、どことなく空気が重い。


「私、アイリスの花って嫌いだったんですよ」

「……本当にごめん」


 ぽつりと愛梨が(こぼ)した言葉に血の気が引いた。やはり嫌な物だったようだ。

 湊が謝ると愛梨が首を横に振る。


「いいえ、私は『嫌いだった』と言いましたよ。九条先輩が謝る必要はありませんし、気に病む必要は無いんです。先輩のおかげで少し好きになれました。ありがとうございます」

「俺はただ、二ノ宮に似合うと思ってプレゼントしただけだ」

「ならいいんです。それだけで十分ですよ」


 微笑んではくれたものの、アイリスの花については湊の方から触れないようにしようと決意した。

 どうにかして話題を変えなければと思って、今日出かけた際の話を切り出す。


「帰る途中にも聞いたが、今日は楽しかったか? 大分百瀬に連れ回させたけど」

「楽しかったですよ、あんなに楽しく出かけたのは初めてかもしれません。紫織さん、良い人ですね」


 初めてというのが気になったが、そもそも愛梨は普段出かけたくないと言っているくらいだ、あまり触れてはいけないだろう。

 百瀬に関してはどうなるかと思ったが、いい方向に働いてくれたようだ。

 楽しそうに今日の事を振り返る愛梨の顔が見れただけでも、今日のお出かけそのものは成功だ。


「ああ、あいつは良い奴だよ。俺の幼馴染には勿体無いくらいだ」

「別にそうとは思いませんが。むしろ九条先輩の幼馴染と言われて納得できるくらいです」


 愛梨がムッとした表情で湊の言葉を否定する。

 何故納得できるのだろうか。片や美少女で明るくイケメンの彼氏持ち、片や何の特徴も無い男子高校生だ。

 正直に言うと幼馴染三人の中で湊が一番仲間外れだと思う。


「何で納得できるんだよ」

「聞かれたくない事に踏み込まない事、私の意志をしっかり汲んでくれる事。先輩と同じですから」

「俺はそんな事してない」

「嘘つきですねぇ、先輩は。……本当に、嘘つきです」


 湊を怒るような言葉だが愛梨の声色は優しく、今日見た中で一番穏やかな微笑をしていた。

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