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第23章 不安を払拭する方法

 体育祭からちょうど一週間後の日曜日。数日前に愛梨にお願いされたように一真達が湊の家に来ることになっている。


 一真達が来る時間が近づくにつれて愛梨がそわそわと落ち着かなくなってきた。

 表情も暗いのでやはり不安で仕方ないのだろう。百瀬とは学校で多少話しているようだが、一真は完全に初対面なのだから。


「心配か?」

「……はい、すみません。私から言い出した事なのに」

「そんな事気にするな。俺に何か出来る事は無いか?」


 友達付き合いが上手くいかなかった愛梨の不安を湊が消し去る事は出来ない。

 けれど、少しでも彼女の不安が無くなってくれればいいと思って愛梨に質問した。

 すると、彼女は(はかな)い微笑を湊に向ける。


「すみません、頭を、撫でてもらえませんか?」

「いいんだな?」

「はい」


 弱っている愛梨のお願いを断る理由は無いが、もう一度許可を取って彼女の美しい銀髪に触れる。

 さらさらの髪を撫でると、暗かった愛梨の表情がいくらか和らいできた。


「何度も言ってるが、俺の幼馴染だろうと、二ノ宮が気が合わないと思ったら無理して話す必要は無いんだからな。それで俺がお前を見なくなるなんて事は無いから安心してくれ。それに、今日は顔合わせと言いふらさないっていう確認だ、そんなに気負うな」

「……ありがとうございます。元気出ました」

「ならいいんだ、忘れるなよ?」

「はい」


 愛梨が穏やかに笑ったのを確認して手を離すとちょうどインターホンが鳴った。

 びくりと少しだけ震えた愛梨をもう一度軽く撫でてから鳴り響くそれを取る。


『よう、来たぜ』

「上がってくれ」





 六畳半に四人居るという状況は初めてだが、かなり狭い。とりあえず一真と湊は床に座り、百瀬と愛梨はクッションに座らせる。


「なあ湊。俺にもクッション無いか?」

「勘弁してくれ、俺の家に四人分のクッションなんてあるわけないだろ。……というか分かってて言うのは(たち)が悪いぞ」

「ははは! 悪い悪い」


 一真なりの軽口だというのは分かっているので、軽く睨むだけに止めておく。おそらく場を和ませる為にワザと言ったのだろう。

 とは言ったものの、和ませなければならない人である愛梨は緊張からかぴくりとも表情が動いていない。

 彼女は一真達が家に上がった時の挨拶以外では一言も話さず、ジッとしたまま湊の横から離れなくなった。

 無表情ではあるが、その内心は不安でたまらないのだろう。


「とりあえず自己紹介だな。六連一真だ、よろしくな」

「わたしも改めて自己紹介するね。百瀬紫織、よろしくね!」

「二ノ宮愛梨です。よろしくお願いします」


 互いに自己紹介を終えたところで、早速愛梨が百瀬と約束していた本題切り出す。

 湊は何も問題無いと思っているものの、これは愛梨が納得しなければならない事だ。


「改めて確認するぞ、俺と二ノ宮が一緒に暮らしているのは内緒にしてくれるんだよな?」

「ああ、当然だ。絶対に言わない」

「約束するよ、絶対に言わないから!」

「二ノ宮、とりあえずこれでいいか?」

「はい。六連先輩、百瀬さん、本当にありがとうございます」


 愛梨が深々と頭を下げてお礼を言う。

 しっかりと顔を見れたので確証が持てたのだろう。

 まさかそんな対応をされるとは思わなかったのか、一真達の顔に焦りが浮かんだ。


「そんな、お礼なんていいよ!」

「当然の事だ、紫織の言う通り気にしないでくれ」

「……本当に、ありがとうございます」

「それにしても二ノ宮さん、今日出かけるって約束してたよね? 何で制服なの?」


 このままだと愛梨が謝ってばかりになってしまうと思ったのだろう、話題を変えるために百瀬が怪訝な顔をして愛梨に尋ねた。

 普段愛梨は部屋着で生活しているが、一真達が来るということで制服に着替えている。

 私服じゃないのは彼女の私服が少ないのと、未だに(ほとん)どの服がキャリーバッグから出されていないからだ。

 そもそも愛梨は外に出て人目を浴びたくないので、休日は外に出かけず私服を使う事がほぼ無い。

 もちろん俺達二人で出かけた事など無い。

 一応服や日用品が必要じゃないかと前に聞いたのだが、「どうしても必要になったら学校帰りに買うので大丈夫です」と断られた。


「私服とか特にいらないから。出かけることもないし」

「え!? 私服が要らない? そういえばこの部屋に二ノ宮さんの服ってほぼ無い気がする」


 そう言って部屋を見渡す百瀬。

 当然ながら私服はキャリーバッグの中なので見当たらないはずだし。下着類は押入れの中の色つきの箱を使ってもらっているので見当たるはずがない。

 唯一出しているのは部屋着だろう、それだけは湊の私服と一緒にクローゼットにかけてある。

 一緒にするのは嫌ではないかと思ったが「いちいちそんな事気にしていたら生活出来ませんよ」と言われたので嫌悪感は無いようだ。


「もし必要になったら学校帰りに買うから大丈夫だよ」


 外行きの笑顔で百瀬に答える愛梨。この部屋でその表情をされるのは久しぶりだ。

 というか、湊に対しては愛梨は常に敬語だが、百瀬は同い年なので敬語が抜けている。

 同年代にタメ口というのは納得できるものの、敬語で慣れた湊にとっては愛梨のタメ口は違和感が凄まじい。

 愛梨の返答が腑に落ちなかったのか、百瀬が首を(かし)げる。


「学校帰りに買うって、それじゃあ休日はどうしてるの?」

「家にいるよ、家事とかしてる」

「……家事? 例えば何?」

 

 百瀬の声が低くなった気がする、何故だろうか。


「部屋の掃除にお風呂の準備、洗濯に後は夜ご飯作ったりかな」

「それってほぼ全ての事じゃないかな」

「うん、でも他にやることと言ったら勉強くらいだから」

「……へえ」


 百瀬の声が更に低くなった。部屋の温度が下がった気がする、今日は結構暖かい日のはずなのだが、妙に寒い。

 あと最近、愛梨はゲームもしているので勉強だけでは無いと思うのだが、なぜか口に出すのは駄目だと本能が訴えている。


「じゃあ湊君から外に出かけようって誘われたことは?」

「最初の頃に何回かあったけど最近は無いかな」

「なるほど、よーく分かったよ。湊君、ちょっとこっちに来てくれる?」


 そう言って立ち上がる百瀬。隣にいたはずの一真はいつの間にか玄関に逃げている。

 一真がいなくなって空いたスペースに行くと正座させられた、そのまま傍で立っている百瀬を見上げるとーー


「これは、一体、どういうことかな? 湊?」


 そこには女子高生の姿をした般若がいた。

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