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第22話 幼馴染への説明

 体育祭が行われたのは日曜日であり、次の日の月曜日は振替休日となっている。

 一真達に説明するならこのタイミングだろうと思い、事前に連絡して予定を開けてもらった。

 家を出る際に愛梨に今回の件についてもう一度謝る。


「悪いな、説明することになって」

「構いませんよ。よろしくお願いしますね」

「ああ、分かってる」


 いきなり愛梨を連れて行けば説明の前にひと悶着あるのは確実だろうし、湊達は外での接点がないので当然ながら彼女は留守番だ。

 湊を一応信用してくれているようだがやはり不安はあるのだろう。心配そうに愛梨が湊を見つめる。


「大丈夫だ、前も言ったが言いふらすような奴らじゃないから」

「……分かりました、いってらっしゃい」

「いってきます」


 安心させるために愛梨に笑いかけてから家を出る。

 言いふらすような奴らではないと言うのは間違いないが、相当問い詰められるだろうなと湊は歩きながら溜息を吐いた。





 集合場所に選んだのは一真の家だ。

 百瀬の家はいくら幼馴染とはいえ上がる訳にはいかないし、外で説明した結果、誰かに聞かれるような事は避けたい。

 一真の部屋に入ると既に百瀬がくつろいでいた。


「こんにちは、湊君」

「よう、百瀬」


 挨拶もそこそこに百瀬の横に一真が、正面には湊が座る。

 二人共いつもの明るい雰囲気ではなく、真剣な表情をしている。

 

「早速で悪いが説明を頼む」

「分かってるよ。じゃあ、入学式の日に何があったかだな――」


 そうして、湊から見ても複雑であろう愛梨の親子関係は省きつつ、彼女と一緒に住んでいる事を伝えた。

 前回の中間考査で一緒に勉強出来なかったことも含めて今日までの事を説明すると、一真達の表情が驚愕(きょうがく)で固まる。


「――という訳だ」

「……何というか、そんな事があるんだな。ちょっとしたフィクションだろ」

「それは俺が一番思ってるよ」


 普通ではありえない事が湊に起きているのは良く分かっている。

 呆けたような一真の言葉に苦笑しながら応えると、申し訳なさそうに顔が曇った。


「悪いな、無理矢理聞いちまって。二ノ宮さんを説得するの大変じゃなかったか?」

「いいや、いつかは説明しなきゃならなかったからな、気にすんな。二ノ宮は思ったよりすんなりと許してくれたよ」

「なら良かった。にしてもお前の家で二人きりか……。大丈夫か?」

「……何が?」


 質問の意図が分からずに首を傾げると、一真は心配そうに湊を見つめる。


「お前の事だからトラブルが起きないように気を遣ってるんだろうなとは思うが、疲れないか? ましてや二ノ宮さんの男への対応の仕方だと家でも冷え切ってる気がするんだが」


 一真の言ってる事は一理ある。実際湊も最初は大変だろうなと思ったのだから。

 けれど今まで気疲れするような事はなく、愛梨の湊に対しての対応は外とはまるで違っている。

 マッサージや体育祭後の事などは説明していないし、するつもりも無いので詳細を省いて伝える。


「別に普通だぞ。思ったより仲良くやれてる」

「ふーん、あの二ノ宮さんがねぇ……」


 外での愛梨の姿からは仲良くやれている姿が想像できないのだろう。一真が意外そうに首を捻っている。

 湊と一真の会話が途切れたところで、説明以降一度も言葉を発していない百瀬が気になった。

 湊達が会話している最中ずっと顔を(うつむ)けていたので、今の百瀬の表情が分からない。


「百瀬、どうした?」

「……ずるい」

「は?」

「湊君だけ二ノ宮さんと仲良くなってるのがずるい! わたしも仲良くなりたい!」

「とは言ってもなぁ……」


 百瀬は学校で愛梨を遊びに誘っていたものの、あっさり断られていたらしいので仲良くなっている湊が羨ましいのだろう。

 とは言っても湊もこんな状況じゃなければ愛梨と関わりなど持てなかったし、嫉妬されても困る。

 どうしたものかと湊が頭を悩ませていると、百瀬がじとっとした目でこちらを見てくる。


「ねえ、どうすれば仲良くなれる?」

「二ノ宮は友達付き合いは必要無いって言ってたし、多分無理じゃないか?」

「そうだよねぇ……」

「でもお前の事は悪い人じゃないだろうって言ってたぞ」

「本当!?」


 この前愛梨に聞いた事を正直に話すと、百瀬の顔が生き生きとしだした。

 勘違いさせては駄目なので、しっかり釘を刺しておかなければならないだろう。


「苦手なタイプとも言ってたがな。ちなみに、二ノ宮に強引に話しかけて嫌な思いをさせたら俺が本気で怒るからな」

「……分かってるよぅ。でも、苦手なタイプって言われたのはショックだなぁ」


 湊の言葉に露骨に百瀬が落ち込んだ。

 百瀬の明るい性格上、どうしても合わない人は出てくる。

 けれど、そういう人達とですらしっかりとコミュニケーションを取れるのが百瀬の良いところだ。

 どうやらショックで忘れているようなので、思い出してもらおう。


「百瀬、お前のコミュニケーション能力の見せどころだぞ。仲良くなる事を止めるつもりは無いが、今回は手を貸す事もしない。それでもお前は今までいろんな人と仲良くなってきただろ?」


 幼馴染の百瀬は大切ではあるが、愛梨は湊が大切にしなければと思った人だ。

 愛梨の平穏を崩したくないという思いがあるので、今回に関しては百瀬の力になる事は出来ない。

 だが、それでも百瀬なら大丈夫だろうと思っている。


 予想通り、湊の言葉を聞いた百瀬の顔にみるみるうちにやる気がみなぎっていく。


「……そうだよね。よーし、頑張るぞ!」


 正直なところ百瀬には期待している。

 愛梨との生活が精神的に辛いということは無いが、それでも彼女には湊だけでなく今までとは違った良い友人が出来て欲しい。

 そして、百瀬ならそれが出来ると湊は信じている。





「すみません九条先輩。お願いがあるんですが」


 一真達に事情を説明してから数日後、愛梨が湊に謝ってきた。

 彼女が湊にお願いという事自体珍しいし、そこまで申し訳なさそうにされると、どんなお願いなのか気になってしまう。

 断るつもりは無いので、愛梨を不安にさせないように笑顔を意識しながら許可する。


「お願いか、いいぞ、何だ?」

「今週の日曜日、百瀬さんと六連先輩を家に呼んでいいですか?」

「……別に構わないが、百瀬だけならまだしも一真もって言うのは意外だな」


 おそらくここ数日で百瀬から何らかのアクションがあったのだろう。

 家に居る時の愛梨に特段変化が無かったので分からなかったが、彼女が家に呼んでもいいかとお願いしてくるのは予想外だった。思わず怪訝(けげん)な顔をしてしまう。

 ましてや百瀬だけでなく一真もだ。男と関わりを持ちたくないという愛梨の性格からはとても考えられない。

 しっかりと理由を聞いておくべきだろうと湊は思った。


「一応聞いておくが、無理はして無いんだな? 俺の幼馴染だからって、二ノ宮が関わらなければならない理由は無いからな?」

「無理はしてません、私が百瀬さんなら呼んでも大丈夫だと判断したから先輩にお願いしたんです。六連先輩とは話しませんでしたが」

「なら尚更(なおさら)一真を呼ぶ理由が分からないんだが。話してもいない男とよく関わりたいと思ったな」

「それなんですが、九条先輩を信頼していない訳ではありませんが、ゆっくり時間を取れる場所で、やはり本人を見ながら確認を取った方がいいだろうと言われまして。確かに納得できますし、承諾しましたが、そうなると事情を知っている六連先輩も呼んだ方がいいという話に落ち着いたんです」

「なるほどなぁ」


 愛梨が気まずそうに湊を見てくる。信頼していると言ったにも関わらず、そんな話になった事に対して負い目を感じているようだ。

 確かにいくら湊を信用しているとは言っても愛梨から見れば一真達は赤の他人だ。百瀬に関しては多少は話したようだが確約をしていないと不安なのだろう。

 

「分かったよ、でも、本当に無理するなよ?」

「はい、分かってますって」


 何度も確認を取る湊の行動がおかしいのか、湊の言葉に愛梨は柔らかく笑った。

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