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第18話 センスの無いご褒美

「はー、やっぱり湊はすげえな」

「学年四位だもんねー」


 中間考査の上位十名の結果は張り出されるのですぐに分かる。

 一真と百瀬が感心したように湊を見てきた。


「別に、たまたまだ」


 素っ気なく返す。湊は順位に(こだわ)っている訳ではないので「ちょっと良くなったな」くらいにしか思わなかった。

 実際のところは愛梨と集中しながらテスト勉強できた結果なのだが、この二人には言えない。


「たまたまで取れるものじゃないんだけどなあ」

「湊、お前は普通じゃないのを自覚した方がいいぞ」

「そう言う二人の順位はどうだったんだ?」


 二人が心底呆れたというような目線を湊に送ったので、居心地が悪くなり話を逸らした。


「わたし達は平均ちょっと下だったね」

「やっぱり湊がいないと勉強が(はかど)らないな」


 苦笑いをする一真だが、別に二人の地頭が悪いわけではない。理由はもっと別のところだ。


「それは俺が集中力を切らした二人を強引に勉強に引き戻してるからだろうが」


 この二人は最初の一時間はしっかり勉強するものの、途中で集中力が切れてしまいゲームをやりはじめる。

 別に湊は勉強中にゲームをしてはいけないと思っている訳では無いし、むしろ適度な休憩として有りだと思っている。

 ただ、この二人の場合は確実にゲーム優先になるので、湊は毎回引き戻すのに苦労しているのだ。

 おそらく今回は湊がいなかったので、完全に遊んでしまったのだろう。

 湊の言葉に二人は痛いところを突かれたと引き()った笑みになった。


「まあそうなんだが。という事で次は一緒にやってくれよ」

「ああ、多分大丈夫だ」


 今回は愛梨の事情を二人に言う訳にはいかなかったが、次回の期末考査は体育祭後だ。

 愛梨からは既に二人に話す許可をもらっているし、もしかしたら愛梨も参加してくれるかもしれない。

 とは言っても最終的には彼女が決めることなので、湊は無理強いしないと決めている。


「助かったぜ、これからも俺達だけでやるとなると、どんどん成績が下がっていく予感しかしないからな」

「そこはもうちょっと頑張るところだろうが」


 頼られて悪い気はしないものの、表情に出してしまえばからかわれるのが分かっている。

 助ける前提になっている事に重い溜息を吐いて、湊は内心を出さずに渋い顔をした。




 キッチンからは肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。

 今日の晩飯はステーキにしてもらった。


「なんだか意外でした、九条先輩ってこういう自分へのご褒美ってするんですね」

「え? いや、愛梨へのご褒美のつもりだったんだが」

「……はい?」


 キッチンにいる愛梨が心底意外だというように声を発した。

 なにやら勘違いしているようだったので、訂正したらこちらを見て真顔で首を傾げられた。


「えっと、何のでしょうか?」

「学年一位のご褒美だ」


 当然ながら一年生の順位も張り出されるので上位の人はすぐに確認できる。

 愛梨は堂々の一位だったので、ご褒美として豪華に肉にしたのだ。

 そう思って言ったのだが、おかしそうにくすくすと笑われた。


「女の子へのご褒美に肉料理って、あまりセンスがありませんね」

「……確かにそうだな、すまん」


 よく考えればこういうのは男同士でのお祝いな気がする。どうやらご褒美の種類を間違えたようだ。

 沈んだ声で湊が謝るとまた笑われた。こちらを責めるような悪意は感じないので、嫌な気分にはならない。


「いえ、気にしないで下さい。これでも結構喜んでるんですよ?」

「別に無理しなくても。何かのプレゼントの方が良かったな」

「無理してませんから。プレゼントとかいいですよ、特に欲しい物とかありませんし」

「でも、女の子ってぬいぐるみとか可愛い物が好きじゃないのか?」


 女子は一般的に可愛い物が好きだというイメージがある。

 物欲が無いとはいえ、愛梨もそういうのが好きだろうと思ったのだが、うーんと悩むような声が聞こえた。


「正直なところ、私はそんなにですかね。もらっても対応に困りますし、物の管理も大変なので欲しいと思わないんですよ」

「管理って……結構シビアというかドライなんだな」


 もらったことがあるのかと聞きそうになったが、明らかに地雷そうなので止めておいた。

 

「申し訳無いとは思いますが、赤の他人からもらった物に情はありませんからね。それに、私に趣味が無いのは先輩が分かってるじゃないですか」

「まあ確かにな」

「それに、この部屋に置くスペースなんてありませんよ」

「すみませんでした」

「ふふ、別に責めている訳ではありませんから」


 苦笑しながら言われた言葉が正論だったので、すぐに謝るとまた笑われた。


「はー、美味かった。ご馳走様だ」

「お粗末様です」


 美味しい料理で腹が膨れ、幸せを噛み締めていると柔らかく微笑まれた。


「ありがとうございます、先輩」

「急にどうした?」

「ご褒美ですよ、私こういうの初めてだったので」

「……初めてのご褒美が肉料理で悪いな。しかも作らせてるし」


 一応喜んでもらえているようなのだが、センスが無くて悪かったと苦笑する。


「いいえ、本当に嬉しいですから」

「今度はちゃんとしたものを渡すよ」

「へえ、物欲の無い私に何かくれるんですか?」


 そう言う愛梨はほんのりと意地の悪そうな笑顔を浮かべている。

 確かに物を欲しがらない愛梨にプレゼントというのは大変だと思うが、日頃のお礼として何か渡したいと思っている。

 とはいえ愛梨の欲しい物など湊には分からない。


「……情けない話だが聞かせてくれ。何か欲しい物とか無いのか?」

「ありませんね。分かりきってるでしょう? という訳で別にご褒美とかいいですよ」


 ほんの少し悲しそうな、でも諦めたような無表情で愛梨は首を振った。

 流石にそんな表情をされて「分かった、なら無しだな」など言える訳が無い。


「いいや、頑張って考える」

「……そうですか。なら期待してますね」


 先程プレゼントをもらっても対応に困ると言っていたはずの愛梨は、小さく嬉しそうに笑った。

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