第15話 幼馴染達の追及
五月に入ってすぐの週末、一真の家で遊んでいる。
愛梨に一真と百瀬が幼馴染だと伝え、一緒に行くかどうか一応聞いたのだが「遠慮します」の一点張りだった。
そうなるだろうなとは思ったのでしつこく誘うことはせず、湊一人で行くことにした。
「何だかこうして遊ぶのって久しぶりな気がするな」
「誰かさんがわたしと一真の誘いを断ってるからねー」
「すまん」
三人で某有名レースゲームをやりながら、一真達に愚痴を言われた。
確かにここ一ヵ月間、二人と全く遊んでいない。愛梨が家に居るからと断り続けていた。
普段は幼馴染とはいえ分別はつけており、二人のデートを邪魔するようなことはしていない。
偶に学校帰りに三人で軽く何か食べたり、休日にこうして一緒にゲームをするくらいだが、それすらしなかった。
遊ばないと決めたのは湊なのだから愛梨を責めるつもりは無いが、二人と遊んでいないことは事実であり、非難されて当然なので大人しく受け止める。
別に義務感などは感じていないが、少しくらい一真達と遊ぶべきだったと反省した。
あまりにも湊の反応があっさりし過ぎていたのか、百瀬と一真が首を傾げている。
「なんか湊君変じゃない? 別に毎日遊んでる訳じゃないけど違和感がある」
「俺もそう思う。まあ湊が遊びを断るのはよくある事とはいえ、何か引っかかるんだよな」
「……気のせいじゃないか?」
「でもなあ、普段の断り方と何か違う気がする」
「そうか? 俺が断る時って、ほぼゲームにハマってる時なんだけど」
「確かにそうなんだけどね。なんだろうなぁ、言葉にしにくい何かというか」
「にしたって一ヵ月全く遊んでない時はほぼ無かったぞ」
「まあ、確かにな」
二人共昔からの付き合いなので、湊の些細な変化が分かるのだろう。
隠し事が出来ない関係を喜べばいいのか、悲しめばいいのかと湊は内心で苦笑した。
「お前、あの人に何かとんでもない事言われたんじゃないのか?」
「え、もしかして一人暮らしに制限とか掛けられたの?」
「そんな訳あるか、別に制限なんて無い」
「まあそうだよねー」
やはり四月から遊んでいない事と義母と会った事を結びつけられた。
当然ながら百瀬も湊の家庭事情を知っているし、四月初めに義母に会った事を伝えてもいる。
どうやら義母に何か言われて、それを引きずっていると勘違いしたようだ。
まあ確かにとんでもない事は言われたのだが。具体的には女の子を引き取れと。
「とにかく、何かあったら言えよ」
「私にもだよ」
「分かってる、ありがとな」
一真達が眉を寄せて心配そうに湊を見てくる。心配するなと笑顔で返した。
いつまでも隠し続けるのはおそらく無理だろうし、そもそもここまで心配してくれている二人に隠し事はしたくない。
そのまま時間が過ぎていく。
「だから、何で俺の道具だけ妙に引きが悪いんだよ!」
「諦めろ一真、お前に運が無いのは分かりきってるだろうが」
「へへーん、わたし一番!」
いつものように他愛ない会話で盛り上がる中、一体どのタイミングで言うのが二人にも、愛梨にもいいのだろうかと考えていた。
「そういえばもうすぐ中間考査だな」
「もうそんな時期なんだ、嫌だなぁ。まだ入学してから一ヵ月しか経って無いよ」
「百瀬の勉強嫌いは高校生になっても変わらないな」
「むしろ好きで勉強してる人の気持ちが知りたい……」
「俺にも分からん」
「はぁ……。湊君みたいにちょっとの勉強で良い点が取れる人に、わたし達の気持ちが分かってたまるか!」
「別に俺、勉強は好きじゃないんだが。理不尽だな」
だいぶ時間も経ち、そろそろ帰ろうかと思っていたところで一真が話を切り出してきた。
百瀬は中学生の頃から勉強が嫌いだったので、今回のテストも嫌なようだ。しかめっ面をしている。
「どこで勉強会する? いつも通り俺の家でいいか?」
「あー、それなんだが……」
完全に忘れていた。
湊達はテストが近くなると毎回一真の家で勉強会を行っている。中学校から今までずっと続けてきた。
とはいえ二人と勉強会をして愛梨を家に一人きりにしたくは無い。
彼女のことだから「一人でも大丈夫ですので」と言いそうではあるが、そんな愛梨を置いて勉強会をするのは何だか気分が悪い。
ポツンと一人で黙々と勉強している愛梨が頭に浮かび、胸がほんの少し苦しくなった。
一緒に勉強会というのも無しだろう。友達は作らないと言っていた以上、彼女は一緒にやらないはずだ。
「すまん。今回、俺は無しでいいか?」
「湊君、本当にどうしたの?」
「やっぱり、あの人と何かあったんじゃないのか?」
湊が二人に深く頭を下げると、困惑した表情でこちらを見てくる。
今までやっていたことを辞めるのだから、疑われて当然だ。
しかも一真は薄々と湊の事情に気付いている。こうなると多少事情を話すしかないだろう。
「悪い、ちょっと揉めた」
「やっぱりか、何があったんだ?」
「……今は言えない。後で必ず言う」
二人に申し訳なくて顔を俯けた。
昔からの幼馴染達に対して話せない事に胸が痛くなる。
けれど、明らかに友人関係でトラブルがあっただろう愛梨の事を勝手に話す訳にはいかない。
そのまま無言を貫いていると、一真が湊の肩を掴んで上を向かせ、睨みながら尋ねてきた。
「これだけは聞かせろ。お前は大丈夫なんだな?」
「大丈夫だ、あの人に何かされた訳じゃない」
「……ならよし、後で必ず言ってくれよ?」
湊が正直に答えると一真がニヤッと笑った、意地でも言わないのが分かったのだろう。
何も聞かないでいてくれることが有難い。
隣の百瀬も、いつもの溌剌とした笑顔を浮かべている。
「湊君、わたしにも言ってよね!」
「分かってる、必ず説明する。二人共、本当にありがとう」
再び頭を下げてお礼を言う。二人が幼馴染で本当に良かった。