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第14話 ゲームをやり始めた人によくある事

「そのゲーム、結構長いことやっていますね。どんなゲームなんですか?」


 日曜日。いつものように湊のゲームを後ろから見ていた愛梨に質問された。

 ゲームに興味を持つなんて珍しい。普段はジーっと見ているだけなので、この際説明しておこう。


「これはRPGっていうジャンルの」

「あーるぴーじー?」

「おっと、そこからか。これはだな――」


 可愛らしく小首を(かし)げられた。確かにゲームを(ほとん)ど知らない人には分からないだろうなと納得する。

 それから、しばらくRPGについて愛梨に説明した。


「――っていうゲームだ」

「なるほど。そんなに続けているという事は好きなんですか?」

「まあな。一人でやるゲームとしては最適だと俺は思うぞ」


 時間も潰せるし、そもそもこういうのは基本一人用だ。

 湊はRPGだけでなくFPSにパズルゲー等、いろいろな物に手を出したが一度に説明するのは止めておいた方がいいだろう。


「私もやってみたいです。何かおすすめはありますか?」

「分かった、ちょっと待ってろ」


 どうやら愛梨もやってみたいらしい、微妙にそわそわしていて落ち着きが無い。

 そんなに興味があるのなら折角なので良い物をやってもらいたい。そう思ってゲーム機置き場でおすすめの物を探した。


「待たせた、これとかどうかな。一昔前の物で申し訳ないが」

「構いません、ありがとうございます」


 湊が前にやっていた携帯ゲーム機のRPGをやってもらう事にした。他人におすすめできる物なので、とりあえず失敗は無いと思いたい。


「簡単に操作方法だけ教えるよ、後のコツは自分で掴んでくれ」

「はい、お願いします」


 こういうのは他人が口出ししない方がいいだろうと思い、愛梨の好きにやらせた。

 愛梨がゲームを進め始めたのを確認して、湊も自分のゲームに戻る。

 横目で愛梨を(たま)に見ると、心なしか目をキラキラさせながらゲームをしている気がする。

 楽しんでくれているなら良かったと湊は安心して溜息を吐いた。





 しばらく互いにゲームをしていたが、時刻を確認するといい時間だ。


「二ノ宮、そろそろ寝ようか」

「……」

「二ノ宮?」

「は、はい! 何でしょう?」


 どうやらかなり集中していたようで湊の話を聞いていなかったらしい。声を掛けたらびくりと体が跳ねた。

 それだけ集中してもらえると勧めた甲斐がある。とはいえ夜も遅いのでそろそろ寝なければならない。


「そろそろ寝ようか」

「あれ、もうそんな時間なんですか? なんだかあっという間でした」

「それはゲームをやっていてよくある事だ」

「こう、物足りないというか、何だかうずうずします」


 ゲームをしていて時間が経つのが早く感じることなんてよくあるので、愛梨の意見はゲームを知ったばかりの湊のようでとても初々しい。

 しかも先が気になるようで興奮しているようだ、こんなに熱中してくれるとは思わず、くすりと湊は笑ってしまう。


「先が気になるからって、夜中に電気点けずにゲームするなよ?」

「子供じゃないんですから、そんな事しません」


 我ながら子供に注意するような感じになってしまったな、と思ったら(まさ)に愛梨に言われてしまった。

 言われたのが余程不服なのか、ほんのり眉を寄せて不機嫌そうにしている。


「悪い悪い、じゃあおやすみ」


 不機嫌な愛梨が妙に子供っぽく見えてしまい、微笑ましく思いながら電気を消した。





「ただいま。……あれ?」


 次の日。玄関で愛梨に声を掛けたのだが反応が無かった。電気は点いているので部屋にはいるみたいだが。

 居間に行くと愛梨が真剣にゲームをしていた、湊が帰って来たことに気付いてないようだ。

 昨日もそうだが、彼女は湊と同じで黙々とゲームをするタイプらしい。

 湊は周りが見えなくなるような事は無く、愛梨は周りが見えていないと違いはあるが、単に慣れの問題だろう。

 とはいえ彼女には悪いが声を掛けないといけない。ただいまの挨拶はしっかりするべきだと思う。


「ただいま、二ノ宮」

「ひゃあっ!」


 近づいて声を掛けたらかなり驚いたようで体が跳ねてしまい、目をぱちぱちさせて湊を見た。

 驚く声と仕草が可愛いな、なんて言ったら嫌われそうなので言わないが。


「え、九条先輩? バイトはどうしたんですか?」

「もう終わったぞ」

「でも私、さっき帰ってきて――」


 愛梨が時刻を確認して硬直した。居間に入るついでに風呂とキッチンも見たが、風呂と夜飯の準備をしていないらしい。

 彼女の顔がどんどん青くなっていく。普段が真っ白なので顔色が悪くなると今にも倒れそうだ。

 流石に心配になったので湊が助け船を出す。


「今日は俺が夜飯作ろうか?」

「い、いえ、大丈夫です。すぐに準備します。すみません!」

「別に謝る必要は無いぞ」


 湊の言葉を聞き終わる前に愛梨が焦って夜飯の準備をし始めた。

 元々湊は作ってもらっている身だ。彼女が作ってくれているのは決まり事ではなく善意からなので、愛梨が謝る必要は無い。


「いえ、私が悪いんです、本当にすみません。集中しすぎて夜ご飯の準備をしてないなんて最低です。ああ、お風呂の準備も!」

「とりあえず一旦落ち着け」


 完全に一杯一杯になっている愛梨を落ち着かせようと、思わず頭に手を乗せてしまう。

 焦る彼女が子供のように見えてつい手を出してしまった。


「えっと、あの」

「落ち着いたか?」

「……はい」

「ならよし、俺は風呂の準備をする、二ノ宮は夜飯の準備。それでいいか?」

「はい、お願いします」


 愛梨の頭から手を放して風呂場に入る、彼女の顔が徐々に赤くなっていくのに湊が気付く事は無かった。





「本当にすみません、まさかあんなに集中してしまうとは思わなかったんです」

「気にしてないよ。むしろ熱中してくれて嬉しいくらいだ」


 夜飯を食べている時に愛梨に頭を下げられた。謝った後も彼女はしゅんとしており、余程気に病んでいるようだ。

 勧めたゲームを楽しんでもらえることは、勧めた側としてはとても嬉しい。正直な感想を伝えると愛梨の顔が曇る。


「次からはちゃんと準備します。夜ご飯も、お風呂も」


 普段やってもらっているのだから交代しても全然構わない。

 むしろ使命感や義務感を感じないで欲しい。別に愛梨がしなければならない理由なんて無い。


「そんなに気負わなくても」

「いえ、やります。やらせて下さい」

「なんでそんなに必死なんだ?」

「……私がやりたいからです」


 頬をほんのり赤く染めながら言われた。今の発言の何処に照れる要素があったのだろうか。

 やりたいと言うなら愛梨の好きにやらせよう、もちろん釘はしっかり刺すが。


「分かった、任せるよ。本当に無理はするなよ?」

「はい、ありがとうございます」


 その後、愛梨はゲームをする時にタイマーをセットするようになった。どうやら自分の意志では止めれないらしい。

 愛梨の対策が子供っぽくて、湊が笑うと彼女に頬を染めながら恥ずかしそうに睨まれた。

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