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第93話 刀拳!爺と息子の一騎打ち

『それでは環境も整いましたと言うわけで、第5回戦の始まりです!』


 ギエンの発表の後、すぐに歓声が上がった。ノエルが大暴れしたせいで、実況席の方は有り合わせの材料で作った壁代わりになったが、そこは愛嬌。因みにあの後、タクマはわざわざチェイスの所へ行き、必死で謝った。

 

「次は吾郎爺の番か。今回はどんな相手が来るのやら」

「吾郎爺、あのまま帰ってこないと思ったらそう言う……」

「必死に吐き気堪えてたけど、大丈夫でありんすかねぇ……」

「吾郎の事じゃし、多分ケロっとした顔で帰ってくる筈じゃろ」


 メアはそう言いながら、西コーナーから登場してくる吾郎に目をやった。

 だが、その吾郎はメアが信じていた姿とは全くもって違い、顔は青く、今にも倒れそうになっていた。


「吾郎爺、死にそうですよ?」

「あー、トイレ渋滞してたから吐けなかったのか……」


 リュウヤはフラフラしながら登場した吾郎を見て何かを察し、こっそりと手を合わせる。吾郎爺の吐き気が良くなりますように、と。


『西コーナー!かの秘境大和から参上仕った、異国のサムラーイ!腰の刀でスパッと解決!吾郎選手だぁぁぁぁ!!』


 紹介をされると、初めて見る侍に心を躍らせた観客が、拍手喝采を吾郎に贈った。

 吾郎はそんな彼らに対して、無理をしつつも四方向にお辞儀をする。

 

『そして東のコーナー!親子揃って本日参戦した名物選手!ティグノウスの被り物が特徴的な魔導拳使いのドラ息子!ベレト選手だぁぁぁぁ!!』

「うっしゃあ!張り切って行くぞおらぁ!!」

「望む所でござる」


 吾郎はベレトを睨みながら、腰に下げた刀に手をかけた。抜刀の構えだ。

 それを見たベレトも、面白い。と言うように笑い、拳と拳をガンとぶつけ合った。

 そしてついに、ゴングが鳴らされた。それと同時に、吾郎とベレトはぶつかり合う。


「新品の刀を拳一つで……!?」

「オレの拳は言葉通り鉄拳だ!テメェの細っちい剣には斬れん!」

「やりおる。」


 そう呟くと、吾郎はすぐさまベレトの拳を蹴り、後ろに下がった。するとベレトは、その動きを既に見切っていたかのように魔法陣を出現させ、そこから光り輝く拳を出現させた。

 何が起きたのかまだ理解できていない吾郎は、刀でガードするが、眩い光に目をやられ、殴り飛ばされてしまう。


「ぐはぁぁぁ!!」

『なんと!吾郎選手、鉄拳をもろに食らってしまうぅ!!』

「どうだい爺さんよぉ。眩しいか?」

「なんのこれしき、痛くも痒くもない」

「そうかい。なら!コイツで!どうだっ!」


 ベレトは吾郎の頭をガッチリと掴み、連続して顔に膝蹴りを繰り出した。卑怯だ。目眩しからの連続攻撃、それも顔面。

 それを見ていたタクマは見ていられず、無意識に立ち上がっていた。だが、帰ってきたノエルがそれを抑えた。


「気持ちはわかります。けど、アレもこの戦いの一興的なのがありますから……」

「……ごめん」


 タクマは大人しく座り、吾郎の勝ちを祈った。

 その頃、吾郎はじっと膝蹴りを耐え続けていた。何度顔に当てられようと、何度舌を噛んでも、吾郎は耐え続けた。それも全て、友の為に。


「おいおいおい、ちょっとは反撃でもしたらどうなんだい?えぇ?」


 ベレトは恐ろしい笑みを浮かべながら、吾郎の頭を自分の顔と同じ高さにまで持ってくる。すると吾郎は、その言葉を聞いた後に「良いのだな?」と聞き返した。


「当たり前だ!せめてちょっとは楽しませてみやがれクソジジィ!」

「フン、所詮は口だけのチンピラと言ったところでござるか。」

「何ぃ?」


 チンピラと言われた事に怒ったベレトは、吾郎の頭を地面に殴りつけようとした。だがその時、吾郎は全身をくるりと一回転させながらベレトの腹に刀を入れ、ベレトの拘束から逃れる。

 拘束から逃れた吾郎は、すぐに刀を鞘に戻し、もう一度抜刀の構えに出た。


「小癪なぁ!《光の鉄拳》!」

「光、それならもう見切った。」

「ナメんなジジィ!!」


 ベレトはそのまま真っ直ぐ、五郎に向けて光り輝く拳を放った。だが、殴った手応えがない。

 まさかと思い振り返ると、その瞬間に素早い斬撃を繰り出された。硬い筋肉から、血が吹き出す。


(何故だ、何が起きた……)

「雲雀ノ一太刀」

「な、何故だ……何故避けれたのだ……」

「言ったろう。お主の動きは単調、それ故に動きが読めた。あんなもの、目を瞑っても避けられる。」

「畜生!ナメやがって!こいつめ!こいつめっ!!」


 吾郎の煽りに対して頭に来たベレトは、何度も吾郎に襲い掛かる。だが、最初の1発で動きを読んだ吾郎には効かなかった。

 右から左に殴ろうとすれば後ろへ下がり、真っ直ぐストーレトで勝負をしようとすれば、左右に避けられる。

 だからと言って両方やったとしても、まるで瞬間移動をしているかのように後ろへ回られ、斬撃を食らってしまう。


「こうなったら奥の手だ!食いやがれ!!」


 そう言うと、ベレトは吾郎諸共地面を殴った。だが、動きが分かっていた吾郎はすぐさま後ろに回り、拳を避ける。

 が、何が起きたのか、吾郎が移動した地面から、巨大な拳が顔を現した。


「ぐぅ……」

「どうだ思い知ったか!《ランディオ・フィスト》は地面からでも相手を殴れるんだぜ!」

「ほぉ、フッフッフ」

「何がおかしい!」

「この距離なら行けるでござる」


 吾郎は空中に飛ばされた状態から刀を器用にしまい、重力に身を委ねながらベレトの頭上目掛けて落ちた。

 何をしたいか分からないが、倒すなら今がチャンスだ。そう思ったベレトは、吾郎が落ちてくるだろう場所に立ち、拳を構えた。

 そして、カッ!と一瞬会場が光に包まれる。


『眩しいぞ!これは何が起きているッ!!』

「うぅ……あ、あれは……」

「なんと……」

「吾郎さんが……」


 タクマ達は、光が収まった戦場をもう一度確認し、目を丸くして驚いた。

 きっと負けてしまったのだろう。そう思ったリュウヤとおタツも、立ち上がって様子を見る。

 そこには、吾郎とベレトが背中合わせで立っている姿があった。

 そして今、ベレトが膝をつきながら倒れていく。


「おぉぉぉ!吾郎爺が勝ったぞぉ!!」

「流石はウチら大和の守人、強いでありんすね!」

『勝負ありぃぃ!勝者は、吾郎選手に決定だぁぁぁぁぁ!!』


 実況が吾郎の勝利を祝すと、それを更に祝うように拍手喝采が鳴り響いた。吾郎はシュシュっと刀に付いた血を払って刀を鞘に戻し、一礼をしてゆっくりと去っていった。



【医療室】

「クケケ……マケタ……クソクソクソクソクソ!!」

「痛いじゃないの!もっとしっかり消毒しなさい!」


 タクマ達は、現在の戦況を纏めると同時に、戦いで受けた傷を治す為、医療室へやって来た。

 そこでは、ついさっき戦ったウェンディーヌやオリーブ、サイリョーやブルースなどが、可愛いナース達に看病されていた。

 当たり前ではあるが、現時点で女が居ないからか、天使の楽園的場所である筈のこの場所が、むさ苦しい空気に包まれている。

 メアとノエルはその空気が嫌だからと言う理由で、ロード兄弟の所に預けて来た。


「確か次の対戦は……」

「午前の部最後の第8回戦が、ウチの出番でありんすな」

「その後は10回目にリュウヤ殿、14回目にメア殿でござるな」


 吾郎は現在の勝利状況を筆で書きながら、第8回戦以降の情報を伝えた。

 現時点でタクマはソーマ、ノエルはフール、そして吾郎は現在進行中の戦いで勝った相手。

 そう話をしていると、遠くからゴングが鳴り響いた。『なんとここでハーゲンティ選手が棄権致しました!よって、優勝はナノ選手に確定しました!』と。


「それじゃあ、ウチは先に待合室へ行ってるでありんす」

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