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第87話 爆誕!おにゃん娘アイドル珍道中

 あれから時間がちょっと過ぎ、武闘会当日へと舞台は変わる。

 タクマ達は近くの宿屋を、参戦者割引で取り一泊した。

 

「リュウヤ、大丈夫か?」

「イタタ……まぁ何とか」


 リュウヤは真っ赤な手形で腫れた頬を摩りながら答える。そして、その横を歩くおタツは、何故か笑顔の圧を出してリュウヤを見つめる。やっぱり昨日の事が原因のようだ。

 タクマはその二人のやり取りを見てフフッと笑いながら、6枚の入場チケットを入り口の黒服に渡そうとした。だが、手元には5枚しかなかった。


「あれ?5枚?」

「落としたでござるか?」

「昨日まではちゃんとあった筈なんだけどなぁ……」

「まぁまぁ。多分ノエちゃんならチェイさんが何とかしてくれるっしょ」


 リュウヤは一枚入場チケットが無いと言う事態でも気楽そうに頭の後ろで手を組みながら、真っ直ぐ堂々と闘技場へと入っていく。


【闘技場 武器屋】

 まずタクマ達は、武闘会で戦うため、ケンに預けていた武器達を受け取りに来た。

 扉を開くと、そこでは仕上げとしてタクマの剣を大きな金槌で叩くケンが居た。


「よく来たな……これ……師匠の剣……マークツーって所だ」

「おっ。ありがとうございますケンさん!」


 タクマは出来立てホヤホヤの剣が入った鞘を受け取り、どんな感じで進化したか、剣を抜いて確認した。

 前までは剣先にティグノウスの爪を融合させた、切れ味の良いシンプルな剣だったが、今回はどうなっているのだろうか。タクマは想像しながら剣を抜く。

 すると、剣の中央に白い線のようなものが付いたいつもの剣が顔を現した。


「一個間違って発注したから……付けた」


 ケンはそう言って、今回付けたパーツの事が書かれた紙を渡す。

 そこには「中央の白線は魔力を注ぐ事で一時的に魔法剣として使う事の出来る装置。通称 《マジッカー》」と書かれていた。

 そして、今度は吾郎に刀を返した。


「ほぉ、あれほど錆び錆びだったのが新品同様とは……」

「切れ味はいつも以上だ……あの樽……斬ってみろ」


 そう言って、ケンは何も入っていない空のタルを指差した。吾郎はその樽の前で「コォォォ……」と小さく呼吸を整え、目を開けた刹那に刀を抜いて、樽に新しい一発を喰らわせる。

 すると、その樽はゆっくりと斜めに落ちていった。しかも、その断面は木であるにも関わらず、鏡のように吾郎のドヤ顔を反射させていた。


「すげぇなこりゃあ!ほとんど鏡じゃねぇか!」

「これこそプロの味、でありんすな」

「これ……ナガシノってのと……ニンジャトウだ」


 最後に、ケンは忍者刀とノブナガの愛刀だったリュウヤの長篠一文字を渡した。そして、鼻を擦りながら「切れ味そのままで……軽量化してみたぞ」と自信に満ちた表情をする。

 するとその時、全会場の中に「武闘会開会まであと1時間になりました。席はお早めにお取りください」と言うアナウンスが流れた。


「やっべ!急ぐぞタクマ!」

「お、おう!」

「待て……忘れ物」

「あ、メアの短剣!ありがとねケンさん!」

「グッド……ラック」


 ケンは大急ぎで去っていくタクマ達に、ひっそりと健闘を祈る親指を立てた。


【闘技場 観覧席】

「おいタクマ!この長椅子二つも空いてんぞ!急げ急げ!」

「サンキューリュウヤ!ナイスプレイ!」


 タクマはリュウヤの後を追い、二つの長椅子のうちの一つに腰掛けた。まるで球場に来ているような感覚だ。タクマはそう思いながら、中央のバトル会場にデカデカと設置されたライブステージを見る。

 そうしていると、その横に誰かが座ってきた。


「よっ。船ぶりだな、タクマ」

「ブレイクさん!無事だったんですね!」

「あたぼうよ。そう簡単に死んでたまるか」


 やってきたブレイクは、ガッハッハと大声で笑いながら、タクマの背中をバンバン叩く。すると更に、そこへメイジュもメアを連れてやってきた。しかも、そのメアは何故か死んだ目をしている。


「メアちゃん?どうしたでありんす?」

「……クビにされた」


 メアは生気の抜けた声でおタツに答えた。

 何が起きたのかよく分からないリュウヤは、首を傾げながら、何があったのと訊く。

 するとメアはまた、生気の抜けた声で「……音痴って言われた」と、棒読み気味で答えた。


「音痴って、霊歌をあんな美声で歌ってたのに!?」

「霊歌以外歌知らないもん」

「そういや、ガキの頃もお前よくとんでもねぇ声で歌って……ぐふっ!」


 メアは恥ずかしい過去を掘り返されたくなかったのか、思いっきりの腹パンをブレイクの腹に食らわせる。その様子を見て、リュウヤはブーっと吹き出し、音痴であると言われたショックで魂が抜けかけたメアを、おタツとメイジュは慰める。

 そうしていると、観客席の方や、アコンダリアの街の中、そしてビーチにまでマイクのハウリング音らしきものが鳴り響いた。


『大変長らくお待たせいたしました。これよりオープニングセレモニーとして、チェイPプロデュースの超新星アイドル特別ライブを開演させていただきます』

「おぉ、始まったでござるな」

「……で、メイジュさんは何してんの?」


 タクマは、横でサイリウムステッキを5本頭に巻きつけ、「NOニャル美、NO LIFE」と描かれた法被を背負うメイジュを横目に、タクマは訊く。

 すると、ブレイクはこの光景にもう慣れている、と言わんばかりの顔で「コイツ、チェイPプロデュースのアイドルのガチファンなんだ」と教えた。

 その間にも、真ん中のライブステージ中央の登場口の穴から何かが出てくるような音がする。


「ハーイ豚共〜!こんにちは〜!」


 穴から元気よく飛び出してきた猫耳白ワンピースのノエルは、マイクを片手に持ち、元気に飛び出してきた。

 すると、某子供向け番組の如く、会場の男達が『こーんにちはー!!』と元気よく挨拶をした。


「おぉぉぉぉ!!新アイドルキターーーーー!!」

「あれ?あのカワイ子ちゃん、どっかで見た顔だなぁ」


 ブレイクだけはノエルの姿を見て既視感を覚え、顎に手を当て、じっくりと見る。

 すると、それが見えているのか、ノエルはこちら側にマイクを向け、『そこのはぁはぁ言ってる豚共〜!今の気分は〜!?』と叫ぶ。


「最高だぁぁぁぁぁ!!!」

「うっ……」

「ガチ勢とやらの声量は恐ろしいでありんすな……」


 リュウヤとおタツは、横で大声を出すメイジュの事を楽しそうだと思いながら、耳を塞ぐ。


「私はニューアイドル、ノエちんだにゃん!」

『うぉぉぉぉ!!ノエちんッ!』

「成る程な。オニキスの言ってた猫娘とはこう言う……」


 メアはそう言う事か、と言う表情をしながら手を叩く。


「ようし爺ちゃん!そろそろ始まるからコレ!」


 その間、メイジュは燃え上がりすぎたせいか、吾郎にサイリウムが大量に貼り付けられた扇子を渡す。吾郎はそれを困惑しながらも受け取る。

 

「それでは聞いてください!『おにゃん娘アイドルチン道中』!」

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