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第86話 運極!黄金の運試し

【アコンダリア カジノ】

 ここは闘技場東側に設置された通路から入る事のできる、武闘会に次いで人気のある施設。

 タクマ達は、その入り口で客を待ち構える、舵輪の付いた赤い扉の前で立ち尽くしていた。


「こりゃまた随分豪華な扉だなぁ……」

「縁も純金のようですし、これはなかなか凝っているでありんすな」


 リュウヤとおタツは、初めて見る豪華な扉に目を丸くして驚いていた。それにタクマと吾郎は、笑いながら頷く。

 すると、その両側で客を待っていた二人の黒服が「チケットを拝借させていただきます」と言い、タクマ達に手を出した。

 未成年の自分達がやって良いものなのだろうか。そう疑問に思いつつも、タクマは入場チケットを黒服に渡した。

 黒服はそれが偽物でない事を確認し、舵輪を回す。そして、10回くらい回した時、その大きな扉はゴゴゴゴゴと大きな音を立てながら、先に広がる黄金の世界への道を開いた。

 そこでは、光沢のある黒いレオタードのような物を纏ったバニーガールや、シルクのドレスを纏った美しい女性、タキシードのようなスーツを着た男が、その黄金の世界でチップを賭けた手に汗握る運試しをしていた。


「ここがアコンダリア名物のカジノか……」

「うぅ……拙者にこんな金色の場所は眩しくて敵わんでござるな」


 吾郎は眩し過ぎる黄金の世界の光を遮断するように、ギャル達から貰ったサングラスをかける。黒服の男もサングラスを掛けているが、こうして見ると吾郎爺はそれらを従えるボスのように見えなくもない。

 確かに無駄にデカすぎるルーレットも、スロットも、ポーカーテーブルも全てが金色に輝いている。このジパングみたいな黄金世界に慣れるのには時間が必要かもしれない。

 そう思っていると、タクマの前に一人の男がやってきた。


「そこの渋い爺さんや、俺様と運試ししねぇか?」

「拙者の事でござるか?」

「アンタ以外に誰が居るんだ。ほら来い!」


 男は強引に吾郎を大きなルーレットに引き連れていく。タクマ達も、吾郎の跡をついて行く。

 その間、男は自分が勝つと言う事前提で、傲慢的にルーレットのルールを吾郎に教えた。


「まずディーラーに頼んでゼルンをチップと交換する。そしてそれを好きな場所に置くんだ。ま、俺が勝つけどな」


 そうして、男は掛け方の説明をし始めた。

 0〜36までの数字の中から一つを選ぶストレート。隣接した数字の間に置くスプリット。一列3つの数字全てに賭けるストリート。四つのマスの間に置くコーナー。二列、合計6個の数字に賭けるダブル。などなど、吾郎に対し簡単に教えた。


「さて着いたぞ。マスター、俺はこの36番に賭けるぜ!」

「面白そうじゃんか吾郎爺。ほら、かき氷の売上金あげるからやってみなよ」


 リュウヤはそう言って、背中の方からゼルンの入った袋を取り出し、それを吾郎に渡した。

 その中には、一杯100ゼルンで提供していたため、大量の100ゼルン銀貨が入っていた。吾郎はその中から6枚の銀貨を取り出し、ディーラーの細身の男に600ゼルンを支払う。

 すると、渡したと同時に後ろからバニーガールが現れ、吾郎の座った席の隣に、1と書かれた青のチップが6枚乗った銀の盆を置いた。


「ふむ……これは何処に置くか迷うでござるな。」

「吾郎さん、ファイトでありんす」

「さぁ爺さん。何処に賭けるんだい?」


 男は余裕な表情で爪を磨きながら、吾郎や他の客がチップを置くのを待つ。

 その間、リュウヤは周りにあるポーカーなどの周りに居るバニーガールを見ていた。

 

「何見てんだよリュウヤ。そんなにいいモンでもあるのか?」

「あぁいや、あの嬢ちゃんの首にさ、首輪付いてるから何かね……」


 リュウヤはそう言いながら、スイカの絵柄を揃えた事を自慢する男の話を笑顔で聞くバニーガールの首を指差した。

 確かにリュウヤの言う通り、その首には鉄の首輪が取り付けられている。まさか、奴隷?

 そう話をしていると、吾郎の隣にいたバニーガールが「気になります?この首輪」と声をかけてきた。


「ここってまさか、奴隷制度とかあるのかなぁと思いまして……」


 タクマは際どい格好をするバニーガールの姿を極力見ないように、目を瞑って笑顔を装いながら頭をかく。

 するとそのバニーガールは、「いいえ、私達は奴隷“だった”存在です」と答えた。


「奴隷だった?それは一体どう言う意味でありんす?」

「私達はかつて、ヴァルガンナで奴隷として働かされていました。ですがある日、アナザー様が私達を解放してくれて、今はこうして私の意思でこう言った仕事をしている訳です。」


 バニーガールは目をキラキラさせながら話し、VとGを合わせたような紋章が薄く付いた肩を見せた。

 リュウヤはそれから目を逸らす事が出来ずに、じっとそれを凝視する。


「お前様」

「ん?ヒッ……」


 肩を叩かれて振り向いたリュウヤの後ろには、美しい笑顔をしながら、怒りのオーラを浮かび上がらせたおタツが立っていた。リュウヤはそんなおタツを見て、顔を青くする。

 

「いや……これは……その……」

「問答無用。ちょいと面、出ましょうか」

「あー!痛い!耳取れる!耳取れるから!


 おタツはリュウヤの耳を引っ張り、そのまま何処かへ連れて行ってしまった。

 周りはその姿を見ながら、微妙な空気に汗を掻いた。


「さて、何処に賭けるか決まったか?」


 男はニヤニヤしながら、36番に5枚の黄色いチップを賭けた。よく見れば、他の人達も四つのマスの間に賭けたり、奇数か偶数かの安パイな場所に賭けていた。

 吾郎は顎に手を置いてうーんと考えた後、ゆっくりと6枚のチップを5番のマスに全て置いた。


「ほぉ、初心者のくせに一点賭けとは、度胸あるじゃあねぇか爺さん」

「運を試すと言うのに、出し惜しみなんてしてどうする?」

「面白いな。じゃあ俺はもっと賭けてやらぁ!」


 そう言うと男は、36番のマスに大量のチップを置いた。その中には10、つまり1000ゼルン分のチップまで入っていた。相当気合を入れたようだ。

 そして、ディーラーは他の客が賭け終わったのを見て、無駄にデカいルーレットを回した。

 無駄にデカい割には、スムーズに動き回り、残像で赤と黒が混ざり合う。

 するとそこに、ディーラーの男はボタンを押し、風を生む程速くて強いルーレットの中に、人の頭一つ分くらいの大きさはあるだろう銀の大玉を投入した。

 それは大きさなんて関係なしに、ルーレットの端に設けられた一本道を駆け回る。


「この動き、俺様の勝ちだな」

「フッフ、それはどうかな?」


 余裕の表情で、まだ決まった訳でもないのに勝ちと言った男と、吾郎の間に雷が落ちる。勿論、本物の雷ではない。

 そうしていると、だんだんと玉の速度が落ちていき、辺りに玉がマスとマスの間を遮るストッパーにぶつかる音が響き渡る。

 4回、5回。何度もぶつかって入りそうになっては、残念でしたと煽るように抜けて行く。

 そしてついに、玉は30番のマスから外れた。距離的にも36に入るのはほぼ確定と言える。


「ハーハッハッハ!やっぱり俺様の運は最強だぁ!」


 男はその事で勝ちを確信し、大きく飛び上がる。だがその時、とんでもない事件が起こった。


『ボ〜エェエェエェエェエ〜』

「うわっ!何だこの大音量のクソ音痴なのは!」

「あ、頭が割れるでござる……」


 カジノ中、いや、アコンダリア中にとんでもない騒音が駆け巡る。タクマや吾郎も耳を押さえるが、それでも下手くそな歌声は手の盾を突き破って耳に入っていく。

 するとその時、不思議な事に36へ入ろうとしていた玉が超音波的何かによってズレ、5番のマスに入った。

 騒音は収まり、吾郎達はルーレットの結果を見て驚いた。


「ご……吾郎爺……」

「嘘……ではないでござるな」

「へ……?」


 勝ちを確信して喜んでいた男は、逆転負けしてしまった結果を見て鼻水を垂らす。

 

「おめでとうございまーす!5番ピタリ賞!36倍でーす!」

「しょ……しょんな……」

「凄いよ吾郎爺!強運じゃないか!」


 タクマはすぐ、吾郎の肩に手を置き、大きく祝福した。

 吾郎は祝福された事に照れたのか、顔を赤くして頭を掻く。

 その間、勝ちを確信していた男は黒服達に連行されていった。一体何処で何をされるのだろうか。

 と言うより、あの騒音は何だったんだ?

 タクマはそう思いながら、黄金世界を堪能したのだった。



………

 一方その頃、アコンダリアカジノの見えない部屋。

 そこで一人の男が、ワインを嗜みながら吾郎と戦った男が連行されていくところをリアルタイムでマジックミラー越しに見ていた。


「クックック。やはりこの国に置いておけば、すぐにでも解放出来そうですネ」


 男、もといDr.Zは、隣の台座に置いた金色に輝く玉を保管したガラスケースを撫でながら不気味な笑い声を上げる。


『どうだい?大暴落して頭を抱える人間の無様な姿を見るのは』

「そりゃあ滑稽で笑えて来ますヨ、α様」


 Zはワイングラスを揺らしてワインの香りを愉しみながら、闇の底から現れたαの問いに答える。


『それより紹介したい子が居る』

「紹介したい?誰でス?」

『入りたまえ、アルルちゃん』


 αは爽やかな声で何もない壁に語りかける。すると、何もなかった筈の壁が回転し、バニーガールが入ってきた。

 αは秘密の場所が従業員にバレたと勘違いし、慌ててメスを構える。


『おうおう、痛くしないであげたまえ。彼女はアルル、我々の組織 〈ノアの方舟〉の最後の一ピースとなる紅一点の少女だよ』

「これからよろしくね、お兄ちゃん」


 アルルはピンクの髪をかき上げながら、Zの頬にキスをする。Zはそのまま硬直してメスを落とし、ゆっくりと頬に付いた紅の口紅の跡を擦った。

 アルルはZのリアクションを見てクスクスと笑い、すぐにαの腕に抱きついた。


「ねぇねぇα様〜。私の事好き?」

『勿論、私のような厳つくて素顔も見せないような人を好きになる。そんな面白い子は君しか居ないだろうからね』

「だってα様、私が偶然ガルキュイで出会った子と同じ匂いがするから」

『へぇ、それはどんな子だったんだい?』


 αは優しい口調でアルルに訊いた。するとアルルはうーんと下唇に人差し指を当ててから「何かパッとしなくってね、冴えない普通の男の子って感じだった」と答えた。


『そうかい。けど、それはまだ食べてはいけないよ。代わりにさっき連れてかれたおじさんなら食べてもいいよ』

「マジで!?サンキュサンキュー。α様大好き」


 アルルは食べていいと言う許可を得て大はしゃぎし、αの鎧にキスをした。

 その様子を見て、Zは殴りかかろうとするが、どうしても殴れず、ただぐっと拳に力を入れて堪える。


『さぁアルル、Z。オニキス君は忙しそうだけど、折角4人の同志が集まったんだ。ババ抜きでもして遊ぼう』


 αはそんなZの姿を見て、気晴らしにとトランプの入った箱を取り出した。

 すると、Zはゆっくりと「アルルは……何者なんですカ?」と訊いた。


「私?私はね〜、α様のカノジョだよ!」

『彼女、か。君は面白い事を言うね。』

「あ〜!面白いって言ってるくせに笑ってない!笑うなら笑ってよ〜」

『ごめんよ、私は感情を出すのがヘタクソでね』


 αは優しい声で赤ん坊をあやすように、アルルの頭を撫でる。するとアルルは、冗談であろうが、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らす。

 そして、αはそのまま近くに出現させた白いテーブルの上にカードをばら撒くようにして置き「おいで、Z」と優しく招いた。

 だがαは、ベタベタとくっついてイチャつくアルルが気に食わず、ずっと拳を強く握る。


『やきもちなんかしなくてもいいよ』

「わ、私は別にやきもちなんて……」

『心配しなくても、私は君の親友的存在だ。』


『親友との友情と恋心は、似ているけど少し違うものだよ』


 そう言うとαは、Zに向けて銃を撃つようなポーズをして、その言葉を銃で撃つように伝えた。


『さぁ、明日はトーナメント当日だ。皆でオニキス君が勝つ事を楽しく祈ろう』

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