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第72話 騙し騙され

【数日前 ガルキュイ 事務所】

「ガルーディオ課長、女性があなたと話がしたいと申しているのですが、どうしましょうか」


 ハルトマンの部下が、課長室の扉越しに伝える。

 彼ら賞金首捜査課にやってくる人、それはその名の通り賞金首に関する情報や被害報告、大体それくらいだ。

 ハルトマンは部下に「通してくれ」と声を掛け、本日第一号目の報告者である女性を部屋に入れた。


「あ……お、おはようございます……」


 気弱そうな声で、女性が部下を後ろに付けて入ってきた。

 特徴を思い出せていない為、顔はくすんで見えない状態だが、大人の女性である事は間違いない。

 急いでやってきたのだろうか、息が荒く、どことなく落ち着きがないように見える。


「とにかく椅子に座って、深呼吸をしてください」


 女性の背中に手を当て、ハルトマンは入り口からすぐ近くの椅子に女性を座らせる。

 そして、木製の小さなテーブルを挟んで向かい側に座り、女性が落ち着くまで「吸って〜、吐いて〜」と何度も繰り返した。

 すると、女性はだんだんと落ち着きを取り戻し、ふぅと一息つく。


「落ち着いたみたいですね、それで今日はどう言ったご用件で?」

「実はその……これ……」


 女性は小さな声で何度も呟きながら、靴で踏まれた跡が付いたカードをハルトマンに渡した。

 見た感じギルドカードではない。とりあえず何なのか把握するため、ハルトマンは受け取ったカードを裏返す。

 そして、そこに書かれていた文を見て目を丸くさせた。


「今夜、ガルキュイ平原の林に火を付けるだって!?これは一体どうしたんだい!?」


 ハルトマンは少し取り乱してしまい、大声で彼女に訊ねてしまう。

 そして、いきなりの大声に驚いてしまった彼女から聞こえた小さな悲鳴を聞いてすぐ我を取り戻した。


「すまない、オニキスと書かれていたものだからついね。それで、これはどこで手に入れたんだい?」

「……拾った。」


 訊ねると、彼女はゆっくりと口を開けてそう言った。

 これはいけない。ハルトマンはその一心で服を着替え、部下へと指令を伝える為に出入り口のドアノブに手をかける。

 だが、開けようとした瞬間、手をかけていなかった右手に温かな感触が伝った。

 振り向くと、女性が行かせまいと手を握っていた。


「どうかしたのかい?」

「……オニキスと、話……したい」


 彼女は今にも消え入りそうな声でハルトマンにお願いする。

 話?一体何の事だ?

 ハルトマンは何故彼女がそういった行動をしようとしているのかピンと来ず、「どうしてだい?」と訊く。

 だが、それでも、相変わらず小さな声で「……だから」「……だから」と呟くだけだった。


「分かった、それで君はどうして欲しいんだい?」

「……私とあなただけで、現場に……内緒」


 女性はさっきまで出なかった声をひり出しながら、ハルトマンにお願いした。

 それを聞いたハルトマンは、自分の右手を握る華奢な手を両手で握り「了解しましたよ」と、笑顔で言った。

 彼女はただの依頼人、それに今回の捜査対象は謎の多いオニキス。 (まあ、今出ている3人自体謎しかないのだが)恋愛的な話は何一つ関係ない。

 しかし、何故だろうか。胸が熱くなる。


「じゃあ、今日の夕方6時、ガルキュイ平原行きの馬車で落ち合おう。」

「……はい」


 ハルトマンは女性に伝え、部屋を後にした。

 本当なら調査をするだけの話なのだが、側から見ればデート予約のようにしか見えない。

 そう考えると、何故だか胸が変な感じになる。ずっと仕事一筋で人を好きになった経験のないハルトマンにとって、よく分からない感情にずっと疑問を抱いていた。


「はぁ、今日は食事も喉を通りそうにないな」



【ガルキュイギルド 平原行き馬車前】

 時間を少し飛ばして、ハルトマンは依頼人の女性よりも先に待ち合わせ場所で待っていた。

 辺りを見回しても、彼女は居ない。早く来すぎてしまったか?

 全く、あれからずっと変な気持ちばかりがこみ上げてきておかしくなりそうだ。

 そんな事を思っていた矢先、ハルトマンは誰かに後ろから抱きつかれた。


「な、何だ!?」

「……来たんですね」


 いきなりの事に驚いたが、すぐに冷静さを取り戻して後ろを振り向く。

 すると、そこには依頼人の女性が居た。


「行きましょ、ハルトマンさん」

「あ、あぁ。」


 なんとなく急いでいるようだった。そのためハルトマンは、彼女の急ぎ目な波に押されて早めに乗車してしまった。

 


 それから少しして……


「ここだね、オニキスが犯行をする場所は」

「……そのはず……です」


 相変わらず女性は、小さな声で答える。

 さぁオニキスめ、どこからでもかかってこい。ハルトマンは暗い林の中で女性を守るようにしながら身構えた。

 するとその瞬間、首に謎の痛みが走った。


「うわっ!」


 ハルトマンから見て右側に、人の気配を感じる。ハルトマンはその方向にタックルをかまし、何かあった時ように、と持っていた風弾石をポケットから取り出そうとする。

 だが、風弾石を取り出し、いざ 《ウィンド》を繰り出そうとしたその瞬間、取り出そうとした右手側から全身にかけて、波のように痺れが発生した。


「がっ……」


 とにかく魔物ならば倒す、その為に手にした6つの風弾石が、痺れた右手から全部落ちる。

 そしてそのまま、ハルトマンは倒れてしまった。


「なん……で……だ……」


 意識が遠のいて行く中、微かに生きている視界を駆使して自分を襲った物の正体を見ようとする。

 しかし、依頼人である女性の顔らしきものが近付いてくると言うのだけが見えた所で、意識がプツリと切れてしまった。




【ガルキュイ 教会】


「……と、これが多分私が生命力を奪われた一連の流れだと思います」

「ふぅむ、となれば首元に何か跡がある筈なんじゃがのぅ」


 メアは一連の話を聞いて、ハルトマンの首元をぐるりと見回す。

 だが、どこをどう見ても、噛まれた跡らしき物は見つからなかったのか、メアは「証拠も隠滅されてる、か」と呟く。


「多分犯人はもうここには居ないだろう、君達も気を付けてね」


 ハルトマンはそう言い残し、教会を後にした。

 そして、ハルトマンが出て行った後、リュウヤはタクマに「だってさ」と、少し馬鹿にするような感じで言う。


「確かに俺ならまんまと騙され……って、何だと〜」

「うむうむ、お主ならすーぐ騙されそうじゃな」

「ですです」


 穏やかな感じで何を〜と立ち上がったタクマに対し、メアとノエルも頷きながら言う。


「お前達まで、酷いなぁ〜」


今日もタクマ達は平和であった。

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