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第5話 運が悪い時はその分後で良い事が起きるメッセージらしい

「マリジハ平原行き〜発車いたしま〜す!」


 相変わらず、どこかの駅アナウンスみたいな声の伸ばし方だ。

 だがそんなの今はどうでもいい、この世界で初めての冒険。タクマは心からドキドキしていた。

 日本に「平原」と呼べるような場所はそんなにない。見渡す限りそのほとんどがコンクリートの道、連なるビル群、田舎の穂が沢山成る田んぼ、乳牛が草を食べる小さな草原。


「記念に写真でも……」


 タクマは学ランの胸ポケットからスマホを取り出そうとした時、後ろから声をかけられた。


「あら?あなたタクマ君?」

「また会ったね、これも何かの縁だろう」


 あの時のフィルアンカップルだった。タクマは、異世界のアイテムを見せるのはまずいと思い、咄嗟にスマホを胸ポケットへ戻した。


「それで、お二人はどんなクエストを?」

 タクマが訊くと、二人は笑顔で虎のような魔獣の絵が描かれた紙を出した。

「ティグノウス討伐……?」

「ええ。最近退屈しててね、たまには強い魔物と戦おうって事でね」

「まあでも、こんな魔獣ごときに、僕らの愛は壊せないさ」


 二人は大声で「HAHAHA」と大笑いした。

 しかし、そのせいでタクマのクエスト用紙を出すことが何だか恥ずかしくなった。


「それで君はどんなクエストを?」

「日本出身なんだから、いきなり国王直々の依頼を頼まれたに違いないわよ」


 二人は勝手にこちらのハードルを上げる。と言うより、国王直々の依頼って何だ?


「まさか。俺は日本出身だけど、その田中って人より全然弱いですよ」


 タクマはそう言ったあと、二つのクエスト用紙を見せた。


「スライムとゼンマイか……」


 フィルはタクマの紙をまじまじと見る。

 何だか馬鹿にされている気がする。タクマがそう思った時、フィルは何だか思い出に浸るような顔をする。


「懐かしいなぁ、僕たちはこの二つのクエストで出会ったんだっけか」

「もうフィルったら!それもう2年前の話よ?」


 二人はタクマの前でイチャつき出した。

 すると、その二人の楽しみを妨害するかのように、タイミング良く馬車の運転手がアナウンスをかける。


「マリジハ平原〜マリジハ平原〜、降り口は右側でございま〜す!」

「それじゃあ、お互い頑張ろうねタクマ君」


 やっと二人が離れていった。タクマは何故だか清々した気分になる。


【マリジハ平原】

 辺りを見渡す限り、絵に描いたような平原。

 まるでその絵の世界に入ったかのような空間に、スライムや兎のような魔物などが周りをウロウロしていたり、他の冒険家と戦っている。


「まずはスライム掃討30体か、よーし!」


 タクマはクエスト用紙を畳んで学ランのポケットにしまい、スライムが沢山いるエリアへ向かった。


「ほっ!はっ!うわ重っ、こんなのを簡単に振るのか……」


 タクマは、攻撃のしかたすら分からなかったため、適当にブンブン振り回してスライムを倒していく。

 スライムの動きが遅いからか、重い剣でも簡単に倒すことができる。


「27!28!29!30!ゲームクリアだ!」


 タクマが調子よくスライムを倒して目標数に達成した時、学ランのポケットが光り出した。

 光っていたのはスライム掃討のクエスト用紙だった。


「光ればクエスト完了って訳か、なるほどなるほど。」


 タクマはそのままクエスト用紙を折り畳み、ポケットに戻した。


「さてと、次はゼンマイ15個採取か」


 次のクエストをやる為、タクマは平原の小さな森へ入っていった。



「うーん、なかなか見つからないなぁ……」


 タクマは森の中で14個もゼンマイを採取しただが、最後の一個はどこを探しても見つからない。

 その時、何だか辺りから獣の臭いがしてきた。


「気のせい……って!最後のゼンマイあった〜!」


 タクマが最後のゼンマイを採取していると、後ろから「グルルルルルル……」と虎の威嚇する声が聞こえた。


「あーもう!今忙しいから後で……」


 振り返ると、そこには腹を空かせているのか、ヨダレと共に口から火を漏らす虎が居た。

 人を喰らう事にだけ特化した牙、なんでも切り裂きそうな鋭い爪、むせ返るほどのキツい獣臭、間違いない。本物のティグノウスだ。


「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 タクマは生きてて一度も出したことのない悲鳴を上げ、逃げる。

 しかしティグノウスは周りの木を自慢の爪で切り裂いてまで追ってくる。


 ──無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!


 タクマは必死で逃げる、流石に転生初日で死にたくない。その一心で逃げる。


「グルァァァァァ!!」


 しかし、殺す為に追いかけるのが魔物。ティグノウスは口を大きく開け、そこから火の玉を吐き出す。


「だぁぁぁぁ!!!熱っ!今掠った!絶対掠ったぁぁぁ!!」


 タクマは何とか避けれたが、避けた火球のせいで草木が燃え上がり、逃げ道を絶たれてしまった。


「駄目だ……俺はここで殺される……」


 そう思い目を瞑った時、どこからともなく男女二人の声が聞こえた。

 フィルとアンの声だ。


「大丈夫かーい!」「今そっちに向かうわ〜」


 そんな事言われても、駆けつけた頃にはもう食い殺されている。若しくは人肉ステーキだ。

 そんな時、タクマはある事を思いついた。


「あの火の玉、あれが魔法ならコピーが使えるはず……」


 タクマは一か八か「コピー!」と唱えた。

 すると、辺りからこの世界の古い文字が書かれた細長い光達が現れ、タクマの周りを囲みだし、その光達が魔法陣のような輪を作り出した。


「なんだこれ、炎と心を同調せし時、汝火球を生み出さん?」


 タクマは魔法陣に書かれている文字を読む。

 いや、今はこんな謎演出に驚いている場合ではない、次はこの魔法をどう使うかだ。


「一か八か、《コピー・フレア》!」


 何故か自然と魔法の名前が出てきた、聞いたことも学んだこともない名前なのに何故……?

 すると、タクマの右手から、さっきティグノウスが発射した火球と同じものが飛び出し、ティグノウスの尻尾に命中した。


「これがそうなのか、よしもう一度っ!」


 そう言って、タクマはまた《コピー・フレア》と唱える。

 しかし、何も起こらなかった。


「あれ?おかしいなぁ……《コピー・フレア》!《コピー・フレア》!」


 何度やっても結果は同じで、使えなかった。

 そして、ふとタクマが前を向くと、ティグノウスが逃げていた事に気づく。

 助かった、そう安堵のため息をした時だった。


「ねぇ、今の見た?フィル」

「あぁ、バッチリ見ちまったよ。」


 聞いたことのあるカップルの声、まさか……

 後ろを振り返ると、そこにはタクマを助けにきたフィルとアンが居た。

 そう、タクマが「コピー」と言う唯一無二の魔法を使っていた所を、目撃されてしまったのだ。

 こうなってしまえばもう言い訳は無効、タクマは観念して、二人からの質問に正直に答える覚悟をした。


「いや今はそんな場合じゃない、まずはティグノウスを倒そう!話はそれからだ。」


 二人はそのままティグノウスが逃げたであろう方向へ向かった。


「でもあの二人には任せられない、俺も急ぐか。」

 タクマも二人の後を追って、燃え盛る森から抜け出した。

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