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第48話 過去の夢、極上の寿司

「ルララ〜、ララ〜」

「お母様、そのお歌は何ですか?」


とある昼下がりの庭、そこで黒いドレスの女性に、小さな少女は訊く。

二人とも良く似ており、髪は金、紅い目、誰もが羨む白魚のような肌。


「メアや、これは妾達ネクロ族に伝わる死霊に捧げる鎮魂歌『霊歌』じゃ」


メアのような口調で、小さな女の子にそう伝える。

そう、この少女こそが、幼き頃のメア。

そして、大人となったメアのような人こそ、その母親なのである。


「れいか……?何です?それは」

「妾達は生まれた頃から霊が見えるじゃろ?じゃが、普通の人間族には見えないのじゃ」

「確かに、お父様の後ろにお爺様が居ると言っても、信じてくれませんでしたね」


メアは母の話を聞いて、そう呟いた。


「でもの、この歌を歌えば、妾以外でも霊を見る事ができるようになるのじゃ」


母がそう言うと、屋敷に居た父親、アルゴ王が二階の窓を開けて、「大変だ!私の後ろに親父……いや、父上が!!」とメア達に伝えた。

それを見て、メアと母は笑い合った。


「すっごーい!他にも何か力はあるのですか?」

「そうじゃなぁ、霊を見せる以外には、迷える魂の浄化かのぅ」

「それはいつ、私も使えるのです?」


メアが訊くと、母はクスクスと笑って「人とネクロ族の血が混じった妾自慢の娘じゃ、いつか自然に使える」と答えた。

けどメアはこの時、知らなかった。

この半年後、母が……


「お母様、お母様……」



【大和城 小部屋】


「お母様っ!!」


メアは布団から凄い勢いで飛び起きた。

そして、その隣でも寝ていた爺さんが、メアの大声に驚いて、また飛び起きた。


「メア!無事だったか!?」

「大丈夫か……?」


メアの叫び声に気付いたタクマは、すぐにメアへと駆け寄った。

何があったのか、それよりここは何処なのか、メアは辺りを見回す。

屏風に襖、大和城に帰ってきたようだ。


「うむ、何か昔懐かしい夢を見ていたくらいじゃよ」

「そうか、とにかく無事そうで何よりだ」


タクマはほっと胸を撫で下した。

すると、腹の虫が空気を読まずに鳴きだし、タクマの腹から「グゥ〜」といい音が鳴る。

そして、それは移るようにして、メアもノエルも腹を鳴らした。


「腹減ったのぅ」

「私達、今日も頑張りましたからね」


三人で笑いながら話していると、丁度よくリュウヤが「飯の用意が出来たぜ」と知らせに来た。


「さてと、行くとするか」


タクマは立ち上がり、リュウヤと共に宴会場へと向かった。


【大和城 宴会場】

大きな襖を開けると、そこには沢山の小さなテーブルがあり、その上には食べる前から「美味い」と思える、美しい寿司が置かれていた。

しかし、ノブナガの席であろう奥の上段には、何も置かれていない。


「ノブナガ様……何かあった?」


タクマは、昼の一件で心配し、リュウヤに何があったか訊いた。

せるとリュウヤは、「何か調子悪いらしい」と答えた。

調子か、確かにあの時から人が変わった感じが……


「まぁまぁ、難しい顔してないで食べましょうよ!」


お腹が空いてたまらないノエルは、さっさと食べたいため、考え込むタクマと寝起きのぼけっとしたメアを引っ張り、席についた。

これで全員集合、席をついたと同時にリュウヤが指揮して「いただきます!」と号令をかける。


『いただきます!』


リュウヤの声の後に、また大きな声が響き渡った。

そして、言い終えた人達は一斉に箸を取り、次々と寿司を口に運んだ。


「うおっ、やっぱ剣崎の寿司は極上だなぁ!」


タクマも、食べ慣れた味だとしても、凄いリアクションをしながら食べた。

すると、メアがタクマの袖をちょいちょいと引っ張った。


「どうしたメア、食わないのか?」

「これ……生じゃよな……?」


メアはこれを「食べるのか?」と言わんばかりに、タクマに訊いた。

そう、メア達は生で魚を食べた事がないのだ。

それに対し、タクマは笑って「騙されたと思って食ってみな」と言い、食べるよう促した。


「うむ……いただきます……」


恐る恐る、メアはマグロを食べる。

すると、口の中に電撃のようなものが走り出す。

蕩けるような油の乗った大トロ、それをまた更に彩る醤油、恋人を優しく握ったかのような優しいシャリ。


「これが……スーシィというものなのか……妾は感動したぞっ!!」


そう言って、メアはさっきまでためらっていたのが嘘かのように、バクバクと寿司を食べていった。


「どうだ美味いか、これこそ剣崎特製の、あっ『極上魚心』なりぃ!」

「お前様、ご飯粒」



そうして、タクマ達は最高に美味い寿司で腹いっぱいになったのである。

しかしその時、事件は起きた。


「ふぅ、沢山食べましたね」


ノエルは満足そうな顔でお腹をさする。

確かに美味すぎて胃袋の限度を忘れるのは良いが、流石に食い過ぎた。


「さてと、それじゃあ最後にデザートでも食うかの」


メアはワクワクしながら言い、小さな壺を取った。

ん?デザート?そんなのあったか?

タクマは考えたが、すぐにその「デザート」が何なのかを察した。

メアが蓋を開けたその中には、緑の物体。

そう、「わさび」だ。しかも剣崎家特製の超激辛わさび、その名も『須佐男』だ。


「それだけはやめろぉぉぉ!!」


タクマは止めに入った。

だが、遅かった。


「あーんっ」


アイスクリーム1玉分くらいの量を、メアは凄く可愛いロリボイスで口に入れ、飲み込んでしまった。

そして、その一部始終を見ていたリュウヤや、それを「わさび」と知っていた人達は皆「あ……」と、目を点にしてそれをじっと見つめていた。

次第にメアの顔が赤くなる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


まるでドラゴンかのように、メアは口から炎を吐いた。


「メアァァァァァァ!!」

「メアさぁぁぁぁぁん!」


……今宵の大和は、今まで以上に平和であった。多分っ!

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