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【最終章突入ッ!!】コピー使いの異世界探検記【28万PV突破!】  作者: 鍵宮ファング
第2章 不思議な僧侶と世紀末的砂けむり事件
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第20話 王の速達と驚異的僧侶の正体

【キョーハイ砂漠 停留所】

「キョーハイ砂漠~キョーハイ砂漠~、降り口は左側となっておりま~す!」


 またいつもの駅アナウンスが馬車の中に響く。


「もう着いたんですか?」


 その声にノエルが目を覚まし、メアはまた荷物置き場から何とかシストの悪魔みたいな動きをしながら出てきた。

 しかし、流石に三度目はもう疲れたのか、タクマは突っ込まなかった。ただ、メアだと分かっているとはいえ、いつ見ても心臓に悪い。

 そんな事もありながら、タクマ達は馬車から降り、キョーハイ砂漠を見渡した。

 それにしても、太陽サンサンな昼の砂漠は大体暑いはずなのに、何故か肌寒い。

 まるで雪の降っていない北海道のような寒さ、元道民のタクマからすれば大したことはないが、慣れていないメアやノエルは凍えて震えている。


「普通なら暑いはずなのにどうしてここまで……」

「これはおかしいのぅ、しかも砂漠のくせに砂がカチカチで岩みたいになっておる」


 口々にこの謎の現象の事を話し合いながら歩いていると、人の頭蓋骨を被ったような見た目をした、小さな紫のサソリの魔物が現れた。

 これがそのスコルピオの幼体なのだろう、クエスト用紙によれば「死にはしないが、下手をすれば二度と手を動かせなくなる毒を持っている」

「全体的に硬いから、倒すのには魔法で行け」とだけ注意書きが書かれていた。

 掃討数はスライムの時と違い10体だけ。


「パァっと10体倒したら温泉で汗流そう、メアとノエルは俺の背中側を頼む」

「そんな縁起でもない後の話をするでない!」


 メアは言いながら投げナイフを構えた。

 クエスト開始だ。


「どりゃあっ!」


 掛け声を上げながら、タクマはまず毒のある尻尾を切り落とした。

 ティグノウスの鋭い爪のお陰か、すんなりと刃が通る。


「後は体を……うおっ!」


 タクマはスコルピオの身体へ剣を振ったが、ちょっと甲殻にヒビが入っただけで、跳ね返されてしまった。

 やはり幼体と言えど、キョーハイ砂漠を牛耳っていた魔物の子、そうすんなりと倒せる訳ではないらしい。

 それでもタクマは諦めず、ヒビ割れた所にかかと落としを喰らわせ、割れた柔らかい部分に剣を刺して倒した。


「こんな感じで行けば良いのか、なるほどな」


 独り言を呟きつつ、タクマはさっきと同じように目の前に居たスコルピオをさくっと二体倒した。


「ここは片付いたし後ろは……」 


 タクマが振り返ると、そこにはスコルピオの青い返り血を浴びながら「おんどりゃぁぁ!!」と言う掛け声と共に、スコルピオを殴り潰すノエルの姿と、それを気にせず多分もう死んでいるであろうスコルピオに何度も凄い速さで投げナイフを投げつけるメアの姿があった。

 しかも、辺りには潰れた死骸が5体もあり、まさにカオスな画である。

 すると、10体倒した事によりクエスト用紙が光った。


「へぇ、これがクエストクリアのサインなんですね」


 顔に血で濡れたにも関わらず、ノエルは笑顔でタクマの出した紙を見た。

 魔物の返り血、そして青色とはいえ返り血付きの笑顔は恐ろしい。


「いいからノエルはこれで顔拭いて。下手したらモザイクものだから!」


 タクマはそう言い、どこかから取り出した風呂用タオルを出し、ノエルの顔に被せた。

 流石にこれ以上出してしまうと、別の意味で世界が危ないからである。そして、そのタオルをどこから出したのかについては絶対に探ってはならない。


「それじゃあ馬車に乗って戻りましょうか」


 顔を拭き終わったノエルはタクマにそう言った。

 しかし、メアはそれに対して「チッチッチ……」と言いながら指を振る。


「そんな必要はないぞノエルや、さぁお見せするのじゃ!」

「言われなくともやるさ」


 タクマはメアの言葉と調子に乗りながら《ワープ》と唱える。

 すると、三人の足元に魔法陣が現れた。


「うわぁぁ!何ですかこれ!」


 ノエルがその見慣れない魔法陣に驚いていると、タクマはノエルの肩をポンと叩いた。

 辺りを見渡すと、そこは砂漠ではなくお菓子屋メリィの前の景色になっていた。つまり、ウォルに戻っていたのだった。


「俺も良くは分かんないけど、転送石を飲まされたせいで使えるようになった便利な魔法だよ。って訳で、精算して温泉に入るぞ~♪」


 タクマはウキウキな感じを出し、ギルドの方へと向かった。


「タクマの奴、完全に浮かれておるのじゃ……」

「でも私は嫌いじゃないですよ、ああ言う人」


 そうして、二人もついて行った。



【温泉ギルド 脱衣所】

 ここで、タクマは当たり前だが服を脱いで、温泉に浸かる準備をしていた。

 ただその間、ノエルだけは入ろうともせず、暖簾の前でうろうろとしていた。


(それにしてもノエル、男の暖簾の前で何ウロウロしてるんだ?)


 タクマがそれを気にしていると、なんと男の脱衣所にノエルが入ってきた。

 勿論、まさかの美少女乱入に、涼む男や着替え中の男は皆驚く。


「お、おま、ここ男だぞ!?」


 タクマはその急な事態に驚いた。

 すると、その驚く顔を見てノエルは笑い、服を脱ぎ出す。

 こんな話、薄い本でしか見たことがないのにまさか本当に起こってしまうとは……

 胸までしかない上着のような物を脱ぎ、白いワンピースのようなジャンパースカートが姿を表す。そして更に、左脇のジッパーを下ろし、それも脱いでいく。

 すると今度は、女子の水着のような、フリフリのショーツが現れた。まずいまずいまずいまずい!

 しかも、今度はそれにまで手をかける。それ以上は駄目だ!見ちゃいかん!タクマは自然に、目を手で覆い隠す。

 すると、黙っていたノエルは「実は……」と喋り出した。


「実は私、男の娘なんです」

「は?」

「だから、男の娘で、男の娘なんです」

「………えええええええええ!?!?!」


 タクマはあまりにも急な話に耳を疑い、性別を判別できる所を確認した。

 すると、そこにはあった。ナニとは言わないがそこにあったのだ。立派なガネーシャ様が、そこに鎮座していたのだ。全くやましい意味ではない。

 そしてその時、タクマの中のモヤモヤが全て繋がった。

 胸がまな板だった事、女子にしては強い握力を持っていた事。その全ては、彼女──いや、彼が男だから。最初は珍しい、本当に胸の小さな力の強い女の子だと思っていた。だが彼が男であるとなれば、話は別だ。


「じゃ、じゃあお前はオ……くぁwせdrftgyふじこlp!」


 タクマが何かを言おうとした時、ノエルのラリアット、ボディブロー、卍固めの3コンボが繰り出される。


「痛い痛い痛い!ギブギブ!」

「次、男の娘の事をそれらと同じにしたら、テメェの《自主規制》ちょん切るぞ」

「ハイ、モウシワケゴザイマセン」


 死にかけた声でタクマが謝ると、ノエルはその卍固めを解放し、タクマを正座させた。


「良いですか、男の娘って言うのは私みたいに《自主規制》があって尚且つ女の子の顔を持つ子の事を言って、それとは全然違う!返事っ!」

「イ、イェッサー!」


 一体何をさせられているのかタクマも分からなくなったが、ノエルが男の娘であり、ある事を言うと恐ろしいコンボが繰り出されると言うことが分かった。

 タクマは逆らうとヤバイ、と思いノエルに敬礼し、浴場へ行く。



「あぁ~、やっぱりクエスト後の風呂は最高だな~」

「最高じゃな~」

「良い汗かいた後はこれに限りますね~」


 三人は会話をしながら露天風呂で暖まっていた。

 古典的なシャワーで身体を洗い流し、石鹸で頭を洗い、指がふやけるまで入る風呂。

 酒を飲める歳であれば、絶対に美味しく飲めるだろう。

 そう思っていた時、ギルドにアナウンスがかかった。


『タクマ様~、メア様~、アルゴ国王様から速達が届いております。クエストカウンターにお越し下さい。繰り返します──』

「父上から、しかもタクマ宛ともなると、オーブの話かの?妾は先に上がって速達を受け取っておく」

「あぁ、ありがとう。俺はまだノエルと入ってるわ」

「のぼせても助けてやらんからな」


 メアはそう言い残し、露天風呂を後にした。

 確かに、速達ならば、すごく重要な事があったに違いない。

 


 ──それから数分、タクマはなんだか頭がボーッとしてきた為、湯船から上がろうとした。

 するとその時、ノエルが急いでタクマを呼び止めた。


「どうした?」

「あの、折角冒険家になったんだし、良かったらその……私をタクマさんのパーティに、入れてくれませんか?」


 ノエルは顔を赤らめながらも、勇気を出してタクマに話した。

 別にメアとは偶々休暇で来ただけではあるが、仲間は多い方がいい。特に、メアなんて言う一国の姫様は離脱する可能性もある。その事を考えれば、ノエルが一緒についてきてくれるのは有難い事だ。


「辛かったら、いつでも抜けていいからな」

「は、はい!」


 タクマはそう言い、2人で一緒に上がった。



【ギルド】

「おうおう、速達の手紙なら受け取ってあるぞ」


 暖簾を上げて出てきたタクマに、メアは投げナイフで培った投てきスキルを用い、手紙を投げ渡す。

 しかし、あまりの速さにタクマは避けきれず、その手紙はタクマのコートに刺さった。


「危ねっ!刺さるレベルとかお前どんだけ……」


 メアに物申そうと思いながらも、タクマは抜き取った手紙を読んだ。


 親愛なる娘メア、そしてタクマ君。

 先日滅ぼされたヴァルガンナを探索している兵士から、古代デルガンダル文字でも他の大陸の文字でもない文字を発見したと言う情報が届いた。

 そこで、異世界・日本出身である君と、古より伝わる「霊歌」の継承者でもある我が娘メアならばその謎が解けると考えこの手紙を送った。

 ウォルで休暇を取っている最中で申し訳ないが、今回の件とオーブが関係していないと言い切れない。

 我々の都合で本当に申し訳ない、君が来てくれるのを待っている。


 タクマが読み終えた時、メアはその持っていた紙を奪い内容をもう一度確認した。


「確かに、事の真相を訊くならば被害者に聞くのが確かじゃな」

「行くとして、ノエルはどうする?これはあくまでも、アルゴ国と俺の問題だ。多分同行許可してくれるとは思うけど……」


 タクマが訊くと、メアは「え、良いよ」と軽く答えた。


「軽いな……」


【ウォル お菓子屋・メリィ】


「もう行っちまうのかい、ノエル」

「うん。そろそろ私も、広い世界を見なきゃいけない歳だしね」


 ノエルは母親の問いに答えながら、女物の服(装備)を鞄に詰める。

 それを見ていたタクマは、経験出来ずに終わった人生の一大感動イベントである、巣立ちの瞬間がどれほどグッと来るものかを感じた。


「タクマ君、メアちゃん、ウチの息子をよろしくね」


 母親の“息子”と言う言葉に、メアは驚き、タクマにこっそりどう言う事か訊いた。


「実はだな、アイツ男の娘なんだよ」

「え、じゃあ……むぐぐ!」


 タクマはノエルのキケンな視線を察知し、メアの口を押さえた。



「さてと、忘れ物は無いな?」

「いつでもOKです!」


 ノエルが合図を出した時、タクマは手を空にかざした。


「準備はいいか?」

「はい!行き先はアルゴ、ですよね?」

「まぁ、きっとすぐ出発じゃから観光はできないかも知れぬがの」


 こうして、ノエルがチームに加わり、一行はヴァルガンナの謎を追いに行くのであった。

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