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第194話 禁じられし名

 鋭い視線でギルドから見送られた後、タクマは誰も見ていなさそうな路地の壁に手を当て、何度も息を吐いた。

 心臓がバクバク動いて、視線の圧で息ができなくなりかけ、ストレスで死にそうになる。すると、偶然こちらの様子を見に来たデンジと再会した。しかも、まだ気分が優れない状態だったために心配された。


「おい大丈夫か?タクマ少年」

「は、はい。ちょっと、好きになれない状態だったもので上がっちゃいました」

「そうか、やっぱりか。手間をかけさせてすまなかった」

「やっぱり?じゃあまさか、そっちも?」


 やっぱりと言う言葉を聞いて、タクマは訊き返す。するとデンジは、何を言うわけでもなくゆっくりと頷いた。謁見するまでもなく門前払いされたと付け加えて。

 やはり“オニキス”が禁句である事は確かなようだ。しかし一体、何故オニキスが禁句なのだろうか。今となっては有名な賞金首、危険人物だというのに何故そうまでして語らせないのか。

 タクマは考えた。するとその時、ギルドから出てきた青年がこちらに声をかけてきた。


「おーい、ちょっといいですか?」

「おや?知り合いかい?」

「いえ、知りません」


 声をかけてきた男は、兵士のようなキリッとした服を着ていたが、戦いをするようには見えなかった。戦闘向きの服にしても、武器を持っていないのが決定的だった。別に筋肉がスゴいわけでもないため、デンジのような情報科の人間だろう。

 すると男は、辺りを警戒した後に二人へ近付き、こちらへと案内を始めた。


「この先に私の家があります。ここでは危険ですから、そこで茶を飲みながらお話を」

「は、はぁ。ご馳走になります」


 タクマとデンジは頭を下げ、男の後をついて行く。綺麗な民家のある側と別方向だ。


【男の家】

「ささ、どうぞどうぞ。ごゆっくり」

「どうも。ところで、あなたは一体?」

「申し遅れましたね。私はワトソン・ジャック、フォーデンの情報科幹部です。それで、台所を整理してるのが……」

「父のロックだ。よろしくな」


 男、もといワトソンとロックは笑顔で自己紹介をした。勿論、タクマとデンジも自己紹介をして、握手を交わした。


「それで、話というのは?」

「オニキスの事です。彼が一体、どうしたって言うんです?」

「実は、奴がメルサバを襲撃して、次はフォーデンを襲うと予告したんです」

「そんな……そう、ですか」


 正直に話すと、ワトソンは悲しそうに俯き、組んでいた両手を強く握りしめた。あまりにも気になり、タクマはついオニキスとの関係を訊いてしまった。

 やはりワトソンはショックだったのか動かず、何も喋らない。と思っていると、台所に居たロックがトレイの紅茶を出しながら代わりに教えた。


「ワトとオニは親友で、同じくフォーデン騎士団の同期だったんだ」

「親友?」

「はい。私と彼は、父が友人同士だった事もあって、その繋がりから自然と仲の良い親友の関係になったんです」


 ワトソンは声を震わせながら話す。


「誰よりも優しくて、動物にも好かれていて、喧嘩や争いを嫌っていて、昔から厚く信頼されていたんです」

「誰よりも優しい、ですか」


 タクマはワトソンの言葉を聞いて、心の中で驚いた。あの最強を狩る為なら手段を選ばない狼犬のようなアイツが、優しくて信頼される人間には思えなかったからだ。

 しかしワトソンの目に偽りは見えない。きっと何かあって、そこで変わったのだろう。タクマは続けて彼の話を聞いた。


「でもある日、親衛隊長のガラに両親を殺されたんです。それから彼は行方を晦まして……」

「殺された?どうして」

「反逆罪と言う名目でしたが、きっと違うでしょうね。ガラは気に入らない人間を迫害する卑しい奴でしたから、権力を使って己を正義に仕立て上げ、彼の信頼を地の底に落としたのでしょう」


 そう言っていると、ロックは棚に飾られていた写真立てを取り、それを二人に見せた。

 写真の中には、白く動きやすそうな服を纏い、肩を組む二人の男が写っていた。一人は変わらずワトソンと分かるが、もう一人は分からなかった。髪が短く、人の良さそうなイケメンに見える。

 しかしよく見てみると、雰囲気がどことなくオニキスに似ていた。シャキッとした青眼に、安心を覚える顔。何から何までオニキスとは違うが、何故だか同じ人であると確信できる。

 

「家族を何より愛して大事にしていたから、殺されたショックで自殺したんじゃないかと思っていたけど、生きていたのか……」

「ところでその、ガラって人はどうなったんです?流石に、権力にしても嘘だったら──」


 しかし、タクマが質問を最後まで言う前に、ロックが首を横に振った。


「オニの信頼が逆転し、彼は一躍英雄になってしまった。まあその後、妻と子供を残して死んだが、きっとオニは知らないだろうな」

「成程な。つまりは、信頼していた奴が実は反逆者で、裏切られたから二度と口にするな。と言うワケだな?」

「そう、なります」


 ワトソンは呟き、悲しそうに写真を見つめる。彼がそんな事するはずない、と小さく言って。

 そうしていると、ロックはデンジに手配書を持っているか訊き、手配書に目を通した。


「ロックさん、どうかしたんですか?」

「ああいや、ずっと前アコンダリアでコレと同じような奴を見た気がしてね」

「父さん、それは本当かい?」

「でも、酷く暴れていたし、アレはオニじゃなかったよ」

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