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第193話 其々の仕事

 それから一行は、壊れた武器を武具屋に託し、タクマ以外はメルサバでの待機となった。その際、リュウヤ達大和組はオニキスが破壊した施設や通路の修正作業を手伝い、残りの4人は怪我人の治療に励んだ。

 勿論、アリーナはアリーナではない別人として変装しつつ、手伝いをした。


「ほっ!はっ!こうしてセメント塗りすんのも、悪くねぇな!だろ、タツ」

「はい。これくらいの力仕事、楽しくってつい、体が動くでありんす。あっ」


 夫婦仲良く壁の修復をしていると、おタツは勢い余って塗り過ぎてしまい、飛び散ったセメントがリュウヤの顔にかかってしまった。

 しかしリュウヤは、怒るわけでもなく顔を横に振り「見てみろ、泥パックだ!」と隣で黙々と作業をする吾朗に見せ、笑いを誘った。すると吾朗は、リュウヤのセメント塗れになった顔にツボったのか、顔を逸らした。


「リュ、リュウヤ殿。ふざけていると、すぐ固まるでござるよ」

「うわそうだった。おうしタツ!みんな纏めて修復してやろうぜ!」

「はい、お前様!」


 言うと二人は、阿吽の呼吸でセメントを塗り合い、着々と壁を直していった。その様子を見て、向かい側で作業をしていた大工は二人の動きを見て感心していた。

 一見伝統演舞でもしているかのように見えるが、よく見ればムラ一つなく、まさに新築同様に修復されている。


「いや〜、若いってのはいいもんだあねぇ」

「彼らですかい?頼んでもないのに、自分から進んで手伝うなんて、ホント頼もしいですよね」

「しかもすんごく綺麗で。はぁ、あの子達がウチに来てくれたらなぁ」

「ま、ぼやいてたって仕方ねぇ。俺らも負けずに頑張るぞ」


 ──その頃、メア達の方は……

「大丈夫ですか?あまり無理しちゃダメ、ですよ?」


 ノエルは包帯を巻いた兵士の手を握り、あざとい上目遣いで大人しくするように言った。雪のように白く柔らかい肌、フリフリの可愛い服、ドキッとしてしまうポニーテール。もう何処からどう見ても、セラピー用に連れてこられた美少女にしか見えない。だが男だ。

 しかし、ノエルの可愛さに負けまいと、メアも兵士に包帯を巻きながら「無理するでないぞ」と声をかける。だが、兵士は無表情のままだった。


「な、何で妾のリアクションはそうなのじゃ!妾アルゴの姫じゃぞ?ドキッとせんかい」

「いや〜、うん。そののじゃが、俺のおふくろみたいで何か……」

「おふ?リュウヤが味噌汁に入れてるアレの事か?」


 初めて聞いた言葉に、メアは首を傾げる。そして、丁度隣で作業をしていたリオに声をかけ、おふくろが何なのか訊いた。

 

「簡単に言うと、お母さんって意味よ……ププッ」


 答えるとリオは、吹き出しそうになり顔を下に向けた。おふくろみたいと言われたメアが、相当ツボに入ったようだ。すると、つい力が入ってしまったようで、兵士が痛い痛いと叫び出した。


「あっ。ごめんごめん」

「どこか痛いところとか、ないですか?」

「胸が痛い。君のその可愛さに、撃たれてしまったようだ」

「これノエル、どさくさに紛れてファンを獲得しない」


 何食わぬ顔で治療を施しつつ心を奪っていると、メアにゲンコツを食らわされた。言い方を変えれば、逆に痛みを増やしているとも取れる。

 と、それはともかくアリーナはと言うと、入った瞬間恥ずかしさのあまり出て行ってしまい、今はリオの部屋に篭っている。


「アルビスなんて偽名使ってるといえ、こんなドレス着るなんてアタシにゃ似合わないぜ……」


 彼女の意思で、好きな色である青いドレスを着、髪型もボブからロングに変えてみたものの、やはりあまりの変わりように心が落ち着かなかった。

 さっさと盗んだお宝返して、メイのコネ使って首の金を降ろそっかな。アリーナはそう決意した。



 ──それからそれから、タクマはデンジ同伴のもと、フォーデンの地に足を踏み入れた。

 ここへ来た理由は、ただワープポイントを登録するだけではなく、ギルドや警備兵達への注意喚起も含まれている。仮にオニキスが今現れたとしても、剣を持たないタクマや兵士が束になってかかった所で結果は目に見えている。それに、あの使い慣れたフランクの剣が馴染みすぎたため、仮で持っている剣では本気を出せない。

 それでも、フォーデンを拠点とする上位層の冒険家達にちょっとだけでも協力してくれたら、オニキスの暴走を止められるかもしれない。その事に賭けるのだ。

 

「それじゃあ私は、フォーデンの国王に報せを送る。君はギルドの方を頼んだ」

「分かりました」

「何かあったら、逃げて私に報告したまえ」


 言葉を交わし、二人は互いに別方向へ歩みを進めた。

 それにしても、この国はどこか不気味だ。今にも雨が降りそうなくらい雲行きが怪しいせいかもしれないが、全体的に寂れて見える。

 亀裂が入ったまま放置された民家。築うん十年以上はあったであろう崩れそうな空き家。活気のない人々。王都にしては、廃墟のようで気分が優れなくなる。

 しかし何かしらの問題さえ取り除くことができれば、明るい国に再建出来そうな感じもある。まあでも、腐ってもタイ、気味悪くても王都。観光しているつもりで歩けば、何かいい所を見つけるかもしれない。タクマは前向きに考えつつ、奥へと進んだ。

 すると、ギルド付近へ来たのか、微かに騒がしい声が聞こえてきた。やっぱりどんなになっていてもギルドは騒がしい。正直ゲーセンばりにやかましいと思いつつあったが、今となってはプラスに考えられる。


「お、あっ……た……」


 しかし現物を見た途端、そのプラスはマイナスへと変わった。いや、プラマイのゼロだ。何故なら、その看板が片側に傾いたまま放置されており、フォーデンギルドの文字が錆まみれで余計に怖くなっていたからだ。

 だが、そこから右に7件分離れた位置にあった謎の建物だけは比較的綺麗で、一瞬だが印象に残った。とにかくギルドに報告した後寄ってみよう。


【フォーデンギルド】

 入ってみると、意外にも綺麗で大きなギルドだったものだから、タクマは驚いた。これまで一階建しか見ていなかったが、一階に受付と馬車、二階に大食堂が設立されている。

 更に、ここに半分以上のフォーデン兵を詰め込んだんじゃないかと思うくらい、冒険家よりも鎧兵の割合が多く、密度が高かった。ただ、どの兵士も言っちゃあ悪いが下っ端そうな鎧を着ているため、幹部や隊長、団長らしき人物は居なさそうだ。

 

「すみません。ちっと通ります」

「いらっしゃい冒険家さん。クエスト、決まりましたか?」


 何とか人混みをくぐり抜け、受付嬢の前まで来ることに成功した。まだクエストボード──特に指名手配コーナー──は見ていないが、とにかく報せるべきだ。

 タクマは決意の固唾を飲み込み、話を切り出した。


「実はオニキスが、今度──」

「おい小僧、今なんつった?」


 話を遮るように、近くに居たスキンヘッドの男が話に入ってきた。悪い事をした覚えはないが、男はタクマを睨みつけている。

 しかも、辺りを見回してみると、他の兵士達も腫れ物を見るような目でこちらを睨んでいた。


「えっと、どうか……しました……?」

「嘘だろアイツ、禁句も知らねえのかよ」

「観光客だろ?大目に見たげなって」

「もしかして、マズイんですか?そのオ……なんたらって」


 冷や汗を流しながら、スキンヘッドの男に訊く。周りの目が怖すぎて、顔が青ざめてしまう。心臓もバクバクで、本当にサーッと血が引いていくような音が聞こえてくる。

 すると男はゆっくりと頷き、耳元に顔を近付けた。


(死にたくなければ、今の禁句は人前で言うな。これはルールだ)


 大男から聞かされた瞬間、首に何か危険なものをかけられたような気がした。実際には何も掛けられていないが、まるで死神の鎌のような、冷たく鋭い何かが掛けられた気がした。そうなった以上、もう従う他ない。

 しかし、結果がこうであれ何かはあった。デンジさんと合流して、結果を報告しよう。

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