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第192話 言い値の首

 言い値。とどのつまり「金ならいくらでも出すから殺してくれ」という意味だ。それがいくつもの国が滅ぼされたと聞く今、奴を恐れてそういった処置を取るのも納得がいく。

 しかしそれではダメだ。戦った事はないが、アナザーの力はまさしくチート。それがイコールでオニキスと繋がるのであれば、言い値という言葉に目が眩んだら最後、奴に殺される。


「アナザーって、どうして例の悪魔の名前が突然?」

「数日前に滅ぼされたレイス帝国跡にも、例の塊が散乱していたのが決め手との事だ」


 デンジは心苦しそうな顔で視線を逸らし、机の金塊を見つめた。その話を聞いたタクマは、レイス帝国の位置を地図から探そうとした。

 すると、突然メアが「ふざけておるのか!」と激怒し出した。


「そんな危険な事、国王達は分かっておるのか!?」

「あぁ。アルゴ王も我が国王も、民の安全を取るため、やめるべきだと意見したそうだ。現に、アナザーの時点で探しに行く者が増えたからな」

「でもその意見を抑える程、他の国王サマは奴を殺してぇって事か」

「まあ、このままアナザーを野放しにしていれば、明日は我が身。いや、世界全体が滅ぼされる可能性もあるでござる。恐れを成すのも無理はない」


 吾朗は顎に手を当て、どうするのが正解なのか模索した。しかし、集中していたその時、苦しそうな呼吸をする人の音が聞こえてきた。

 彼はもう落ち着いてるいため、デンジではない。じゃあ一体誰?そう思い足元を見てみると、ナノが胸を押さえて倒れ込んでいた。


「ナノちゃん!どうしたでありんすか!?」

「そうか。おタツさん、すみません。ナノは俺に預けてください!」

「けどタクマさん、話は聞かなくて──」

「ごめん。後で聞くから、覚えといて!」


 タクマはノエル達にそう伝え、ナノを背負って部屋から出た。


【病室前】

「ちょっとは、落ち着いた?」


 部屋を出てから丁度3分。タクマはナノの隣に座り、訊いてみる。だが、やはりこの程度では落ち着かなかった。

 それもそうだ。ずっと疑っていた男が、仇その人だと発覚したのだ。読心術なんて持ってるわけがないから、今どう思っているのかは分からないが、きっとパニックになっているのは間違いない。

 

「なぁタっくん」

「どうした?何でも言っていいよ」

「タっくんは、ウチが人殺しそうになったら、止める?」


 ナノの意外な言葉に、タクマはつい声を漏らす。仇の事だからてっきりこの際復讐してやろうなんて考えているのかと思っていたが、全然違った。

 まあでも、12歳の少女の中に殺す思いがあったとしても、流石に良し悪しは分かる。“やってはいけない”と分かっているからこそ、悩んでいるのだろう。

 タクマは天井を見上げ、答えを考えた。そして、考えをまとめてゆっくりと口を開けた。


「難しいけど、俺はきっと止める。復讐したって、気持ちは晴れても後が大変だからさ」

「やっぱり、そうよな。馬鹿な話してご──」

「でも、殺したいって気持ちは分からなくないかも」


 ナノのごめんを遮り、タクマは呟いた。その言葉を聞いたナノは、顔を上げた。


「親しい人が殺されたら、誰だって犯人が憎いと思うさ。きっと俺も、今の仲間や旅先で出会った人が殺されたなんて聞いたら、殺したいって思う。でも、思うだけで殺さない」

「なんでなん?」

「だって、それって相手と同じだろ?相手が誰だろうと、殺人犯を殺せば俺も殺人犯になっちまう。それに、もしナノがオニキスを殺したら、天国のレンブおじさんが悲しむから」


 タクマは顔を向け、笑って見せた。本来なら笑うところではないのかもしれない。でも今は、彼女を落ち着かせる事が先決だ。

 リュウヤがいつも辛気臭い雰囲気を壊して明るくしてくれているように、俺も何か人を笑顔にしたい。

 するとナノも、タクマの言葉に励まされ、笑顔を返した。


「あんま覚えとらんけど、それ監獄でも言われた気がする」

「そうだっけ?俺も覚えてないや」


 そう二人で笑い合っていると、話が終わったのか、リオ達が部屋からゾロゾロと出てきた。

 しかし帰ってきた彼らの顔は、絶望するでもなく、怒りに震えるでもなく、覚悟に満ちた目をしていた。ただ一人、必死に顔を隠すアリーナを除いて。


「それで、どう言った話を?」

「えーっと、ウチらがフォーデンに赴くのは確定なのでありんすが……」

「武器がこんなのでは、オニキス討伐など、無理でござる」


 言うと吾朗とリュウヤの二人は、刀を抜いて見せた。二人の言う通り、刃はボロボロで使い物になりそうには見えない。

 それを見たタクマは「そういえば俺も」と、恥ずかしそうに剣を抜いた。


「うっわボロボロじゃのぅ。大事にしますは何だったのじゃ〜?」

「だから、タクマさんだけを最初に連れてって、準備が出来次第全員集合しようって事になったのですが……」

「嫌だ、なんて言うわけないだろ?」

「さてと、じゃあ決まりね。問題は……」


 リオは嬉しそうに両手を合わせ、タクマの了承を喜んだ。そして、続けてアリーナの方に向いた。

 

「ねぇアリリン、何で顔隠しとるん?」

「だってぇ、アタシ一応賞金首だぜ?万一アタシが大海賊アリーナ様だなんてバレたら、命の危機じゃあねぇか!」

「そういえば、アンタ賞金首だったな」

「まあでも、別にアナタを引っ捕えるつもりはないわ。理由はちゃんと話すから、ママの衣装室に着いてきなさい」

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