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第189話 帰るまでが探検

「おー!久々の外の空気だーッ!!」

「おっとアリーナ殿、まだ脚が治ってないのに」


 外へ出ると、雲ひとつない青空と冷えた体を温める太陽が脱出を祝福してくれた。太陽の位置やちょっとした肌寒さから、今は朝のようだ。

 するとアリーナは、吾郎の背中から飛び上がり、ぐぐっと大きく背伸びをした。

 吾郎は傷口が開くと止めようとしたが、彼女の清々しい顔を見て、まあいいかと言葉を飲み込んだ。


「それにしても、もう朝なのか。あんな暗い監獄だったものだから、時間感覚が狂うのじゃ」

「せやなぁ、ウチも何か眠く……」

「あらあら、立ったまま寝るなんて珍しいでありんすね」


 おタツは裾で口元を隠しながら笑い、眠ったナノを抱き抱えた。身長から見ても、ナノは小学2〜3年くらい、おタツは女性の平均身長より高いため、こうして見ると本当に親子に見える。

 いや、親のいないナノ達にとって、この集まりは家族そのものなのかもしれない。

 そうタクマがしんみりと考えていると、後ろから何者かに小突かれた。


「タークマさん、何考えてるんですか?」

「痛っ。ああいや、アリーナがどうして俺らのオーブに興味持ったのかなぁって気になってさ」


 照れ隠しのため、タクマはつい嘘を吐いた。すると、そう言えばと言うようにアリーナに顔を向ける。

 だがアリーナはしらばっくれ、下手くそな口笛を吹きながら崖の方へと後ずさっていく。


「アリーナ?そういえばまだ赤と黄色のオーブが返ってきてないでありんすよ?」

「隠さないで、さっさと教えるのじゃ」

「あー、っと、そのー。皆ごめん!その二つは売っちまったぜ!」

「へ?」

「ござっ?」

「ウェッ!?」


「「「えええええええ!?」」」


 アリーナは突然両手を合わせて頭を下げ、真実を伝えた。勿論、予想外の返答を聞いたタクマ達は、大声をあげて驚いた。

 そして、かくかくしかじかと彼女は事の経緯を端から話した。



 ──1時間後

「つまり、αって奴の側近のイカレ科学者に依頼されたから、盗んで売って、報酬金と青のオーブを貰ったと」

「よりにもよって、まだ罪源の解放されてないオーブだけを奪いやがったか……」


 タクマは目の前にこれまで手に入れたオーブを並べ、頭を抱えた。

 リュウヤ達の討伐したプラドの青、最初の罪源エンヴォスの紫、メルサバに現れた罪源ラスターのピンク。

 

「まあでも、なったものは仕方ないか」

「タクマ、この状況分かっておるのか?オーブをDr.Zに奪われたのじゃぞ!」

「こうしている間にも、何処かでオーブの罪源が動いてるかもしれないでありんすよ!」


 タクマの軽率な発言を聞いたナノとノエルは、甘い事を口にする彼に詰め寄った。オーブがよりにもよって危険な存在であるZの手に渡ってしまったのだ。許す許さないにしても、仮にこの件で死人が出たとなれば、アリーナだけではなく擁護したタクマにも責任が発生する。

 それに、元々アリーナは大海賊。とどのつまり賞金首の一人だ。そもそも彼女を擁護する事自体おかしい。

 しかしその時、リュウヤが突然「まあ待てよ」と二人に言い聞かせるように呟いた。


「タクマの言うことも一理ある。ここでアリーナ責めてたって、空からオーブは降ってこないぜ?」


 呑気にメアとおタツの前に立ったリュウヤは、植木鉢で採取したイチゴを2人の口に入れた。

 そして、アリーナの口にもイチゴを渡し、彼女の肩に腕を回した。


「お、美味しい……」

「深く考えてたって、頭が痛くなるだけだぜ?アリちゃんも反省してんだし、この話は水にジャジャーッとお流しして、また集めればいいじゃんか。盗んだモンも後で返してごめんなさいすりゃあ何となかる。な、吾朗爺」

「え、拙者でござるか?」


 急に振られ、吾朗は目を丸くしてオロオロし出した。そこにリュウヤは吾郎の耳に駆け寄り「年長者として、意見ちょうだいな」とお願いした。

 頼みを聞き入れた吾朗は、ゴホンと咳払いし、大きく頷いた。


「アリーナ殿、お主はどうしたいでござる?」

「えと、その……元はと言えば、全部アタシのせいだから、ケジメ付けたい……です」


 吾郎の問いに、アリーナはしどろもどろになりつつも応えた。すると吾朗は、手を大きく叩き、カッカッカと笑った。

 そして、アリーナの手を取り、キラキラと輝く目で言った。


「では、拙者達と共に、オーブ奪還の旅をするなんてのは、如何でござるか?」

「じぃじ、なんとも大胆なプロポーズやなぁ」

「いいねいいねぇ!さっすが吾朗爺!よっ、色男!」

「ああこら2人とも、茶化しちゃダメでしょうが」


 その時、アリーナの中で心臓が刺されるような感覚が走った。いや、ハートというべきか。

 タクマの優しさもそうだが、それよりも目の前にいる渋いジジィのハンサムさに、何処かキュンと来た。

 そして、アリーナは初めて“恋に落ちる音”を聞いた。


「はい、喜んで!マイ・ダ〜リン!」

「まい、だぁりん?」

「ああ!アタシ、キュンと来ちまった!いいかお前ら、吾朗はアタシのモンだ!」


 アリーナは前までの凹みムードから立ち上がり、甘える猫のように吾朗に抱きつき、メア達の方を向いてシャー!と威嚇した。

 こうして、アリーナが仲間になった。


「うっし!じゃあ皇帝サマ倒しちゃったけど、ゴルド帝国に帰還じゃーッ!」

「そうだ!誰が1番風呂入るか、ジャンケンしましょうよ!」

「そういやおタツの方は、どんな感じだったんだ?」

「ウフフ、それがですね──」


 各々、改めて再会を喜び、楽しそうに会話をしながら馬車に乗りこんだ。扉が閉まり、馬が高らかに鳴いてゴルド帝国の方へと進んでいく。

 馬車の中では、皇帝が実はプラドの一部だったとか、アリーナの親父と戦ったとか、そんな話で一日が経過したが、それはまた、別の話。

 


 ──────【αのアジト】

 真っ暗な部屋の壁に、プロジェクターが映し出されている。タクマ達の戦いをどこかで隠し撮りをしていた映像が、淡々と流れる。

 オニキスは深刻そうな表示で胸の周りの布を握りしめながら、見続けている。


「家族、か」


 くだらないホームビデオでも見せられている気分だ。いつもなら面白そうに見えるはずなのに、今回だけはそうは思えない。むしろ腹立たしく感じる。

 体がだるいせいか?食おうにも腹がいっぱいな気がして何も食えないし、一段と胸が痛い。

 

『テレビを見るときは、部屋を明るくして離れてみるものだぞ、オニキス君』

「誰かと思えばα、アンタか。何の用だ」

『そんなカッカとしないでくれ。君のために、素晴らしいプレゼントを用意したのに』

「ほぉ、自分から“素晴らしい”と言うか。つまらなかったら承知しねぇぞ?」


 オニキスは振り返り、アルファの用意したプレゼントを見た。そこには、小さな木箱があった。

 早速αが開けると、そこから見たこともない禍々しい剣と、アリーナが盗んだオーブが二つ、顔を表した。


「これは?」

『かつて、勇者伝説の魔王が勇者と戦うために作り上げた魔剣らしい』

「まけん?曖昧な答えだな」

『厳密にはまだ調査中だからね。コレが本当に魔王の魔剣なのか、それともガラクタなのかは分からない』

「成程、丁度新しい剣とやらも欲しかったところだったからな」


 オニキスはフッと鼻で笑い、剣を持ち上げた。するとその時、全身の血液が沸騰するような凄まじい何かが全身を駆け巡り、血管が浮き出る。

 まるで、触手が血管の中を無理やり通る様な、そんな激痛が走る。あまりの痛さに、最強狩りともあろうものが、惨めに断末魔を上げそうになる。だが、オニキスは必死でそれを堪えた。確かに痛みはあるが、この痛みは死ぬ前の苦しみとは違って、強くなれそうな禍々しい片鱗があるように感じる。

 この痛みをモノにしろ、そうすれば俺は……

 

「う、うぉあああああ!!!!」


 自らに力を取り込む為、オニキスは剣を強く握りしめた。すると、オニキスの力に呼応するかのように赤と黄色のオーブが空に浮かび、その中に封じ込められた罪源の付けている仮面が現れた。

 赤からは赤鬼のように真っ赤で2本のツノを生やした仮面、黄色からはドワーフのような尖った耳の付いたペストマスクが現れる。


『腹立たしい!無性に腹が立つ!タナカトスめ、2000年の恨み!』

『欲しい!もっとだ、もっと欲しい!2000年分の欲望、ぜーんぶ解放してぇぜ!』

「フフフ、フハハ」


 突然、オニキスは頭を押さえて笑い出した。心配そうにαが駆け寄る。

 すると、オニキスは狙っていた様にαの腹部に剣を突き刺した。


『がはっ。オニキス君……』

「フハハハハハハハハハハハハハハハ!!面白い!そうだ、俺はずっとこの力が欲しかった!これでもう、誰にも止められねぇ筈だ」


 オニキスは狂った様に高笑いし、力を手にした事を喜んだ。その後ろには、背筋が凍るような悍ましいオーラが止めどなく溢れていた。

 オーブの力なのか、それとも魔剣の力なのか。少なくとも、オーブを2つも解放目前まで成長させたという事は、これまでの罪源を遥かに上回る力を得た事は間違いない。

 αも、薄々彼が強くなっている事には気付いていた。元からの強さ、Zのドーピングによる強化、それらによってオニキスは日に日に力を上げてきた。それが今、罪源と魔剣によって更に強化され、傷一つつけられなかった鎧を突き破られたのだ。

 もう彼には何の後悔も躊躇いもないらしい。そう思いながら、αは滴り落ちる自分の血を見つめた。


『あはは、これは一本取られたね。それにしても、君は何故ここまでして強くなりたいと願うんだい?』

「さぁな。どうせ聞いても無駄だ」

『……そうか。じゃあ、気の済むままに行くといい』


 言うとオニキスは、黒かった眼をオーブと同じ色に輝かせ、目の前でオッドアイになった。

 そして、二つのオーブをお供に、オニキスはアジトを後にした。

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