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第179話 秘密

「レンブおじさん、ウチは最初から知ってたんや。おじさんも、この監獄の幻なんやって」

「ならどうして、皆に言わなかったんや?」

「それは……」

「実を言うと、俺も……」


 ナノが返答に戸惑う中、タクマはそっと手を挙げた。更に続けて、メアも「妾も知っておった」と手を挙げた。


「死んでる筈なのに、幽霊の気配がせぬなんてありえんからのぅ」

「それに、偽物のリュウヤと会った時、レンブさんと同じ感じがしたんです」

「やっぱり、バレてたんやな」

「けど、レンブさんは優しかった。幻でも、影の一部だったとしても、レンブさんの優しさは十分に伝わりました」

「じゃから、妾達は信じたのじゃよ。こんな形で、妾達の方から裏切るとは思いも寄らなかったがの」


 言うと、レンブは優しい笑顔を見せてナノの頭を撫でた。そして、段々とレンブの体が崩れ落ちていく。

 その崩れ落ちていく肉体は、影のように黒ずんだ煙となり、消滅していく。


「いいや、裏切ったのはワイの方や。どの道この層はワイを殺さないと開けない仕掛けなんや」

「おじさん、ホンマにごめん。でも、例えおじさんが偽物だったとしても、ウチは楽しかったで」


 ナノは泣きながらナイフを抜き、レンブの大きな腹に抱きついた。

 ──あったかい。本来ならば敵である筈なのに、人間と同じような温もりがある。あれから二年間、幻でも会いたいと思った日々。こんな形だったといえ、嬉しかった。


「君達なら、きっとワイを創り上げた魔獣、ンゴチガにも勝てる。短い時間やったけど、おおきに」

「レンブ、敵ながら最高の男じゃったよ」

「おおきに、おじさん。おやすみ」


 レンブは最後にニッと歯を見せるように笑いかけながら、リュウヤの影と共に消滅した。


 ✳︎


「私は吾郎の記憶を基に、最も再会したい人物として創られたんだ。ただその分、自分で言うのも難だが、私は他の影と比べて優しくなってしまった」

「ミコトさん、ならどうしてウチらを叩き落とすような真似を?」


 おタツが訊ねると、ミコトは後ろを振り返り、優しい声色で「試練だよ」と答えた。


「さっきも言ったけど、私は吾郎君の記憶から創られたミコトであり、本人ではない。けど彼も、かつてはこのように突き放していたから、真似させてもらったんだ」

「真似なんて、そんな事してどうなるって言うんですか!酷いです!」

「……そうだね、私は酷い偽師範だよ。優しいといえ、皆を騙したのは事実。本当に申し訳なかった」


 ミコトは地面に跪き、仮面が割れる強さで土下座をした。そして、そのせいなのか分からないが、ミコトの体がゆっくりと消滅し始めた。

 まるで燃えるように、煤が飛んでいくように、体が消滅していく。


「師範殿、よすでござる。拙者はむしろ、嬉しかった」

「え?」

「例え師範が偽物でも、二度と会えないと思ってた人に会ったらさ、心が安らぐんだよ」


 リュウヤは刀を鞘に戻しながら、呑気に言った。ミコトにも、吾郎にも言う訳でなく、独り言のように。


「言われてみれば。ミコトさんの試練、最初は怖かったけど、今は何か勇気が湧いてきました」

「えぇ、偽物とはいえ仲間を斬るのはちょっと気が引けたでありんすけどね」


 続けて、ノエルとおタツは言う。

 そして、2人の感想を聞いたミコトは、満足した声で「そうかい」と呟き、ゆっくりと狐のお面を取った。

 そこからは、絵に描いたように整った、和風な美少年の顔があった。しかし、何故なのか両目を瞑っている。


「ありがとう。次が最下層、奴が帰ってきた場所だ。気をつけて行っておいで」


 ミコトは穏やかな顔で手を振り、タクマの影と共に消滅した。

 するとその時、目の前に『クロフル監獄』と書かれたカチンコが現れ、目の前で砕け散ってしまった。そして、時空が破れ、離れ離れにされていたタクマ達が姿を現した。


「うぅ、レンブおじさん!」

「ありがとう、ございましたぁぁぁ!!」

「ったく、今更何を泣いておる。ナノは兎も角タクマは脆すぎ……じゃ……」


 メアはやれやれのポーズを取りながら言う。しかし、隣のおタツと顔を合わせた瞬間ブワッと涙を流し、小さい子のように抱きついた。


「おタツ〜!会いたかったのじゃ〜!」

「ウチも会いたかったでありんすよ」

「おぉ、タクマにナノナノ、久しぶり」

「久しぶり。てかその腕大丈夫なの?」

「大丈ブイってな、今じゃこんな事だって……」

「ダメです!少しは学習してくださいよ!


 そう言って岩を動かそうとすると、ノエルに止められた。ついさっき元気そうに腕を回した結果血が噴き出たのだから、止めて当然である。

 そして、タクマとリュウヤは、互いに黙り込んでいるナノと吾郎に気付いた。

 2人は優しく背中を摩り、心の中でありがとうと伝えた。


「さて、これでしんみりしたのも終いでござる。ナノ殿、大丈夫でござるか?」

「おうよ!ウチだってずーっとおじさんの事考え続けるほど弱い女とちゃうで!」

「2人とも、いつにも増して気合入ってますね。よーし、私も元気にやりますよ!」


 ノエルはメアとナノの腕を引き、行くぞー!と元気よく腕を上げた。

 するとその時、最深部への階段から聞き覚えのある声が聞こえてきた。更に、潮の匂いもする。


「はぁ〜よく寝た。やっぱしアイツら怖気付いて帰っちまったんだな。流石アタシ、こんな薄暗い所でキャンプ出来る肝強女!」


 アリーナが、自画自賛の独り言を呟きながら出てきた。しかも、青のオーブを持っている。


「あ!女海賊のアリちゃんだ!」

「げっ」


 リュウヤの声に、全員が反応する。と言うか、出てきた瞬間から既に反応していた。するとアリーナは、驚きのあまり体を引き、顔を青ざめさせた。

 そして、「スタコラサッサー!」と言いながら最下層へと戻って行った。

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