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第174話 暗い部屋

「さあ、着いたよ」


 ミコトは205号室と206号室の間で足を止め、リュウヤ達に見せた。しかし、何度見てもそれはただ部屋を仕切る為だけの壁にしか見えなかった。


「えーっと、ミコトさん?これの何処が下に繋がる扉なのでありんすか?」

「おタツさん、これはきっとまた壊せば何か出る奴です!」

「おーノエちゃん、今日張り切ってんねぇ!やったれやったれー!」


 ノエルは目をメラメラと燃やし、リュウヤの歓声に応えるように正拳突きの構えをした。スゥーっと大きく息を吸い込み、腰を下ろす。

 そして、どっせい!と拳を突き出そうとした時、ミコトに慌てて止められた。


「こらこらこら、そう何でもかんでも壊さない。女の子でしょ君?」

「ああ実はその、彼女……いや彼は男でござるよ。男のムスメで“男の娘”」

「あらそうだったの?でも男の子でも、そんな野蛮じゃモテないよ?」


 モテない。その一言に心を撃たれてしまったのか、ノエルは口をぷくーっと膨らませながら悔しそうに引き下がった。

 すると、ノエルが不服そうなのを見て、ミコトは頭を撫でながら「私が生きてるなら、君をお嫁さんにしたかったな」と笑いかける。


「あらまあロマンチックでありんすな、お前様」

「全く、師範殿は相変わらず女グセが悪いでござる。付き合うと普通に胸触るから気をつけるでござるよ」

「って、私こんな格好ですけど恋愛対象は女の子ですよ!」

「ハッハー!ジョークよジョーク、ココハ ジョークアベニューデース!」


 話を盛り上げようとリュウヤが片言で言うと、ノエルは冷めた目と低い声で「は?」と呟いた。


「リュウヤさんはほっといて、ここに何があるってんですか?」

「見て驚くなよ?ぽちっとな」


 ミコトは笑いながら、中央のレンガに人差し指を当てる。すると、何処からともなく『認証シマシタ』と機械音声が聞こえてきた。

 そして、206号室の床がぽぉっと青白く光り出し、ミコトが触れたレンガは回転してパスワードパネルに変わった。


「おぉ〜、なんと綺麗な」

「こんな薄暗くて不気味な監獄に、こんな仕掛けがあるなんて驚きでありんす……」


 二人は初めて見る近未来的な仕掛けに感動し、目を丸くしてまじまじと見る。すると、ミコトは満足げに「気に入ったかい?」と問いかけた。それに二人は、無言で頷く。


「んでミコっさん、これ何?」

「コレは隠し通路だよ。さあ、光っている所に乗って」

「いやしかし師範殿。師範殿がそこに居られたら案内役が……」

「大丈夫だよ吾郎君」


 吾郎は心配したが、ミコトは表情を変えずに肩を叩いた。そして、「ささ、乗った乗った」とノエルと吾郎の背中を押し込み、206号室の牢を閉じた。


「成る程コレ、プレベターみたいな奴だ」

「ぷれべたぁ?リュウヤさん、もしかしてですけど、何か間違えてません?」

「きっとあちら側の秘密道具の事でありんしょう」

「そーそー。あのボタン押したら上がったり下がったりするアレ」


 分からない人用に解説すると、リュウヤはエレベーターの事を言いたいのだ。しかし、なぜかプレデターと混ざり、こうなった。

 と、そんな補足をしているうちに、ミコトはパネルにパスワードを打ち込み終えた。


「師範殿、本当に残していいのでござるか?」


 やっぱり心配なのか、吾郎はしつこく訊く。それでもミコトは、嫌な顔をせずに「大丈夫」と同じ返しをする。

 でも、折角再開できた人とまた別れるなんてのは、辛いに決まっている。リュウヤは心の中で察し、あえて何も言わなかった。


「ミコトさん、今回は本当にありがとうございなんし」

「師範殿、幻だとしても、楽しかったでござる」

「おいおい何言ってんの?勝手にお別れムードにしなさんな」



「どうせすぐに会えるんだから」


 少し間を空けて、ミコトは言う。その言い方は、先程までの優男の声からは想像もつかないような暗い声だった。

 そして、無慈悲にピン。と小さな音が鳴ると同時に、床が抜け落ちた。



 ✳︎

「あわわわわ〜!のじゃっ!」

「ゴムス!」


 罠に引っかかり落ちてしまったが、何故かタクマ達は無事だった。そして、ナノは柔らかい床の上に尻から落下する。

 

「おーい、タクマ何処じゃー?」

「し……し……」


 タクマは返事をするように声を出す。だが、それと同時に、上からもう一つ何かが降ってくる。

 見上げると、上からナノが落下していた。


「ナノナノ、いっきまーす!」

「うわぁ急落下するなー!」


 ドン、ゴキ。二つの大きな音が暗い部屋の中に痛々しい音が響き渡る。

 そして、ナノをゆっくりと下ろしたタクマは「こらー!」と叫びながら立ち上がった。


「良かった生きておったのか。てっきり変な音したから死んだのかと……」

「死ぬも何も、殺そうとしてたからね君達!ってか、どうしてナノがここに居るの!?」

「助けるために、自ら飛び降りたんやで」


 ナノは驚く二人に対して、にこやかに答える。その笑顔は眩しく、特に何も考えずに飛び込んだ事が見て取れた。

 しかし落ちてきたものはしょうがない。タクマはナノをそばに寄せ、懐中電灯で辺りを照らした。しかし、何処を照らしても監獄は見当たらない。

 その代わりに、周りがゴツゴツの岩に囲まれている。まさに洞窟の中へ来てしまったような、そんな感覚だ。


「うぅ、なんか不気味じゃのぅ……」

「ここって監獄のはずだろ?なのにどうしてこんな……」


 タクマは周りを照らしつつ、状況を確認した。そして、足元を照らした時、ある事に気が付いた。

 その事に気づいた時、感じたことのない恐怖が背中を撫で、タクマはつい悲鳴を上げてしまった。


「タッくん!どないしたん!?」

「か……か……」

「まさか、ここまできて怖くなったのかぁ?」


 メアはニヤニヤしながらタクマの懐中電灯を取り、代わりに辺りを照らす。

 すると、メアも気付き目をギョッとさせる。なんと、足元にあるはずの影がなかったのだ。

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