第168話 怪奇!監獄の女海賊
「リュウヤ!勝手に行くとか何考えておるのじゃ!」
「ダーハッハッハッハ!どうせ入るんだろ!なら、早く入るべし!」
須佐男の効果が強すぎたのか、リュウヤはメアの話も聞かず、フラッシュばりに大笑いする。その笑い声は大きく、監獄の中に大きくこだまする。
因みに、フラッシュさんの活躍を見たい人は、前章をもう一周するのだッ!……とまあそれは置いといて、簡潔に言えばそう、リュウヤが壊れた。
「あちゃー、スイッチはいったでありんすな」
「ねえノエちん、凍らせたら治らんの?」
「や、やれる限りやってみます」
その間も、リュウヤはダッハッハ!と大笑いしている。そこにノエルは、杖に魔力を溜め、《フリズ》を放つ。
しかし、リュウヤの体は熱く、ノエルの魔法はリュウヤに当たる前に溶けてしまった。
「なんと、氷を溶かすとは流石はリュウヤ殿でござる」
「吾郎爺、感心してる場合じゃないって」
するとその時、ドス、ドス、と重い足音が聞こえてきた。音からして、アリーナではない。それも、巨人の足音のような音。
言わずもがな、危険な場所に来てしまった事に違いはない。
「な、何やこの音!タツ姐怖い……」
「ここは一旦、体制を立て直すために出た方が良い!撤退じゃ!」
「あ、メア殿!どこ行くでござる!」
メアは身の危険を感じ、吾郎の呼びかけを無視して扉を開けようとした。
しかし扉は、ガチャガチャと無機質な音を立てるだけで、全く開かない。押しても引いても、上げても下げても、びくともしなかった。
「な、何故じゃ!何故開かぬのじゃ!」
「メアさん、ここは私に!」
選手交代で次はノエルの番。スーッと大きく息を吸い、拳を構える。
そして、閉じていた目をカッ!と見開き、監獄を揺らすような大声で「どっせい!」と扉に正拳突きを放った。
だが、扉はうんともすんとも言わなかった。
「嘘、じゃあつまりウチら……」
「閉じ込められちゃったって、ワケ?デス?」
タクマは片言になりながら、誰に訊く訳でもなく言った。そして、今置かれている状況を理解したタクマ達は、リュウヤを除いて6人は血の気が引いた。
因みにその頃、外の方では……
「どっこいしょっ、と。ふぅ、コレでアイツらは出てこれまい。後は一匹づつ叩きのめして、オーブを奪ってやる」
オニキスは、出られないようにしてタクマ達を困らせようと、扉の前に大量の重い岩を設置していた。
オニキスの力でギリギリ運べる重さを用意する事により、扉は完全に使えなくなる。その証拠に、メアがガチャガチャと音を立てて脱出を試みても、ノエルが正拳突きをしても、全くびくともしなかった。
彼もその音を聞き、完璧だと自画自賛し、口をニヤつかせた。
「……さて、どうやって入ろう」
しかしその先は考えておらず、オニキスはその場で悩んだ。
それはそうと、監獄内。
「逃げられない以上、行き当たりばったりでもやるしかないな」
「てか、リュウヤさんはあのままでいいんですか?」
「恐るるなッ!突き進め!このリュウヤ隊長に続けッ!」
リュウヤが大笑いしていたその時、後ろから熊のような猛獣が襲いかかってきた。
しけしその刹那、リュウヤは刀を抜き、熊の首を一瞬にして斬り落とした。
「こ、この技は笑剣!まさか、全ての行動はこの時のため……」
「そ、そうなんかじぃじ!リューくん凄い!」
「いや、多分ノリで倒したのかと」
二人が感心する中、タクマはツッコミを入れる。
「へぇ、アタシが呼び出したデビルベアを仕留めちまうとは、大したもんだぜ!」
「その声、アリーナさん!?」
ノエルが叫ぶと、アリーナはヒールを力強く鳴らしながら現れた。「オーッホッホッホ!女海賊アリーナ様、ここに参上よ!」
「さあ、観念してオーブを返すでありんす!」
「オーブはないけど、コイツは返してやるよ、おばさん」
アリーナは、奪っていたタクマの鞄を投げ返した。するとおタツは、怒りに満ちた笑顔でそれを受け取り、タクマに押し付けるように渡した。
それにより、タクマは押し倒されてしまう。
「た、タツ姐……?」
「ナノナノ、気の済むまで、やらせておくのじゃ」
「ねぇアリーナ?貴方、歳いくつ?」
「た、タツ?大丈夫か?もしかして、俺わ──」
「リュウヤは黙ってて」
おタツは笑顔でリュウヤの鼻を力強く殴った。
そして、アリーナはおタツの質問を聞き、オホホホホ!と大笑いした。
「アタシの年齢を聞いて驚くなよ!アタシは、15歳だッ!」
「ウチは19。つまり、ウチはまだピチピチのぎゃる でありんすよ?」
「19!?オホホホホ!高身長だったものだから、てっきり30代だと思ってたぜ!」
アリーナが馬鹿にしたその瞬間、カチンと何か硬いものが切れるような音がした。
その時、屋内であるにも関わらず、雷雲が現れ、二人の背中に龍と虎が現れた。
「はぁ?アナタだって、底上げ靴で背伸びしてるだけで、実際はチビなんでありんしょう?」
「はぁ?アンタ19って言ってるけどねぇ、なーんかババくさいんだよ!やんのかコラ!」
身長を馬鹿にされたのか、アリーナもカンカンになって突っかかる。止めた方がいい、そんなのは分かっている。
だが、一触即発のこの状況、下手に仲裁すれば巻き添えを喰らうのは誰でもわかる。その証拠に、リュウヤが殴られた。
仕方がない。タクマは二人の仲直りを諦め、返してもらった鞄の中身を確認した。
「イツツ、なあタクマ、これ俺悪い?」
「いや、アレは100%アリーナが悪いわ」
タクマは細目で見つつ、バッグを漁る。しかし、中には丸い玉が入っていない。いや、正確には2つあるのだが、残りの3つが入っていない。
おかしいと思い鞄を地面に置いて見てみると、すぐに何がないのか分かった。赤、青、黄。よりにもよって、まだ罪源の仮面が解放されていない3つがない!」
「あー!オーブが足りません!」
「そう簡単に、全部返すと思ったか!このアリーナ様、狙ってないモノ以外に興味はないッ!」
そう言うとアリーナは、おタツとの睨めっこをやめ、自慢するように青色のオーブを見せつけた。
やはりアリーナが持っていたか!しかし変だ、黄と赤はどこに行った?
「こらー!大事なオーブを返すのじゃー!」
「おっと危ない!生憎コイツはアタシのモンだーい!あっかんべー!」
「アリリン、お願い返して!それはウチら……の……」
「な、なんと……」
吾郎とナノは、アリーナの後ろの影を指差し、ガクガクと震えた。
そして、タクマ達も、その姿を見て恐怖に震えた。
「た、タクマさん……」
「ノエル、分かってる。おタツさん、逃げよう!」
「一体、何があるとおっしゃりま────」
──グルォァァァァァァ!!
なんと、アリーナの召喚したデビルベアが、首を切ったにも関わらず、復活した。
更に、復活した勢いで、何故か巨大化してしまう。
「嘘、アタシ聞いてない」
「あー、コイツは俺でもどうにもならんわ。ハハハ」
「「「うわぁぁぁぁぁぁ!逃げろぉぉぉぉ!!」」」