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第161話 皇・帝・君・臨

【ゴルド帝国 ゴルド城】

 タクマ達は、ギルドで会った男達に連れられ、ゴルド城の門前に連れて来られた。

 黄金の門を潜ると、その先には遠くからでも目立って見えた漆黒の城が城下町を見下ろしていた。タージマハルにあるような、タマネギアクセサリーを付け、まさにご立派である。


「おいおいお兄さん、俺達何か悪いことした?」


 リュウヤは頭の後ろで手を組みつつ、男達に訊いてみた。しかし、男はリュウヤの問いを無視し、門の前で待ち続ける。


「少なくとも、ただクエスト選んだだけだから、何もしてませんよ……ね?」

「知らないよ、何で俺見るの」

「大丈夫や、何か有ればウチの背中のトゲトゲボンバーとハンマーで、タっくん助けたるで」

「まさかウチら、処刑される……なんて、あり得ないでありんすな?」

「わー、やめろおタツ!笑顔で言われると余計に怖いのじゃ!」


 この中で一番落ち着かないメアは、おタツの恐怖を煽る発言で不安が爆発し、何故かタクマの背中に乗ってガタガタと震えてしまった。


「あーこら、降りなさいメアお嬢様!」

「嫌じゃ!妾は石、妾は石、妾は石……」

「メア殿、流石にそんな事はないから安心するでござるよ」

「ウチもおイタが過ぎたでありんす。おゆるしなんし」

「ありゃりゃ、こりゃあ子泣き爺ならぬ子泣きメアちゃんだなぁ」


 そんな話をしていると、厳つい男が「うぉああああああ!!」と雄叫びを上げた。

 すると、その雄叫びを合図に、門がゆっくりと開いた。


「君達、皇帝陛下の御成だ。頭を下げたまえ」

「「ははぁー!」」

「「「「は、ははぁー!」」」」


 大剣の男が言うと、リュウヤと吾郎は体をありえない方向にくねらせた後、有名な時代劇ドラマのように土下座した。

 タクマは「何してるんだ」とツッコミを入れたかったが、2人の男に睨まれたため、慌ててお辞儀をしてしまった。これが正解か不正解かは分からない。

 だが、きっとリュウヤ以外はこうしてるから間違いないだろう。


「顔を上げたまえ」


 皇帝は、機嫌の悪そうな声で言った。

 言われた通り顔を上げてみると、そこには誰がどう見ても怒っていると分かる男が立っていた。

 黄金の冠、黄金の鎧、そして黄金の戦斧。まさしく、皇帝に相応しい男がこちらを睨みつけていた。

 

「ゴルド皇帝、例のクエストを受注した者達を連れて参りました」

「わ、妾達、何かまずい事……」


 メアは訊こうとする。しかし、皇帝は戦斧でメアの足元を斬りつけ「黙れ」と答えを返した。

 そして、それまで気楽に待っていたリュウヤの目は見開いた。あのいつも、何があっても気にしないようなリュウヤが恐怖で硬直するなんて珍しい。


「貴様らは私の質問に答えるだけでいい。それ以外の回答は不要だ」

「た、タクマさん。私が言える立場ではないですけど、やっぱり辞めるべきですよ」

「タツ姐、ウチ怖い」

「大丈夫、ウチがついてるでありんす」

「それではまず、貴様らが何故ここへ来たのか、それを訊く為場所を変えるとしよう」


 皇帝は言い、顎で男に連れて来るよう命じた。


【ゴルド城 尋問室】

「お前ら、もう帰って良いぞ」

「「御意」」


 皇帝が命じると、男達はそそくさと退場した。そして部屋の中に、タクマ一行と皇帝だけが取り残された。

 どっかで見たことのある構図、まさしく「睨めっこ」。笑えば負けの以前に、泣けば処刑。それほどの恐怖が押し寄せる。


「ふぅ」

「な、何じゃ?」

「3人は下がってて」

「まさか、君達のような子供がこのクエストを受けるとはな」


 皇帝は、物珍しそうな目つきで7人を見つめた。

 そして、吾郎とおタツに近付き、着物と刀を眺める。その隙にタクマは、メアとノエル、そしてナノを後ろに回した。


「宜しければ、拙者の刀をご覧になってもよいでござる」

「うむ。ではお言葉に甘えて」


 吾郎は他の仲間に危害が及ばぬよう、先に刀を見せて機嫌を取る。

 流石はパーティ最年長、全く動じていない。しかもその目は、皇帝に反抗するような鋭いものだった。

 

「ほぉ、あまり見ない金属の武器だな。それで、貴様らのその召し物、何と申す」

「こ、これは着物と言って、大和の民族衣装でありんす」

「まさか貴様ら、大和の出だと言うのか?」


 ヤマトの名を聞くと、皇帝は夢でも見ているのかと目を擦り、本当なのか訊ねた。

 するとリュウヤは「何なら、大和の和食お作りしますぜ」と親指を立てた。


「今迄このクエストを受けた者は、金に目の眩んだ愚か者、金に困った冒険家、そして刺激を求める酔狂者くらいだった。そこに、秘境の民が加わるとは、実に面白い」

「もしかして、私達気に入られました?」


 ノエルが言って立ち上がると、皇帝は鋭い顔のまま「うむ」と返事を返した。

 それに安堵したタクマ達は、胸を撫で下ろす所か、ガッツポーズをするまで喜んだ。それもそうだ、命に関わるかもしれないのだから、生きてると言う事実だけで嬉しい。


「さて、そろそろ夕食時だ。珍しい物を見せてくれた礼に、ご馳走しよう」

「そ、そこまでは……妾達は自分で食うから大丈……」


 しかし、メアが断ろうとした時、運悪くナノの腹が鳴った。


「ご、ごめん!腹減っちゃった……」

「なら話は早い。遠慮せずに食べて行きたまえ」


 

 そして、皇帝の流れに乗せられ、タクマ達は夕食をご馳走してもらう事となった。


「さあさあ、食べたまえ!」


 テーブルの上には、鳥の丸焼きやフルーツボウルにジュース、そして見たことのない野菜が沢山入ったスープ等が出された。

 腹ペコだったナノは、そのあまりの多さに目を丸くして驚いた。


「美味しそうでありんすな」

「……あれ?」

「タクマさん、どうかしました?」

「皇帝様、食べないのかな?」


 タクマは、皿が七枚しか用意されていない事に疑問を抱いた。

 すると皇帝は、「客人用に作らせた。私は私で勝手に食べる」と返し、その場から離れてしまった。


「何か引っかかるでござるな……」

「うむ、妾も何か嫌な気がするのじゃ」

「まーまー、これも何かしらの恩。ほらほら、ジュース入れるからコップ出して」


 2人が疑っていると、リュウヤはその気を前向きな方へと向けるように、2人の肩を叩きながら言った。


「ホンマ、リューくんは気が利くで」


 しかしその時、リュウヤは椅子に足を引っ掛けてしまい、派手に後ろへ転んでしまった。

 そのせいで、ポットに入っていたオレンジジュースがぶち撒けられてしまう。


「あー、やっちゃったぜ。ごめんごめん、これは俺がやっとくわ」

「もう、褒めればすぐこれじゃ。仕方ない、水で我慢するしかないのぅ」

「リュウヤ殿、早く食べないと冷めるでござるよ」

「あぁ……」


 雑巾で拭き終えたリュウヤは、右手を顔の前に出して謝った。しかし、何処か気になる事があったのか、あまり笑ってはいなかった。

 

「リュウヤ、どうかしたか?」

「ああいや、あのジュースからアーモンドの匂いがしたからさ、珍しいなぁって」

「うーん、ウチには分からへん」


 ナノは匂いを嗅ぎつつ、鶏肉にかじり付く。そして、リュウヤの言葉に耳を疑ったノエルは、ゴクリと飲み込んでから「これはアーモンドで間違いないです」と答えた。

 言われてみれば、微かにアーモンドの匂いがする。


「ま、こぼれた物を嘆いても仕方ない。いっただきまーす!」

「あら?この野菜、甘くて美味しいでありんす」

「鶏肉うめぇ!にしてもコレ、何だろ」

「コレは七面鳥じゃよ。にしてもこのキングサイズ、本当に豪華じゃのう」


 そんな話をしながら、タクマは夕食を食べた。しかし、リュウヤだけは鶏肉には口をつけようとせず、野菜スープだけを黙々と食べていた。


「リューくん、鶏肉食べへんの?」

「勿体無いですよ、ほらほら」

「あーそうか。リュウヤ昔、鶏肉に当たったからそのトラウマで……」

「大正解。だからちょっとね、極力避けてんのさ」

「フフッ、お前様の新しい弱点見っけ」

「やめてくれよ……にしても、何か眠くなってきたな……」


 さっきまで元気そうだったリュウヤは、突然電池を抜かれたおもちゃのように動きが鈍くなり、ゆっくりと床に寝転んでしまった。

 そして、連鎖的にノエル、ナノ、吾郎とフラフラし始めた。


「ふわぁぁぁ、何か不思議な感じです……」

「むぅ、眠くて敵わぬ……」

「おやすみ。zzz……」

「な、何が起きてるってんだ……うぅ……」

「しかし、睡眠薬のような物は……見当たら────」

「ウチ、疲れちゃったでありんす」


 タクマ達は謎の睡魔に襲われ、眠ってしまった。

 そして、ぼんやりとした意識の中、何かがやって来る足音が聞こえてきた。

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