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第158話 戻りし街での祝勝会

 それから夜が明け、崩壊していた街はいつも通りの日常を取り戻した。

 街には人が溢れ返り、崩壊していたカフェはいつも通り営業。そして噴水も、昨日の惨劇を忘れたかのように水を吹き出していた。

 ただ、皆が昨日の事を忘れた訳ではなかった。昨日の爆発も、先代国王の加護も、多くの人々がその事を目撃した。

 そして、この先代が現れた日を「魂魄感謝の日」と制定し、お盆のような祀りを行うようになったのは、また別のお話。


「キャァァァァ!み、ミイラ男ですぅぅぅ!!」


 そんな平和を取り戻したメルサバの一角にある小さな病院で、ノエルの悲鳴が響き渡った。

 あの後タクマはフラッシュから「友達を病院で預かった」と言う情報を聞き、朝一で彼のお見舞いに向かっていたのである。


「おー皆、来てくれたか!」

「リュウヤ!アンタその傷、無事なのか?」


 扉を開けて入ってみると、包帯で全身を巻かれた怪しいミイラ男が横になっていた。

 ただ、隣におタツが居る、そして陽気な話し方などで、彼がリュウヤである事はすぐに分かった。

 しかしそれでも、異常すぎるその姿に、タクマ達は混乱した。


「えと、ソイツ本当にリューくん?」

「何を隠そう、この人はリュウヤでありんす」

「あれ?のぅおタツ、吾郎爺はどうしたのじゃ?」


 メアは同じ部屋に居るはずの吾郎について、2人に訊く。

 すると、「イテテ」と言う渋い声と共に、隣のベッドの下から吾郎が現れた。


「吾郎爺まで、そんな所で何してたんですか?」


 ノエルが訊くと、リュウヤはいきなりハッハッハと大笑いした。


「いや〜聞いてくれよ皆。吾郎爺な、俺のこの姿見てひっくり返ったんだぜ?」

「そりゃあ、起きて隣見た時に包帯男が居たら、誰でもひっくり返るでござるよ」

「た、確かに病院でソレ見たらトイレ行けなくなるのぅ」


 メアは言いながら、しれっとナノの背中に隠れる。


「お前様、冗談はその辺にするでありんす」


 おタツに叱られたリュウヤは、悪い悪いと軽く言った後、「ま、こんなの要らないんだけどね」と、普通に全身の包帯を取り払った。

 すると、そこからは激しい激闘の後とは思えないような、傷の殆どない身体が現れた。

 上半身の、特に刀の刺さった腹部にはまだ傷が残っていたが、それ以外は跡すら残っていなかった。


「なんと、これは驚き桃の木でござる」

「どうかしたん?無傷じゃ、何かあかんの?」

「無傷なのは良い事じゃよ。ただ、どうして発見された時は致命傷と言われていた傷が、こんな短時間で治っているのか、それが不思議なのじゃ」

「触っても、いいですか?」


 ノエルは言い、リュウヤの身体を触ってみた。

 更に、近くにいたタクマはリュウヤに腕を引かれ、無理矢理触らされた。


「ちょ、何すんの!」

「いいだろ?親友同士、身体触ってナンボだろ?」

「その言い方はまずいからやめ……あれ?」


 そう言いつつも、タクマは触る。すると、何個か残っているデコボコとした小さい傷跡の感触がした。

 やはり、刀の傷が深かったのか、まだ治り切ってはいないようだ。ただ、アコンダリアで付けられた傷は、もう既になくなっていた。


「痛くないですか、リュウヤさん?」

「全然平気よ。今なら普通に、こんな事とか出来るぜ?」


 リュウヤは元気よくベッドから飛び降り、元気の証拠にタクマの前で素晴らしいブリッジをやって見せた。

 だがその時、ブリンと傷口が裂け、そこから噴水のように血が吹き出した。


「リューくーん!」

「やっべ、やっちゃった。アハハ」

「アハハじゃないでしょ。ほら、ガーゼ当てて。もー、息するように血吹き出さないでくれ」


 パニックになりかけたタクマは、母親のような口調でリュウヤの傷口にガーゼを押し付け、床に飛び散った血を拭き取った。


「ねぇ、リューくん大丈夫なん?」

「大丈夫じゃよ。リュウヤは腹切り裂かれても普通に戦えてたから、そう簡単には死なぬ」

「それ、本当に大丈夫なのでござろうか……」


 心配するナノに、メアは笑って言う。

 言われてみれば、確かに切り裂かれても戦うのは本当に大丈夫なのか疑う。

 そうして7人でワイワイ騒いでると、それを見ていたおタツが「そうだ皆さん」と、何かを思い出したように声をかけた。


「朝起きたら、ウチの所にこんなのがあったでありんす」

「手紙?」


 タクマはおタツから手紙のようなものを受け取った。そこには、怪盗の予告状のように「祝勝会 城にて行うから来て リオ」と簡潔に書かれていた。

 それを見たリュウヤは、ハッと口を手で押さえた。


「ヤベ、こうしちゃいられねぇ!吾郎爺、バッグ投げて」

「ほいさっさ!受け取るでござる!」

「サンキュー!じゃ、俺先行くわ!」

「リュウヤ!?まだ血……」


 祝勝会の事を思い出したリュウヤは、まだ出血が収まっていないにも関わらず、漫画のような韋駄天走りで病院の窓から出て行き、そのまま城へ猪突猛進してしまった。

 一瞬の出来事に、タクマ達はパチクリと瞬きを二回した。


「相変わらず、元気な人ですね」

「タクマとおタツ、疲れたりしないのか?」

「疲れるってよりは、逆に元気を貰える奴だよ」


 タクマはリュウヤが開けた窓を閉め、外の景色を見ながら言った。


「さて、ウチらも元気なリュウヤを追いやしょう」



【メルサバ城】

 メルサバ城に入ってすぐ、タクマ達は食事会用の部屋へと案内された。

 そして、部屋が近付いてくにつれ、急激にお腹が空くような美味しい匂いが漂ってくる。


「何でしょうかこの匂い、すごく美味しそうです」

「初めて嗅ぐ匂いや……ああアカン、お腹が減って死にそうや〜」

「そばやうどんと似てはるけど、少し違うでありんす」

「これは部屋の扉を開けてからのお楽しみって奴じゃな。ああ、楽しみじゃ」


 女子達は楽しそうに盛り上がり、リュウヤの作る祝い飯について、何が出るのか想像した。

 タクマは4人を微笑ましく見守り、ゆっくりと会場の扉を開けた。

 するとそこのテーブルの上に、何故か出来立てのラーメンが置かれていた。

 

「あら皆丁度よかった。準備できたから呼びに行こうと思ってた所なの」

「え、もう?リュウヤが出てってから、まだ10分も経っておらぬぞ?」


 とんでもない準備の早さに、メアは驚く。

 するとそこに、最後のラーメンを持ったリュウヤがやって来た。


「いやはや、まさか国を救ってくれるだけでなく、風の噂で聞く日本食までご馳走していただけるなんて、皆様には本当に頭が上がりませぬ」

「いえいえそんな、俺らはただオーブの為に……」

「そんなこと言わずに、偶にはちゃんと褒めてもらいなさい」


 いつものように謙遜するタクマに、ノエルはツッコミを入れる。


「確かに、普通じゃあ国を守るなんて名誉な事は出来ないからなぁ!もっと自分に自信を持ちたまえ!」

「そうよ、男ならシャキッとするべきよ」

「シャキッと……何か似合わぬな」

「どう言う意味だそれ!」


 その時、国王夫妻はハハハと大笑いした。

 そしてそれは連鎖し、会場は11人の笑い声に包まれた。


「それよりリューくん、お腹空いたからもう食っていい?」

「まだまだ。ちゃんといただきますしたらだぞ?」


 待ちきれないナノは、目をキラキラと輝かせ、いただきますの合図を待った。

 新しく幼子が来てくれたお陰か、より一層パーティが騒がしくなった。きっと現実世界では、こんな子と旅なんてしたら、警察に見つかった瞬間即お縄だろう。


「では、ここは拙者が号令致す」

「よっ、待ってたでありんす」

「この匂い、待ちきれませんわ」


 王妃は待ちきれず、ゴクリと唾を飲み込む。


「では、いただきます」

「「「いただきます」」」


 その号令と共に、タクマ達は祝勝ラーメンを味わった。剣崎特製味噌の効いたスープに、メルサバ産の極上野菜、そして高級な肉とコシの入った麺。それらが口の中で合わさり、初めて食べるメア達に激震が走った。

 まさか、ファンシー街でラーメンを食べる事になるとは誰が予想したか。タクマ達は夢中になって麺を噛み締めた。

 しかし、リュウヤは、何処かいつもと違った。ただそれだけ、ナノは見抜いていた。


(リューくん、無理して笑ってる)

 


 ──その頃、α一味もまた、次の作戦を企てようと密かに動き出していた。


「うぇぇぇぇぇん!ひぐっ!ひぐっ!α様、ごめんなざぃぃ!」

「フンっ、あんな異邦人共の逆鱗に触れ、無様にやられ帰るとハ」

『こらこらZ、そうアルルを責めるな。先輩なら、どーんと後輩のミスを受け止めてあげなさい』


 敗北したアルルは、その責任感からか、幼稚に泣き、αの膝にしがみつく。

 そんな風に、ベタベタと偉大なαに触れている事に納得の行かないZは、必死で怒りを抑える形相で睨みつけた。


『そういえば、オニキス君が見当たらないけど、彼はどうしたんだい?』

「オニキスなら、暴れ帰った疲れを癒す為に暴飲暴食して、何処かに行きましタ」

『そうか。本当なら、同期の彼に依頼してもらおうと思ってたんだけどなぁ』


 αは、残念そうに顔を下に向け、アルルの頭を優しく撫でる。そして、うーんと唸った。


「どうかしましたカ?」

『今アルルはこの様子、他の2人は全く来てくれない。だから君にお願いしたいのだが……』

「いえ、α様のお望みとあらば、私は何でも致しましょウ」

『ありがとう。なら、この子にアレを奪ってくれと伝えて欲しい。勿論報酬はたんまり出す、とね』

「承知しましタ、α様」


 Zは、αから受け取った紙を見て頷いた。そこには、女海賊 アリーナの姿が描かれている。

 そして、Zがαの前から帰ろうとした時、αは『そうだZ』と呼び止めた。


『実験の中で、足りない物とかはあるかい?』

「あるにはありますガ、何が足りないのか分かりませン。それがどうかしましたカ?」

『これまでの報酬として、用意しようと思っていてね。君がジェントルマンなら、くれぐれも強引な手は使わないように』

「はい、もし断られた場合、颯爽と立ち去りまス」


 そう言い残し、Zはワープゲートを通って何処かへ消えてしまった。

 その様子をじっと見ていたアルルは、撫でるのをやめたαに目を向けた。そして、「どうしてそんな事を?」と訊いた。


『彼はきっと、イライラしているのだよ』

「イライラ?どうして?」

『きっと、実験が上手く行っていないんだ。何の実験なのかは、プライベートに関わるから聞いてないけどね』

「じっけん?何かよく分かんないけど、お兄ちゃんも大変そうだね」

『……そうだね、アルル』


 αは、一瞬何も言わなかった。アルルはその事が気に掛かったが、αの冷たいようでどこか温かい腕に撫でられた事で全てがどうでも良くなり、αの足元で眠ってしまった。


『残る罪源は6体。さぁ、君は罪源の仮面に対し、どう抵抗するのかな?見せてくれ、タクマ君』

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