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第157話 彷徨いし乙女に鎮魂歌を

「勝った、のか?」


 何が何だか理解できないフラッシュは、仮面を外して、本当に勝利した事を確認する。

 リオも、一緒になって何もない事を確認する。


「そうみたいね。特に悪いものは感じられないわ」

「やったーやったー!タっくん、メアメア、ノエちん!ウチら勝ったで!あの蜘蛛に勝ったでー!」

「ナノちゃんったら、こんなになっても元気ですね」

「今回はナノのお手柄じゃ。よーし、明日はリュウヤに頼んで祝勝会でもするかのぅ」

「あのー、メア嬢様、俺は?」


 全く話題に上がらなかったタクマは、ナノの頭を撫でまくるメアに訊く。

 するとメアは、タクマの方を向き「おーよしよし。タっくんもよーく頑張ったのぅ」と、犬を褒めるように撫でた。

 それにしても、祝勝会か。別に大和の戦いの時にやらなかった訳ではないが、偶には息抜きするのも良さそうだ。


「フラッシュ兵長!ちょっと、話があるのだが、良いか?」

「どうしたデンジ、何かあったのか!」


 フラッシュは、デンジからの伝言を聞く。その間タクマ達は、オーブを取りに瓦礫の山を登る。

 そこには、ピンクのオーブと一緒に、今にも消えそうなくらい体が透けている少女が立っていた。


「どうしたタクマ、その子知り合いか?」

「いや、こんな幽霊みたいな子が知り合いな訳」

「ゆうれい?そんなの何処に居るんや?」

「あーそっか、普通の人には見えないんでしたね」


 メアが歌わなければ、普通の人には見えない。その事を思い出し、ノエルは言う。するとメアは、歌うの?と露骨に嫌そうな顔をしたが、すぐに歌った。

 すると、ナノとノエルはその子の姿が見えたのか、「「ででで、出たーー」」と叫び、抱きついた。


「そういえばこの子、私に似てないかしら?」

「あ、この子アジトの……」


 タクマが言うと、ユリアは桃色のオーブを奪い取り、タクマ達に向かって『来ないで!』と叫んだ。


『これがあれば、私は天国に行けるの!邪魔しないで!』

「天国に?そんな力ありましたっけ?」

「いや、そんなの聞いた事がない。さぁ、オーブを返すのじゃ」

『嫌だ!何が何でも、絶対に天国に行くの!』


 メアが手を出すと、ユリアはその手を払い除け、奥へと逃げてしまった。

 そしてユリアは、オーブに力を込め、天国への道を開こうとする。だが、そんな力のないオーブは、何の反応も返さなかった。

 

『どうして!ねぇ、応えてよ!私の思いに、応えてよ!』

「あのユリアさん。その天国へ行けるってのは、誰から聞いたの?」


 タクマは訊いてみた。すると、ユリアは顔を下に向け、泣きながら『アルル……さん』と答えた。

 

「アルルって、サキュバスのお姉さんやろ?」

「ユリアさん、残念だけどそれに天国へ行く力はないわ」

「お主はラスター解放の為、アルルに騙されておったのじゃよ」

『嘘。じゃあ私は……劇団員の皆や、先代には会えないの……?』


 真実を突きつけられたユリアは、絶望の底に叩き落とされ、更に泣き崩れる。

 胸が痛む。どうする事もできない彼女の苦しみに、何もしてあげられない。そう思う度、己が無力さに腹が立つ。

 

「ユリリン……」

「鎮められない魂に嘘を吹き込むなんて……なんて酷い……」


 ノエル達は、彼女の痛みに触れ、沈黙した。それしか出来なかった。

 鎮魂の力を持っている訳でもなければ、天使様を呼ぶ力もない。

 ん?……鎮魂……鎮魂歌……!


「そうだ、そうですよ!」


 その時、ノエルの中に電流が走り、彼は大声で沈黙を破った。


「ノエル、いい方法思いついたのか?」

「鎮魂歌ですよ!鎮魂歌!」

『れくいえむ……?無理よ、あんなのはただの音楽……』

「……ノエルちゃん、あなた天才よ!」

「リオリオ、ホンマかそれ!」


 ナノが訊くと、リオは強く頷き、メアの手を取った。

 するとその時、リオの目が真っ赤に変わり、二人は青白いオーラに包まれた。


「メアちゃん、霊歌第2章を歌うわよ」

「えっ!?そんな歌妾知らぬぞ?」

「大丈夫、私の後に続いて歌うだけでいいわ」

「自信ないけど、やってみるのじゃ!」


 メアは頷き、大きく息を吸い込んだ。そして、リオとメアは、鎮魂歌を歌った。

 2人の歌声が響き渡る。メアが歌っていた霊歌もそうだったが、この第2章も儚げなメロディだ。アカペラの筈なのに、何処からともなくピアノやハープのメロディが聞こえて来る。

 すると、真っ暗だった街のど真ん中に、不自然な光の柱が降りてきた。


「タクマ君!君のともだ……なんじゃこりゃあ!」

「これは一体、何が起きとるのや?」

『ああ、暖かいわ……』


 フラッシュ達が驚いていると、暖かい光の中から、派手な衣装に身を包んだ仮面集団と、付き添いの天使達が現れた。

 そして、今にも消えそうだったユリアの青白い肌は、生きている人間と同じ、血の通っている色へと変化した。


『嘘、ブライ団長……皆……』

『迎えに来たよ、ユリア君』

「タクマさん、あの人達って」

「ああ、お迎えが来てくれたんだ」


 タクマは、神秘的な光景に目を奪われ、ただそれしか言えなかった。

 付き添いの天使達がユリアの両手を掴み上げ、共に天へと昇る。その様子は、名画にあるような美しい光景だった。誰がどう見ようと、捻くれ者でない限り「美しい」と言うだろう。


「「彷徨える魂よ、逝くべき場所へ、お行きなさい」」


 歌い終えた2人がそう唱えた時、光の奥から大天使が現れた。

 その姿は、メルサバに居る多くの人々が目撃し、そして同時に驚いた。それだけでも驚くべき事だが、なんとその大天使の姿は……


「リオ」

「えぇ、お爺さまだわ」

『いつまでも待たせて悪かった。メルサバに光あれ』

『皆、本当にありがとう』


 ユリアが柱の頂上へと登った時、先代はそう言い残して手をかざした。すると、一瞬カッと閃光が走った後、光の柱は小さくなって消えていった。そして、光の柱消えた時、メルサバ中にユリアの声が響き渡った。


「安らかに、ユリアさん」

「無事に天国行げで、よがっだで〜」

「うぅぅ、涙が止まりまぜん!」


 手を合わせて祈っていると、2人は彼女が無事天国へ行けた事にわんわん泣いていた。それを見ていると、何故か目から水が滴り落ちる。


「俺、こう言うの弱いんだった」

「おうおうタクマ君、何泣いておるのじゃ?」

「へぇ、タクマさんって意外と涙もろいのね」

「だー違う、これは瓦礫の砂埃が目に……」


 タクマは泣いている事を指摘され、何故か意地を張って涙を拭い、腕を取る。

 するとそこには、瓦礫の山が消え、代わりに平和だったメルサバの街が戻って来ていた。

 カフェも噴水も、これまでの戦いが嘘だったとでも言うかのように、爪痕一つなく元通りになっていた。

 

「メ、メメメ、メア。後ろ……」

「何を言うて……へ?」


 メアは振り返り、瓦礫の山を見ようとした。だが、元通りの街があるのを確認するや否や、目を点にして驚いた。


「あれ?霊歌にこんな力はないはずよ?」

「じゃあコレは、何がどうなって?」


 タクマは首を傾げた。すると、横で泣いていた筈のナノが、「はいはーい!ウチ知ってるで!」と元気よく手を挙げた。

 調子のいいメアは、元気なナノに乗り「はいメア、どうぞ!」と声をかける。


「これはきっと、お爺ちゃんの加護やで」

「お爺様の、加護?」

「せや。リオリオの爺ちゃんは、これまでずっとメルサバを見守ってくれてたんや。そしてこれからも、この先もずーーーっと、見守ってくれるで」

「そして、ユリアさんと劇団員達も。ですよね、タクマさん?」

「だといいね。この先も、ずーーーっと」

「そこはせめて断言くらいするのじゃッ!」


 こうして、メアは霊歌の能力が覚醒し、魂を逝くべき場所へと還す《第2章 鎮魂歌》を取得した。

 そして、タクマは5つ目のオーブを獲得した。

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