第14話 紅のオーブと使命
【アルゴ城】
「やっと目を覚ましたか、タクマ君」
玉座の間への扉を開いた時、王はすぐに立ち上がりこちらへ走ってきた。
この大袈裟な感じから、やはり自分は長く眠っていたと思われる。
「ん?それは確か」
「ティグノウスの目の代わりに埋められていたオーブです。ケンさんの話だと勇者伝説のオーブだとか何だとかって……」
タクマがオーブについて聞いた話をしようとした時、王は“勇者伝説”と聞いた辺りで何かを思い出したのか「あ!」と声を上げた。
「ど、どうかしました……?」
タクマは心配したが、すぐに王は「立ち話も難だ、客室に来なさい」とだけ言って、玉座の間を後にした。
タクマが戸惑っていると、メアが肩を指でつついてタクマを振り向かせた。
「玉座の間はこっちじゃ、付いてこい」
「そういや一応ここメアの家だったな、ありがと」
タクマはメアに案内してもらい、無事客室へとたどり着いた。
【客室】
「さぁさぁ、二人とも遠慮せずに掛けてくれ」
タクマ達は用意された椅子に言われた通り座った。
すると、王は用意されたティーポットを持ち、カップにお茶を淹れた。
「ここから北西に位置する大和國名物の緑茶だよ」
『大和國』そのいかにも日本人が考えそうな国名に、タクマは反応した。
「大和國って言うのは、一体何なんですか!?」
「あのタナカトスの子孫が作り上げた国だそうだよ。伝説の地『日本』の文化を取り入れた国らしい」
「ほぉ、香りは別に嫌いではないな」
メアは恐る恐る一口飲んだ。
すると、メアの体に電撃が走った。
「なんとこれは、口の中に広がるこの味はまるで、のどかな草原を彷彿とさせ、甘さは控えめなのに苦くもないこの感じは癖になる!!」
メアは何度もおかわりし、3杯目を飲んだ所で背もたれに倒れて眠ってしまった。
「ハッハッハ、メアは引き籠もっていたにも関わらず、昔と同じおてんば娘だな」
王も笑顔でそのお茶を飲む。
そしてそのカップを置いたと同時に「ふぅ……」と一息つき、王は真剣な目をした。
「大和國と言う言葉への敏感な反応、その服装、そしてコピーと言う謎の魔法。さてはお主、この世界の者ではないな?」
王は鋭い目をしながらタクマに質問を投げる。
タクマは一瞬ビクッとしたが、緑茶を一気飲みして心を落ち着かせ、全て話す決意をした。
「はい、俺は日本ってとこから転生してきました」
タクマは嘘偽りのない目で話した、と言うよりそもそもこれが真実である。
それを聞いて王は「転生……転生……」と繰り返し呟き、天井を見上げた。
そして何か答えが見つかったのか、タクマの方に顔を向けた。
「伝説で聞いた話だと、その転生者は確か神から使命を下しているとの話だが、君は一体どんな使命を?」
「普通の王に扮した魔王を見破り討伐しろ、だそうです」
すると、王はまたうーんうーんと唸りながら考え出した。
「魔王の復活にオーブ……もしかすれば多分アレか?」
王はぶつぶつと独り言を言い出す。
「あれ?もう話は終わったのか?それよりまだお茶は残っておるか!?」
「慌てるな慌てるな、急いで飲んだってお茶は何処にも逃げねぇよ」
タクマは二人に少し呆れながらも、メアのカップにお茶を注いであげた。
そしてタクマが待つ事数十分、王は結論が出たようだ。
「魔王を倒すのであれば、勇者伝説の通りだと8つのオーブが必要になる。しかし、今デルガンダルでは、そのオーブ達が行方不明になっているらしくてな」
すると、何かを察したのかメアは「まさか……」と呟いた。
「あぁ、そのまさかだ。今回の国王会談はその件で招かれたのだよ。長い旅になるだろうが、それでも君は使命を全うするのかね?」
タクマは一瞬考えたが、すぐに首を縦に振った。
「例え長く険しい道だとしても、俺は絶対にくじけないと誓います」
「素晴らしい。よしちょっと待っててくれ」
すると王は、何故か客室奥にある赤いカーテンの方へ向かった。
そしてそのカーテンを開けると、そこには偽アルゴ王が渡すと言っていた5万ゼルン金貨、武器屋自慢の防具と思われる服、良質な投げナイフが置かれた机があった。
「これらは君たちの旅立ち祝い、国を守ってくれたお礼、そしてティグノウス討伐報酬だよ」
「で、ですがこんなに貰ってもいいんですか……?」
タクマは王の方に顔を向けて訊く。
すると、アルゴ王はタクマの肩にポンと手を置いてにっこり笑った。
「勿論だよ。あぁそれと、言い忘れていた」
王はオーブに目を向ける。
「そのオーブは、ヴァルガンナに代わってこの私が君に持つ事を許可する。私はずっと応援しておるぞ」
王がまたタクマの肩を弱めに叩く。すると何故か、制服がボロボロと崩れ落ちてしまった。
「キャッ!何しておる父上、と言うより何が起こったのじゃ!?」
その時、タクマはあの時の事を思い出した。
『馬鹿お主、水を被って何するつもりじゃ!』
『とんでもねぇ無茶だ!』
そうだあの時、無茶して火の中に飛び込んだのを忘れていた。
そりゃ守備力皆無の日本製制服のまま火に飛び込んだ後に衝撃喰らいまくったら壊れてしまう。
タクマは素直にお礼の品である装備を着用したのであった。