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第145話 真実の死神ともう一つ

【メルサバの宿屋 午後7時】

 あれからタクマ達は、午後の捜索などを開始したが、結局何一つとして情報は掴めず、色欲の仮面の事や、蜘蛛みたいな仮面の目撃情報は見つからなかった。

 そうして夜になり、ワンダ国王の奢りで、飯付きのスィートルームに泊まる事となった。


「と言う事だから、今日は何かありがとね」

「ワーハッハ!豪華な夜を存分に楽しむがいいわ!ハーハッハッハッハ!」

「うるさい」


 見送りに来たリオは、いつも通りうるさく高笑いをするフラッシュの腹に肘打ちを入れる。

 そしてすぐ、ごゆっくりと言い残し、城へと帰っていった。


「さて、食事の用意も済んでいるようでありんすし、食べやしょう」

「うむ!拙者、腹がぺこぺこで今にも倒れそうでござる」

「にしても吾郎爺、いつの間に復活したの」


 タクマは、静かにツッコむ。が、吾郎は不思議な事が起きたから大丈夫でござる!と、フラッシュ程ではないが、カッカッカと笑った。

 マズい、フラッシュの勢いが吾郎爺に憑ってしまった。

 それはそうと、タクマ達が案内された部屋を開けると、そこには七人前はあるピザ、ポトフ、バゲット、ステーキ等々、豪華なものがお出迎えをしてくれた。


「こ、コレ全部……俺らの為に?」


 リュウヤはあまりの多さにビビり、目を見開いたままフリーズしてしまう。

 が、その隣では、吾郎とナノが目を輝かせ、早く行くぞと目で合図をした。


「相変わらず食べるのが好きでありんすなぁ」

「でも、腹が減っては何とやらですからね。ワンダ国王のポケットゼルンらしいし、髄まで楽しみましょう!」


 そうして、皆揃って美味しそうに夕食を食べた。久しぶりの洋食。リュウヤの作る和食は右に出る者がいない程の極上物ではあるが、偶に食べるピザやステーキも悪くはない。

 その証拠に、吾郎はステーキの感動的な美味さのあまり、大号泣してまで食べ、ナノに関してはピザのおかわりだけで、もう10皿は食べている。カマンベール、ベーコン、ポテト、まだまだやって来る。

 

「美味いでござる!」

「いや〜、やっぱし凄えなぁ。俺も偶には洋食とか中華挑戦してみよっかな」

「リュウヤが洋食!?」


 タクマはその発言を基に、絵に描いたようなコック服を着て洋食を作るリュウヤを思い浮かべる。

 確かに顔もいいし料理もできるイケメンだが、何かちょっとイメージが合わない。


「そうじゃな、じゃったら妾が幼い頃大好きだったハンバーグとか頼んでみようかのぅ」

「あ、いいなぁ!私も私も!ハンバーグ食べたいです!」

「こらこらノエルちゃん、口にすてーきそーす付いてるでありんすよ」


 おタツは、ノエルが頬につけたソースをナプキンで拭き取る。その様子は、お淑やかなお姉さんとその妹。

 タクマは皆のちょっとした変化を見て、微笑みながらステーキを食べた。



 ──それから数時間後、完食したタクマ達は、明日からもある探索に備え、しっかりと眠りについた。

 時刻は午前0時、外を見ても分かる通り、こんな時間になっても寝ない悪い子以外は皆、大人しく眠っている。そのため、窓から見える光は殆どない。

 あれだけ観光客やらで賑わっていたこのファンシー街も、夜になれば静かな月明かりに照らされた幻想的な世界に早変わりする。

 そんな中タクマは、オニキスから受け取った手紙に指定された場所へ向かおうと、抜足差し足で部屋から抜け出そうとしていた。


(メアとおタツさんに何するかは知らないけど、オニキスに面倒事を起こされたら厄介だ。だから誰もついてこないように……)


 大きく息を吸って、ため息を吐くように息を吐きたいほど緊張するが、あえて口のチャックを完全に閉め、そろりそろりとドアノブに手をかける。

 するとその時、ドン!と何かが落ちるような音がした。一瞬ビクつく。


「んっ……なかなかやりますね、オニキスさん……ぐぅ」


 声からするに、ノエルのようだ。

 タクマはビビって損したと鼻でため息を吐き、やっとの思いで部屋から脱出した。



【宿屋裏】

「……来たか。約束通り一人だな?」

「あぁ、誰も来てない」


 タクマは一瞬後ろを振り返り、誰も来てない事を確認してから言う。

 するとオニキスは、「早く話を済ませる」と言い、ほらよとビー玉のようなものを投げ渡した。


「わっとと、何だこれ」

「……お前らの探索がちょっとは楽になる代物だ。それ覗いて使え」

「何で俺にこんなのを?お前はアイツらとは仲間じゃねぇのかよ」


 タクマは訊いた。するとオニキスは、フンと鼻で笑った後、愚問だなと返した。


「確かに俺はαって野郎の配下になった。けどαは優しい人でよぉ、ちょっと野望を手伝うだけで、何でもくれるし自由に行動しても許されるんだ」

「だから、俺にコレを?」

「あぁ。こうでもしねぇと、身を隠してるボス様とお前の探偵ゲームは、面白くねぇからよ」


 オニキスは頭の後ろで手を組み、気怠げな声でそんだけだ、と言い、帰ろうとした。

 だがその時だった。タクマの後ろから、黒い影が飛び出し、オニキスを襲った。

 オニキスはすぐに剣で攻撃を防ぎ、影の主が露わになる。


「な、ナノ!何で来たんだ!」

「やっと見つけたでオニキス!いや、アナザー!ご主人の仇、今度こそ逃さへんで!」


 オニキスは、ナノを見るなり、不良のような目つきで睨みつけた。そしてすぐに視線をタクマに向け「約束と違うぞ?」と言った。


「こ、これは違う!勝手に着いてきたんだ!」

「だがこのウサギ娘、お前の仲間だろ?お前一人で来いと言ったはずだ」


 オニキスは言う。

 するとナノは、とぼけるオニキスに腹を立て、ハンマーを思いっきり振り下ろす。

 だが、地面にドゴンとぶつかる前に、剣で防がれてしまった。


「テメェ、いくつだ?」

「冥土の土産に教えてやるで!ウチは12歳や!」

「そうか、そうだったか」


 そう言うとオニキスは、ハンマーを弾き返し、奥に後退した。

 そして、ローブのような羽織のポケットから、一本の包丁を出し、それをナノの足元に投げた。


「何のつもりだオニキス」

「……やれよ」

「何やて?」

「言っとくが、俺はアナザーじゃねぇ。けど、俺に恨みがあるってんなら好きなだけ復讐しろ」


 オニキスは両手を広げ、今すぐにその包丁で刺せと言うように話した。

 ナノは、一瞬アナザーじゃないと言う言葉に驚くが、躊躇う事なく包丁を手に取った。


「やめろナノ!何されるか分からんぞ!」

「やれよ。何のことか知らんが、俺に恨みがあるんだろ?ほら、早く」

「……タっくん、止めないで」

「だが、忘れるな。もしここで俺を殺したら、今の俺よりも、もっと重いモン背負う羽目になるぞ。お前はまだ12、ここで一生消えねぇモン背負うか、そのまま大人しくおねんねするか、じっくり考えろ。答えくらいは聞いてやる」


 オニキスは言う。そしてふと、ナノを見てみると、ナノは迷っているのか、包丁を持った手ごとガタガタと震えていた。

 一生消えない物、それが怖いのだろうか。分からないが、躊躇っているのは事実だ。


「どうした?俺は今死ぬかもしれない、質問くらいは一問だけ答えてやるぜ?」

「アンタ……ナルガ帝国の事知ってるか?」


 ナノは、今にも泣き出しそうな震えた声で訊いた。

 ナルガ帝国、去年の夏、彗星によって滅んだ国の事だ。その破片が、オニキスの使う 〈クリムゾン・クロー〉と酷似している事で、オニキスを疑う原因となった国。

 だが、オニキスは知ってるとも知らないとも答える事なく、「そんな国あったな」と他人事のように返した。


「オニキス、本当に知らないのか?彗星落下の事とか、アナザーの事とか」

「知らんな。俺はオニキス・キング、人殺しはしない。故に、国滅ぼしのアナザーとは別物だ」


 オニキスはキッパリと言った。その口調や声の大きさから、嘘でない事は感じ取れた。

 ただ、肝心のナノは、まだガタガタと震えていた。

 するとオニキスは、無理矢理ナノから包丁を取り上げ、自分にそれを刺した。


「あ……」

「オニキスお前!」


 腹から血が垂れる。そのショッキングな場面を見て、ナノは気絶してしまった。


「ったく。俺の体はどうしちまったのか。死のうとして刺しても、こうやってすぐ傷が塞がっちまう。代わりに腹が減るけどな」

「ナノ!ナノ!オニキス、お前は一体、何のために……」

「だから言ったろ?目的は然るべき時話す。ゲームを楽しくする為、お前にソイツを渡したって」


 オニキスはため息を吐きながら包丁の刃を折り、その場に捨てた。勿論、包丁の先には血がベットリと付着している。

 そして、去り際に、「あ」と呟いた。


「お前、約束破ったから、罰としてタヌキ娘とトカゲ娘に迷惑かけてやるから、覚悟しろよ」

「な、何するつもりだ!」

「それは明日のお楽しみだ。何たって俺は、お前らにとって大迷惑な存在だからな」


 そう言うとオニキスは、壁をすり抜けるようにして、何処かへ消えてしまった。

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